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35 テラの好奇心

 

「私が寝ている間に、そんなことがあったのね」


 リーフは、ファルとリモとヘリックスの契約について詳細な部分は省きつつ、おおまかな話の流れをテラに説明した。


「スターチスの精霊、花言葉から想像すると……リモはファルのことを忘れないし、ずっと変わらずにファルを愛しているのね。そしてファルもそんなリモを愛しているんだわ。ふたりは恋人って言ってたし、50年離れてても愛し合っているのね! ずっと変わらずに愛し合うなんて、とってもステキだわ! 羨ましい~!」


 詳細は省いたのに……テラは気付いちゃうんだもの。それに、羨ましい? 羨ましいってどういう……


 テラのテンションの高さに理解が追い付かないリーフは、ヘリックスの守り人の話に切り替えた。


「えっと……ヘリックスが守り人を探すから、それは協力しようと思ってて」


「精霊には守り人がわかるものね」


「うん。ちょっと離れてても匂いを感じるからね」


「わかったわ。そのときは教えてね。こっそり近づいちゃう?」


「はは。それじゃ守り人を驚かせちゃうよ」


「そうだわ。ヘリックスの依り代はファルが持ってるのよね。依り代に入ってると外の音とか声とか? 聞こえたりするの?」


「? 意識して聞こうとしなければ、何も聞こえないよ。依り代の中は静寂で何も無いの」


「そうなんだ、なるほど……」


「??」





 一緒に旅をする仲間が増え、2人で始まった旅は5人になった。

 山の風景は少しずつ冬の気配を強くして、雪こそまだ降らないものの、山肌には霜が降り始め、葉の色は鮮やかな秋から褐色へと移り変わりつつある。吹き抜ける風は冷たく、乾いた空気が肌をかすめるたびに、頬がじんわりと赤く染まるのが分かる。

 けれど、5人はワイワイと楽し気に南へと進んでいく。


「風が冷たい……もう冬ね……うぅー寒っ……」


「テラ、どうかな? これで、温かい?」


 リーフはテラを温かくしてあげようと、肩に乗った小さい姿のまま力を少し開放した。


「ありがとう。そうだ、私の服の中に入れてもいいかな」


 テラは小さな姿のリーフを胸元に入れた。現代で言うところの使い捨てカイロのような扱いをされるリーフだった。


「ふふ。ぽかぽかあったかいわ」


「おお! リーフ、いいところに入ってるじゃないか! よかったな! 柔らかくて気持ちいいだろ?」


 いきなりそんなことを言われ、テラは顔を真っ赤にしてファルに抗議する。


「なに言ってるの、もう! 変な事言わないで!」


「別に変な事じゃないだろ? ほんとのことじゃないか」


「リーフはそんなこと思わないのよ!」


 吹き抜ける風が冷たさを増す中、彼らの会話は旅路の寒さを吹き飛ばすように賑やかだった。



「…………」


 ファルとテラのやり取りに、何も考えていなかったリーフは呆気に取られていた。

 胸元の位置からテラを見上げると、テラの顔が真っ赤になっているのに気が付いた。そんなテラを見たのは初めてで、リーフは全く意識してなかったのに、ファルのおかげで意識してしまった。


 いいところに入ってる? たしかに……柔らかくて温かくて、肩に乗るよりこっちのほうがいいね! 安定してて楽だよ! 教えてくれてありがとう、ファル!



「ごめんね、テラ……ファラムンドはいつもこうなの。こんなところが大好きなんだけど」


 リモが恥ずかしそうに微笑んで、蕩けるような目をしてファルを見つめていたので、テラはおなかいっぱいな気分になった。


「あ、うん……御馳走様です……」


「あなたたち、なんだか楽しそうね」


 ヘリックスは、ファルたちのやり取りを楽しそうに見守っていた。



 テラに抗議されたファルはフンッと顔をそむけ、不満げにヘリックスへと小声でぼやく。


「リーフとテラにはもう少し羞恥心ってものが必要なんだよ。あんなんじゃ、いつまでたっても変わんねーだろう? なぁ、ヘリックス?」


 ファルは顔をそむけつつも、納得いかない様子でヘリックスへ正論をぶつける。


「ヘリックス、なぁ、聞いてるか? テラは意識しなさすぎだよな? 少しは恥じらいってもんを持たないと! じゃないとあのふたり、永遠にあの調子だぞ?」


「聞いてるわよ。確かにそうよねぇ……」


 ふむ――。顎に手を当て、首を傾げながら、ヘリックスは前を歩くテラの後ろ姿をじっと見つめるのだった。





 夕方になり、野宿の場所を決め、いつものようにリーフのテントが作られるのだけど、テントをいくつ作るかリーフはちょっと迷っていた。


「ヘリックスはひとりでいいの?」


「私は依り代で寝るから、テントはいらないわ」


「そっか。依り代でも十分というか、ぼくたちは本来は依り代で寝るからね」


「そうよ。たいていは、精霊が自分の守り人を誇示するために、守り人のそばにいて一緒に行動するけれど、守り人がいたとしても、精霊は依り代に入っててもいいわけで」


「はは。それもそうだね。じゃあ、テントはふたつでいいのかな」


「ええ。それでいいわよ」


 リーフの自然の緑のテントがふたつ作られ、壁も作り、テラとファルは食事の用意をする。リーフもテラも、もちろんファルも慣れたものだ。


 5人で焚火を囲んでいるとき、テラがどうしても気になっていたことを、身を乗り出すようにしてリモに訊ねた。


「ねぇ! リモとファルの出会いが聞きたいわ! ファルとはどんな馴れ初めなの?」


 リモは優しく目を細め、懐かしむように口を開いた。


「ファラムンドはとってもいい匂いがするの。精霊を幸せにする匂いっていうのかな。だから色んな精霊がファラムンドに契約を申し込んでたの」


「あー、俺は子どものころから親の仕事、行商人だったんだが、そのおかげで各地を転々としてたんだ。そしたら行く先々で精霊が俺の所に現れてな。よくわかんねーから契約しなかったけど」


 リモが嬉しそうに微笑みながら補足する。


「精霊の間ではファラムンドは有名だったの。各地を転々としている、すっごくいい匂いがするフリーの守り人がいるって」


「ファルは精霊にモテモテだったのね。それでリモと契約したのは……」


 ファルは躊躇なく言い切った。


「俺の一目ぼれだ」


「わぁ!! 一目ぼれだなんて! 何人もの精霊が契約を申し込んだのに契約しなくて、リモに一目ぼれで契約だなんて! ファル、見直しちゃったわ」


 ファルはちょっとムッとしたようにテラを見た。


「なんだよ、見直したって!」


 リモはくすりと笑いながら、懐かしむように、ちょっと恥ずかしそうに付け加える。


「ファラムンドは私とすぐに契約してくれたの……一目ぼれした! 契約してくれ! って」


「精霊によって契約方法は違うわよね。リモの契約方法ってどんななの?」


「!!」


 リーフは言葉も出ない。


「ふふっ」


 ヘリックスはリーフの反応を見て思わず笑ってしまう。


「こうするんだ」


 ファルはリモを優しく抱き寄せ、愛おしそうにリモに口づけをして見せた。


「説明したらいいじゃない、ファラムンドったら、もう!」


「見たほうが早いだろ」


 きゃー! ファルったらすっごい優しく愛おしそうにキスするのね!! いつもふざけてるファルが素敵に見えたんだけど! 私がドキドキしちゃった!


「契約はキスなのね! スターチスの花言葉、知ってるのよ。愛し合う契約だから、キスは当然よね! すごく素敵!! なんてロマンチックなの!!」


 テラは目を輝かせて恋人同士のふたりを見つめていた。テラはまだ15歳の女の子、恋人同士というワードがワクワクすぎて好奇心をかき立てられるのだった。


「テラは女の子だからコイバナが好きなのよね」


 ヘリックスが微笑みながら言うと、テラは待ってましたとばかりに身を乗り出した。


「ええ、ヘリックス! 私、コイバナ大好きよ! すっごく聞きたい!」


「それじゃ、今夜は女同士の話に花を咲かせる? リモはどう?」


 リモは少し驚いたように目を丸くしたのだけれど、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。


「楽しそう! 私、そういうの憧れてたのよ」


「ぜひ!! ふたりの話を聞かせて!」


 すると、焚火の向こう側から、ファルとリーフの間から漏れた呆れたような残念がる声が聞こえた。


「「ええぇぇ…………」」


 特にファルは50年ぶりに再契約をしてからの初めての夜。リモと夜を共にと思っていたのにと残念至極、ガクッと肩を落としたのだった。



 その夜、女性陣のテントからは、キャーキャーと楽しげな声が響き渡り、テラの好奇心が爆発したかのように、話題は尽きることがなかった。


 その一方で――。

 ファルとリーフの男性陣のテントでも、密かにコイバナが始まっていたのは言うまでもない。リーフはかなり頑張って起きていて、ファルの話を興味津々で、そして時折、恥ずかし気な表情で聞いていたとかいないとか――。


いつも『刻まれた花言葉と精霊のチカラ』を読んでいただき、ありがとうございます!

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