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29 リーフとファル

 

 一方、リーフとファルのテントでは、リーフと語りたい元気いっぱいのファルと、血を摂取してファルのテントにやってきたリーフが対峙していた。


「リーフ! 今朝はありがとうな!」


「うん、あれはテラだから……ごめん……眠くて」


 血の摂取をしたリーフは眠くて眠くて仕方がない。でも、さすがに速攻で寝てしまうとファルに悪いと思ったため、かなり頑張って起きているのだけど、限界は近いようで。


「もう寝るのか? せっかく男同士の話ができると思ったのに」


「ほんと眠くて……」


 今にも寝てしまいそうなリーフの気を引くために何かないか……ファルは一瞬考え込んだ後、突然顔を輝かせた。『そうだ!』と、リーフの興味を引きそうな話題を思いついたのだ。


「なあ、リーフ。女の子を喜ばせる方法、知ってるか?」


「……え? 女の子を喜ばせる方法?」


 眠くて仕方ないリーフだったけれど、ファルの話にちょっと興味が湧いて、顔を上げた。


「ああ、そうだ! 俺は220年生きてるからな! なんでも知ってるぜ! テラを喜ばせたくないか?」


「220年? ファルはそんなに生きてるの? それで、テラが喜ぶ方法を知ってるの?」


 テラが喜ぶと聞いて、リーフは俄然興味が湧いた。閉じてしまいそうだった瞼はしっかり見開いて緑色の瞳がうっすらと光を帯びていた。ファルの思惑どおり、さっきまでの眠気はどこへやら、といった具合だ。


「ああ。一番は、贈り物だな!女の子は贈り物されると喜ぶんだ! 特に花は最初の贈り物としてピッタリだぞ!」


「お花! ぼくもテラからお花もらってすごく嬉しかったよ!」


「なんだ、テラからもらったのか?ちゃんとお返ししたのか?」


「え……お返し??……何か返すの?……お返しって、なに?」


 リーフは戸惑ったように首を傾げ、まるで困った子どものような表情を浮かべた。


「……ああ……」


 リーフの思いもよらぬ返答にファルは頭を抱えて、どうしたものかと考えた。


「もうひとつ聞くけど、もしかして、そのリーフの青いペンダントってテラからもらったのか?テラの瞳の色だもんな」


「うん、これもテラがぼくにくれたの」


「もちろんお返しは……」


「……何も返してないけど……お返しって……」


「……はぁぁぁ……」


 ファルは思わず肩を落として、深いため息をつく。


 リーフはペンダントにそっと触れながら、上目遣いにファルの顔をチラリと見た。


 ファルのガッカリとした残念そうなその表情から、リーフは自分が至らないんだと理解すると、テラの瞳の色に似たペンダントを握りしめて、しょんぼりと視線を落とした。


 ファルはそんなリーフの様子を確認すると、ここで押さないとだな! とニヤリと口角をあげる。


「花をもらって、ペンダントももらった。リーフは物を貰っただけじゃなくて、テラからその時の気持ちを貰っただろう? 何の意味も無く、花を贈ったり、自分の瞳の色のペンダントを贈ったりしないはずだぞ。それを貰った時、リーフは何か感じたんじゃないのか?」


「とても嬉しかったよ。

 花には花言葉があって、すごくピッタリで、ぼくの宝物になったの。

 ペンダントもテラとお揃いで、お互いの瞳の色が嬉しくて。

 ……テラはね、ぼくのこといつも考えてくれてて、とってもとっても優しくて、ぼくを抱きしめて温めてくれるの。

 ぼくはそれがすごく落ち着くから、ぼくもテラを温めたいって思ったの。

 だけど……昨日まではテラを抱きしめられずにいた……。

 でも、ぼくの光が温かいって分かったんだよ!

 これからはぼくがテラを温められるの!だから本当に本当に嬉しくて!」


 リーフが珍しく饒舌に話をするのでファルは少々驚いたけれど、テラの事を話すリーフの表情がとても嬉しそうで、少しはにかむ笑顔を微笑ましく感じた。


「なんだ。分かってるじゃないか」


「分かってる? なにを?」


「テラが抱きしめて温めてくれる、それがとても落ち着く。だからリーフも同じように温めたいって思ったんだろう? 同じ気持ちになってもらえたらって思ったんだよな? それがお返しだよ」


「これがお返し……そっか……。ファルは、よく知ってるんだね」


「今まで抱きしめられずにいたってのは、体温が無いからか?」


「うん……。ファルは、精霊に体温が無いことも知ってるの」


「まあな。で、だ。リーフはテラのこと、本当に大好きなんだな!」


 ファルはリーフの目が輝いているのを見て、思わず微笑む。

 眠気でぼんやりしていたのに、テラのこととなるとこんなに熱心になるのか――と、腕を組みながらニカッと笑った。

 それはリーフの反応を楽しんでいるようで、その目にはちょっとしたいたずらっぽさが宿っていた。


「好き? テラのことを?」


 リーフはきょとんとして、ファルの言葉を何度か頭の中で繰り返した。

『好き』という言葉が、自分の気持ちとどう結びつくのか――それを考えたことはなかった。


「そうだぞ。テラのこと、好きなんじゃないのか? 俺から見れば、リーフはテラが大好きに見えるけどな。テラのために何かしたいって思えるってことは、それはもう『好き』だろう?」


「…………」


 リーフはしばらく考えた。テラとの毎日を、テラの言葉や温かさを、思い返す。

 一つ一つの記憶をなぞる。そして自分を包み込むような存在感。

 それが『好き』という気持ちに繋がるのだと、初めて気付いた。


 そして、辿り着いた気持ちを言葉にした。


「うん。ぼく……テラが好きだよ。すごく……好きだと思う……」


 リーフは『好き』という言葉を口にしながら、自分の中で何かが変わるのを感じた。


「すごく好きか! じゃあ、お返ししなきゃな。好きな相手なら尚更だ。まずは花を贈るといいんじゃないか? テラから花もペンダントも貰って、気持ちを貰っただろう? だから、ちゃんとお返しするんだ。受け身ばっかりじゃダメだぞ。気持ちを込めてしっかりアピールするんだ。君が好きだよ! ってな」


「気持ちをもらったら、ちゃんと返す……受け身ばっかりじゃだめ……わ、わかった!! 明日、テラに贈るお花を探すから、手伝って!!」


「おう! 手伝うよ! 任せとけ!」



 リーフが言う『血の匂いが好き』は嗜好であり、リーフは嗜好的な『好き』しか知らなかった。

 そもそもリーフは人を含めた生物に対して、好意を寄せるなどと考えたことすら無かった。


 リーフはどんぐりの精霊であり、生まれ乍らにして『もてなす』存在。それが根幹である以上、守護すべき対象に守護(愛)を注ぐけれど、それが好意という感情からくるものであるはずがなく、守護対象を好きか嫌いかで見ることは無い。


 それはリーフが、自身の立場と力をよく理解しているからとも言える。


 ヘリックスの言っていた通り、リーフは『どんぐり精霊』という型にハマりすぎていたのかもしれない。


 しかしリーフは、テラに対しての気持ちが『好き』であることに気付き、初めて嗜好ではない『好き』を認識した。こんな自分が、初めて誰かへの特別な感情を抱いている――それが不思議で、でも気持ちよくてぴったり収まった感覚がした。



 ぼくはテラが好き。そっか……。ぼくはテラが大好き。こんなにしっくりくる言葉があるなんて。どうして気付かなかったんだろう……?


 テラに対する好意を自覚したことでリーフの霊核がほんのりと温かみを増し、テラを想えば想うほどに体の奥底から穏やかな気持ちと安堵感が広がっていく。



「ありがと、ファル……明日……いっしょ……zzzZZZ」


 リーフは安堵した途端に瞼がどんどん重くなり、夢の世界へ吸い込まれていった。


「あらら、寝たのか? 仕方ないな。……おやすみリーフ」



 ファルは眠っているリーフを見つめながら、ふと疑問に思った。


 そういえばどうしてリーフはこんなに小さいんだろう?  俺は何人もの精霊を見たけど、こんな小さな精霊は見たことが無い。しかもリーフは姿を変えられる。そんな精霊、聞いたこともないんだよな。

 それに、精霊は生まれた時から完成されてる。ようは大人なんだが、リーフはまだ子どものようなんだよな。……そういえばずいぶん前にリモから聞いたことがあったか……。なんて言ってたかな。

 たしか…………


「ファル? 起きてる?」


 テントの外からテラの声が聞こえた。


「おう、起きてるよ。どうぞ、入っていいぞ」


「ごめんなさい、リーフ寝てるよね?」


「ああ、もう寝てるよ」


「リーフとお話できた? リーフは血を摂取したらすぐ寝ちゃうの。だから、話せたのかなって思っちゃって」


「いや、ついさっきまで起きてたよ。眠いって言ってたけどな」


「ついさっきまで? そうなの? リーフ、頑張って起きてたのね。あ、私は日課の用事があって。リーフにおまじないをね」


「日課のおまじない?」


「ええ。私が子供の頃、寝る時に母さんがしてくれてたおまじないなの」


 テラは寝ているリーフのそばにそっと座り、リーフの白銀の髪を優しく撫でると、おまじないの言葉を囁いた。


「今日よりもっと幸せな明日が待ってるわ、おやすみなさい、リーフ」


 その声は穏やかで優しさに溢れていて、柔らかな指先がリーフの前髪を分けると、おでこに軽いキスをした。


 その様子を眺めていたファルは、なんだか懐かしいようなくすぐったいような気持ちになった。


「ほんとに母さんみたいで、俺の母さんを思い出しちまった。それ、ずっとやってるのか?」


「リーフが初めて大きな姿になった日からだから……1か月半、もうすぐ2か月くらいになるかしら。リーフにはいつも幸せでいてほしいの。それじゃ、ファルもおやすみなさい」


 日課のおまじないを済ませたテラは、足早に自分のテントに戻って行った。

 テラの足音が消え、テントの中には再び静けさが戻った。


 ファルはリーフの寝顔を見つめながら、この小さな精霊の謎を考えていた。


『テラは親性脳に振り切ってるし……まったく、リーフもテラも手がかかるな……』


 そう心の中で呟きながら、彼もまたゆっくりと眠りについた。


『刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜』

最後まで読んでくれて嬉しいです!ありがとうございます!

次回もリーフとテラの物語をお楽しみに!

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