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39 フォールゴールド4 会いたくて


 ジオの契約は結婚。そして守り人は契約で不老長寿となる。

 イヴィが庭園の脇に立つ白い建物にいた、という事が気になったリーフは、ジオに訊ねた。


「彼女は、精霊界に住んでるの?」


「イヴィは数年おきに人間界に住んだり、精霊界に住んだりだね。守り人が精霊界に住むのは大変だから、あまり良い環境とは言えないのだけど」


「やっぱり人が精霊界に住むのは難しい……?」


「そうだね。ほとんどが空に浮かぶ孤島だから、人は退屈してしまうよ。どこへも行けないから」


「……うん」


「人間界には長く居られないから仕方なく、だね。かつては二人で旅をしたこともあったけれど、今はこの町に落ち着いているよ」


「……あの! ぼくは、ぼくの守り人のテラと一緒に、他の精霊と守り人も一緒に、森林地帯に住もうと思っていて。場所は、森林地帯の真ん中。あの場所にしたいと思ってるの。ぼくは、守り人が定住できる村を作りたくて」


 リーフの言う『あの場所』とは、エルナス森林地帯の中心部にあるセイヨウトネリコの巨木がある場所であり、精霊界と人間界を繋ぐ唯一の入口がある場所でもある。


「それはすごいね。森林地帯の真ん中に独りだとさすがに生きていくのは難しい。だけど、何人かと一緒ってことなら……。でも……守り人は、まずは、森林地帯の真ん中まで歩いて行かなければならないよ」


「うん。中心部へ続く一本道を作るわけにはいかないから、ぼくの力でその場その場で、進む道を確保して、通った道が分からないよう痕跡を消しながら……」


エルナス森林地帯は人を寄せ付けない未開の地。だからこそ、手つかずの自然が残り、中心部にあるセイヨウトネリコの巨木も人知れずに存在してきた。


「そうだね。中心部まで少なくとも20日はかかるだろう。中心部に辿り着いても、そこから食料などの調達……居住……畑などを作るにしても、外との関わりを全く遮断して生活するのは不可能……。定住地として機能するまでには時間がかかる。けれど……リーフはもう、決めているんだね?」


「決めてる。ぼくの守り人、テラのために、定住できる場所をテラに……。ぼくが不老不死にしたから、どれだけ時間がかかっても……必ず」


「そうか……。君の覚悟と決意、私も応援するよ。定住地、イヴィも興味あるでしょう?」


「ええ! ずっと人間界で暮らせて、他の守り人さんたちも一緒だったら安心だし、寂しくない……これが実現すれば、本当にすごいことね」


 イヴィは定住地の話を聞いて、目を輝かせていた。不老長寿である彼女にとっても、定住できる場所は夢であり希望だ。


「ぼくは精霊と守り人が長く暮らせる村にしたくて。だから住人が増えるのは大歓迎なんだ!」


「うん、精霊と守り人が長く暮らせる村、ぜひ実現してほしい。私の力が必要な時があれば、遠慮なく言ってくれて構わないよ。協力は惜しまないからね」


 ジオはまっすぐにリーフを見つめ、共感と期待を込めた眼差しで優しく微笑んでいた。




「そうだ、ジオ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」


「私が分かることなら何でも」


「オドントグロッサムという花なんだけど、ジオの町の近くで咲いているところはある?」


「オドントグロッサム……そうだね、確か……アウリス地方側の森林地帯の端の山岳かな……。リーフはオドントグロッサムが欲しいの?」


「ぼくの守り人の誕生日が近くて、誕生花だから贈りたいと思ったんだけど、近くにはないから……」


「なるほど。君の大切な守り人に贈りたいんだね。そういうことなら、ちょっと待ってて」


 ジオは柔らかな金の光の粒を全身に纏うとすぅっと消えてしまい、そして、3分ほど待っていると、光と共にジオが現れた。


「お待たせ。これでどうかな? あまり多くは咲いていなかったから、3本だけなのだけど」


 ジオの手には斑紋が入った美しいオドントグロッサムの花が握られていた。


「すごい! 摘んできてくれたの!? すごく嬉しい! ほんとにほんとに、ありがとう!」


「どういたしまして。……私はね、代替わりはいつでもいいと思っていてね。

 君にその時が来たら、すぐにでも代替わりしていいんだ。期限まであと約100年ほどあるけれど、私が精霊王になって、もう2,900年経っているんだ。

 君の準備ができたら、その時が来たら、いつでも。だから、待っているよ、リーフ」


「うん、わかった……。期待に応えられるか……いや、あの、期待に応えたいと思うけど、それがいつになるかは自分にも分からないけど……待っていて、ジオ。

 ……色々教えてくれてありがとう。この世界で唯一のぼくの守り人、テラを、これからも大切にする。お花もすごく嬉しかった。ジオと会えて、話せてよかった。……ほんとにありがとう」


「私のほうこそ、リーフと話せてよかったよ。ヘリックスも、付き添いをありがとう」


「私、ほんとに付き添ってただけね。でも、来てよかったわ」


「ヘリックスには今後もリーフを見守ってくれると。それじゃ、そろそろ人間界に戻ろうか」




 リーフは思い出していた。

 初めて泣いた日の事を。テラが言った言葉を。


『与えてばかりのあなたが辛い時は、私が抱きしめるよ』


 ぼくが『もてなす』存在であるなら、テラは擦り減ってしまうぼくを温かく優しく包んでくれる、この世界で唯一、ぼくを『もてなす』存在。


 そんなテラに会いたくて会いたくて、いますぐ会いたくて。




 リーフとヘリックスは、テラとファル、リモの帰りを宿の部屋で待っていたのだけれど、テラの気配を近くに感じたリーフは居てもたってもいられず、宿の窓から飛び出してテラの所まで飛んでいった。


 テラの姿を確認したリーフは姿をテラと同じ背丈に変化させ、テラの目の前に降り立ったと思ったら、そのままテラに勢いよく飛び込んで、腕をぎゅっと回した。


「テラ! お帰り! 会いたかった!」


「リーフ! どうしたの? 何かあったの?」


「ううん、何もないよ。テラに早く会いたくて、飛んできた……」


「そう? 何もないならいいんだけど」


「リーフはテラと離れて寂しかったんじゃないのか?」


ファルはリーフの良き理解者で気持ちを代弁してくれる。


「でもまだ夕方、と言うには早いくらいの時間だし……」


「離れてた時間は関係ないのよ、ね。リーフ?」


リモが言うとさすがに説得力があった。


「……早く会いたくて。たぶん、寂しかった……」


「そっか。ゆっくり買い物してたから……ごめんね、寂しい思いをさせちゃったのね」


 テラはリーフの顔を覗き込みながら、にっこりと微笑んだ。


「今からふたりでお散歩に行こうか?」


 テラはリーフの手を優しく握った。恋人つなぎだ。


「じゃ、じゃあ、イチョウの木の広場に行きたい!」


「ふふっ、イチョウの落葉がとても綺麗だったものね」


「俺はリモと宿に戻ってるから、リーフは公園デート楽しんでくるんだぞ!」


 ファルはいつものように、いたずらっぽくニカッと笑っていた。





 リーフとテラは手を繋いで広場へ行き、テラがベンチに腰掛けると、リーフはテラの隣にぴったりと寄り添って座った。


「ファルったら、公園デートって。別にいいんだけど」


「テラと公園デート……」


「ふふっ。そうね。リーフと公園デートよ」


「嬉しいな。公園デートというのは、恋人同士が公園でお散歩したりベンチに座ってお話することだって、ファルが教えてくれたの」


「ええっ!」


「え? 違うの?」


「違くはないけど……」


 ええ……どうしよう、これ、否定していいの!?


「けど?」


「ち、違わないよ、うん。あ、でも、これから恋人になるかもってパターンもあるかしら」


 あれ? 私、墓穴掘ってない?


「そうなんだね。テラと公園デート……これから恋人になる……」


「リーフは……恋人って知ってる?」


「恋人は、ファルとリモだよね。恋人同士だって」


「そうね、間違ってないよ」


「うん!」


 間違ってないけど、私とリーフが恋人というのは

 ちょっと違うかなぁ……リーフは本当に分かってるのかしら?

 リーフはとっても可愛いんだけど……


 ファルとリモは愛してるって言ってた。

 ぼくは『愛してる』がよく分からないけど、恋人になったら分かるかな?

 今度ファルに聞いてみよう……



「そ、それにしても、すごくキレイね! ファル達と市場に行ってきたんだけど、行く途中の道もイチョウの木がいっぱいで、イチョウの紅葉がちょうど見ごろで。とても綺麗だったのよ」


「イチョウ、きれいだね……ねぇ、テラ。ちょっと、小さくなるけど……」


「うん、どうしたの?」


 リーフが5歳児くらいの大きさにしゅるしゅるっとサイズダウンした。


「すごく眠くて。少し、寝ていいかな……」


 そう言ったのと同時に、テラの太ももあたりを枕にするようにして、コロンと寝てしまった。


「!!」


 この大きさ、ローズヒップ採取の時以来よ!

 なんて天使なの……!!



「……でも、どうしたのかな。こんなふうに小さくなったのって初めてだし。よほど疲れてたのかな? 守り人探しで力をたくさん使ったのかしら……?……いっぱいがんばったのね。リーフ」


 テラはニッコニコで、リーフの柔らかなふわふわの白銀の髪を優しくそっと撫でていた。



 広場のイチョウの大木はまるで微笑んでいるかのように、黄金色の葉を優しく風に揺らし、そんなふたりを見守っていた。


 30分ほどの時間が過ぎ、日が傾いて寒くなったので、5歳児リーフを起こさないようにそろりと抱っこして宿に戻ったテラは、『天使を抱っこしちゃったわ!』とそれだけでもう大満足で、暫くにんまり顔が収まらなかった。


『刻まれた花言葉と精霊のチカラ』

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

次回の更新をお楽しみに!

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