表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/135

38 フォールゴールド3 精霊界


 ――精霊界ヴェルデシア。

 異空間にある精霊界へは、精霊たちはどこからでも行ける。ただ、「ヴェルデシアへ」とつぶやくだけでいい。行きたい場所の名前を付ければ、その場所へ瞬時に行けるのだ。

 ただし、人間界で精霊が戻る場所は宿る場所。あるいは依り代になる。



「ここが、ジオ・グローヴ・ガーデン……」


「ジオ・グローヴ・ガーデン。私も初めて来たわ」


 透き通った水を湛える美しい池、色とりどりに咲き誇る花々、イチョウの木に囲まれた自然豊かな庭園。その庭園のそばには洋風の真っ白い小さな建物が建っていた。

 アカンサスの精霊によって造られたこの建物は、石と木を用いた堅牢な構造で、アーチ型の入り口と窓が特徴的。屋根はとんがり帽子のような形をしている。


 精霊界の空に浮かぶ孤島の中で、最も美しいと云われる島のひとつ、ジオ・グローヴ・ガーデンだ。



「いらっしゃい。それじゃ、あまり時間も無いから、早速だけれど、ちょっと昔の話をしようか」


 ジオは穏やかに静かに、語り始めた。




「約1,400年前の大飢饉は知ってるかな。私の精霊王就任から、1,500年ほどが経っていた頃だったよ。


 人間界は日照り続きで水不足からの不作が2年、3年と続くような状況になっていたんだ。

 そんな自然災害の前には力が及ばず、一揆など人が及ぼすものは言うまでもなく、精霊の私にはどうすることも出来なかった。


 大地を統べる精霊王になると、この大地、大陸すべてを己の力の影響範囲に含めることが可能になる。そして私は生命力と繁栄の象徴で、大地を伝ってこの力を発揮するんだ。


 植物の生命力を極限まで高めることで、飢饉をなんとか凌ぐことが出来たのは1年、1年半ほどで、水不足のため不作が続き、自然災害が大きくなってしまった。

 いくら生命力を高めても、水不足の前に限界があるのは火を見るよりも明らかだった。


 その頃、空を統べる精霊王が数年間不在だったために、飢饉のさなか、オレガノの精霊カルバが急遽抜擢され、就任した。


 カルバは自然の恵みを象徴としていて、飢饉の中でのその守り人の奮闘と活躍は素晴らしいものだったよ。もちろんそれは、カルバの協力があってのことで、精霊界は空を統べる精霊王として、カルバが適任と判断したんだ。


 天候を操る力を得たカルバは、飢饉の大陸全土に雨を降らせた。

 ただ降らせばいいというわけではなく、適正な地に適正な量の雨をコントロールしながら降らせ続けたんだ。

 空を統べる精霊王にはそれが出来るからね。

 そうして乾いた大地は潤いを取り戻し、私も思う存分に力を使い、ようやく飢饉は去ったんだ。


 この出来事があって、精霊王の不在期間を作ってはならないと考え、精霊界の意志で、次期精霊王となるべく精霊、霊核を生むことが決まった。

 そして、精霊王の代替わりは最大で約3,000年ごとに行い、もうすぐ私が期限を迎え、代替わりする。

 もちろん、もっと早くに次期精霊王にふさわしい精霊が誕生すれば、3,000年でなくてもいいんだけれどね。

 次期精霊王がいる、ということが重要なのだから。


 どんぐりが選ばれた理由は、長寿や永遠、成長や発展、保護や安全安定、自然の豊かさと繁栄、生命と豊穣、これらのあらゆる象徴であり、生態系の健全なバランスを維持して、困難に対する耐性や逆境を乗り越える力もある。

 どんぐりは多面的に、広範囲にカバーできる力を擁するからだよ。


 これだけ広範囲に象徴を持つものはどんぐり以外に見当たらない。次期精霊王として大地を統べるのにピッタリなのはどんぐり以外に考えられない。

 精霊界はその大いなる成長の可能性に賭けたんだ。


 代替わりの期限まで約1,000年となった頃に君が誕生したのは、1,000年の時間を経て成長を遂げてくれれば、と考えたからだったんだ。


 私は大地を統べる精霊王として、飢饉が起きないようもちろん努力したけれど、結果的には力が及ばず、己の力のなさに打ち拉がれたよ。

 もっと多面的に色んな事が出来たらと何度願ったか分からない。

 そして、精霊王の不在がどれほど痛手だったか、二度とこんなことが起きてはならない、起こしてはならないと誓ったんだ」


 ジオは深い思いを込めて語り続けた。

 そしてリーフは、じっとその話に耳を傾けていた。


「精霊、霊核は完成された状態で生まれるけれど、どんぐりの君は未完成で生まれたね。成長する君は、その可能性をどこまでも広げられるし、広げてほしいと願った。


 ただ、未完成で生まれた故に、君は酷く傷ついて、隠れてしまった。不安定で儚くて脆かったね。

 精霊界はずっと君を見守っていたんだ。

 正直なところ、一時はどうなるかと冷や冷やしていたけれど、今、君がこうして私に会いに来たということは、とても良い方向に向かっているからだと思うんだ。


 そうでなければ、会いには来ないだろう?

 君から会いに来てくれた、これだけで十分だ。


 君がこの自然界すべてを包み込む『永遠の愛』で『もてなす』存在であるなら、君に自信を取り戻させてくれた人はこの世界で唯一、君をもてなすことが出来る『特別な存在』だ。

 この世界で唯一の君の守り人を大切に。そうすれば必ず、君は君のあるべき姿になれるから」


 ジオの言葉はリーフの胸に深く深く響いた。




「この世界で唯一、ぼくをもてなす特別な存在……」


「ああ、そうだ。私の守り人を紹介しておこうかな。ちょっと待っててくれるかい?」


 ジオは庭園の脇に立つ白い建物に入っていくと、若い女性と共に腕を組んで仲睦まじい様子で現われた。

 ふたりは寄り添うように腕を組み、視線を交わすと、お互いが幸せそうに穏やかに微笑んでいた。


「紹介するよ。私の守り人でありパートナーのイヴィだ」


「こんにちは。初めまして、ジオの守り人でイヴィというの。よろしくね」


 イヴィは淡い茶の長い髪に、濃い茶の瞳、清純で淑やかな印象の可愛らしい女性だった。


「イヴィと私は結婚しててね。結婚したのはそれほど昔ではないのだけど。彼女は不老長寿なんだ」


「けっ、結婚!?……人と?」


 リーフは結婚と聞き、目を見開いて驚いていた。


「イチョウの精霊の私は守り人が必要なわけでもなく、血が必要というわけでもないんだ。ただ、彼女を愛したから。だからイヴィに懇願したんだ。私と共に生きて欲しいと。もちろん、結婚と言っても精霊と人だから、人同士みたいに手続きなど無いのだけれど。

 私の契約は、契約時に一度だけ血をもらって守り人を不老長寿にする。でも、守り人は"人"だから。愛する女性と共にいたいなら、プロポーズしないとだろう? 人の習慣に合わせるのも大切なことだと私は思っていてね。私と契約するということは、それは結婚なんだ」


 ジオは柔らかな笑みを浮かべて、イヴィを優しく見つめるのだった。


『刻まれた花言葉と精霊のチカラ』

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

次回の更新をお楽しみに!


【どんぐりの花言葉】

「永遠の愛」と「もてなし」


【守り人であるテラの誕生花の花言葉】

テラの誕生日は、12月29日。誕生花はオドントグロッサム

花言葉は「特別な存在」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ