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36 フォールゴールド1 次期精霊王

 

 2人の守り人と3人の精霊の歩き旅は、ノーサンロードを南へと順調に進み、ウェストクロスを出発して5日目のこの日。山間の宿場町、フォールゴールドに到着した。


 この町はいたる所にイチョウの木が植えられており、黄色に色づいたイチョウの落葉が美しい初冬の町を黄金色に彩っている。


 冬めく冷たい風が吹き抜ける中、黄色い落ち葉がカサカサと音を立てて道端に集まっていた。その中を、テラたちが宿を探してゆったり歩いていると、通りかかった広場の中心にある立派なイチョウの木が、突然、パッと目に飛び込んできた。


 太陽が沈みかける空は朱色に染まり、影が長く伸びる広場の中心に立つイチョウの大木が、黄金の葉を煌めかせている。


「わぁ! とても立派なイチョウ! この町はイチョウがいっぱいだけど、この木が町のシンボルなのね」


 テラが立派なイチョウに感嘆の声をあげ、その広場を横目にしばらく進んだ先で、小さな宿が目に留まった。


「今日はあの宿でどうだ? ほら、ちょっと先に見えてる」


 少し先のほうに見えていた宿まで歩き、宿の正面まで来て立ち止まった。


「可愛らしくて落ち着いた雰囲気の宿ね! 空いてるか聞いてみようよ」


 テラとファルは宿に入り、宿主に尋ねると、幸い二部屋の空室があり朝食付きだという。夕食は別料金だけれど注文可能だと知り、迷うことなく二泊を決めた。もちろん夕食付きだ。


「腹減ったし、荷物置いたら食堂に行こうぜ!」


「ええ。久しぶりの食堂でのご飯、楽しみだわ。どんな料理があるのかしら!」


 テラとファルはそれぞれの部屋に荷物を置いた途端、リモを連れて食堂へと足を進めた。

 ちなみに、部屋分けはリーフとテラとヘリックス、ファルとリモだ。




 部屋にはヘリックスとリーフが残っていて、テラはしばらくは戻ってこないため、この機会を待っていたかのようにヘリックスはリーフに話しかけた。


「ねえ、精霊王リーフ」


 その呼びかけにリーフは驚いて振り返り、ヘリックスに問いかけた。


「!!  もしかしたらって思ってたけど、やっぱり知ってたの」


「ふふっ。知ってたわよ」


「でも、ぼくはまだ、精霊王じゃないよ」


「いまはね。でも、精霊王になるわ。900年前、精霊王になるべく、精霊界の意志として生まれたのよ。大地を統べる精霊王の世代交代。世代交代の象徴である私が知らないわけがないでしょう? それに、精霊ならみんな知ってるのよ? リーフは自分が知られている存在だって自覚していないみたいだけど。一度も精霊界に来ないし、ずっと隠れて過ごしていたから知らなかったのでしょうけど」


 そう言ってヘリックスはにっこりと微笑んでいた。


 ヘリックスは、リーフが精霊王になるべく精霊界の意志として生まれた特殊な精霊と知っていただけでなく、『大地を統べる精霊王』の世代交代を見守る精霊でもあった。

 リーフと共に旅をしようと思ったのは、興味本位だったのもあるのだけれど、その成長を見守るためでもあった。


「分かんないよ。ぼくはまだこの姿のままだし。これじゃ精霊王にはなれないもの」


「たしかに、そうね。テラは……」


「テラは知らないの。テラには言わないで」


 かつてのリーフの守り人、ライルには最初から言っていたけれど、テラにはまだ言っていないことがあった。

 それはリーフが、大地を統べる精霊王になるべく生まれた精霊であり、次期精霊王だということ。


「どうして言わないの? 羽だって隠してる」


「ぼくがまだ成長できてないから……あの羽も似合わないし……」


 ライルと過ごしていた頃のリーフは精霊王の羽を隠しておらず、ライルを失ってリーフが神殿ごと隠れた際に、羽も隠してしまった。羽はリーフの力でケープに形を変えていた。


「でも、力はとても強いようよ? どんぐり精霊のままで、それだけの力があるのに。数日前には更に力が解放されたわよね」


「……やっぱり、気付いたよね」


「気付くわよ。よかったじゃない?」


「あの力の解放は……ぼくがぼく自身を縛っていたもので。テラが、解いてくれたの……」


「ふふっ。それに、リーフは最近、積極的になったわ。今まで完全な受け身って感じだったけど」


「そう、かな……」


「定住地探しのエルナス森林地帯の話も、まさかリーフから話を切り出すとは思わなかったわ。ファルを誘っていたし、みんなに『これからも一緒に』って。今までのリーフなら、黙ってたか、積極的に誘ったりはしなかったと思うのよ。リーフは自信がついたのね。それはやっぱり、テラのおかげかしら」


 リーフの胸に広がる温かな感覚。それはテラの言葉が彼の体に深く沁み込んだから。

 リーフは少し目線を落として、少しはにかみながら答えた。


「テラが言ったの。ぼくの光は温かいって。それが嬉しくて」


「そう。……リーフの光が温かいのは、それはリーフがどんぐり精霊で『もてなし』からくる光だから。寛容と慈しみの光は温かで、それはリーフそのものなの。どんぐり精霊でよかったわね」


 ヘリックスは優雅に微笑み、リーフの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「ぼくはどんぐり精霊でよかったのかな」


「もちろんでしょ。胸を張っていいわね」


「ぼくは今まで、どんぐり精霊であることを良かったなんて思ったことが無くて。でもテラが……ぼくの守り人でよかったって。幸せって言ってくれて……」


「ふふっ。テラを大切にしないといけないわね」


「と、当然だよ!」


 リーフを見つめるヘリックスの優しい視線の先には、リーフへの深い理解と共感が宿っていた。


「それはそうと、気付いてる? この町」


「ここはイチョウの町フォールゴールド、イチョウの精霊、大地を統べる精霊王ジオの町だね」


「会っていく?」


「…………うん......そうだね……。ぼくはまだ、会ったことが無いから……」


「さっき通った広場の中心にあったイチョウの大木。あのイチョウよ」


 ヘリックスは今までにないくらい、にこやかに微笑んでいた。その微笑みにはどこか安堵感が含まれているようだった。


「うん。ありがとう。テラには内緒で行くから、そのときはテラのこと、お願いしていいかな」


「ええ、もちろんよ」


 ヘリックスはリーフがジオに会おうと決めたことを、とても嬉しく、好ましく思った。

『次期』大地を統べる精霊王であるリーフが、『現』大地を統べる精霊王に会う。自信がなければ出来ないことだ。一度も精霊界に来ずに、精霊王の羽を隠し、800年間も隠れて過ごしていたリーフが、ジオに会うと決めた。

 世代交代を見守るヘリックスとしては、これほど嬉しいことはなかった。


「明日、ジオに……会いに行くよ」


 そしてリーフは、このイチョウの町フォールゴールドで、『現』大地を統べる精霊王、イチョウの精霊ジオに会うことを決意するのだった。


いつも『刻まれた花言葉と精霊のチカラ』を読んでいただき、ありがとうございます!

次回の更新をお楽しみに!

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