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23 子孫繁栄の加護

 

 焚き火を囲む夕餉のひとときは、笑い声が名残惜しそうに揺れる焚き火とともに幕を閉じ、片付けも済ませ、リーフとテラ、ヘリックスとファルはそれぞれのテントへと戻った。


 夜空には星が散りばめられ、無数の光が瞬く中、焚き火の名残の炎が微かに揺らめきながら、冷えた大気に溶け込んでいく。


 ヘリックスとファルのテントでは、契約を交わしたばかりの二人が言葉を選びながら、慎重に重要な話を進めていた。

 ランタンの柔らかな明かりがテント内の空気を包み込み、その光とともに声が低く反響し、静寂の中で不思議なリズムを生み出していた。



「ファル、契約のこと、説明しておくわね」


 ヘリックスは優しい声を紡ぎながら、彼の目を真っ直ぐに見つめた。


「ああ、よろしく頼む」


 ファルは落ち着いた口調で答え、軽く頷いた。


「若返りについてはもう分かったと思うけど、もうひとつあるのよ。それは世代交代よ」


「そうだな、世代交代って言ってたよな」


 ファルは小さく頷きつつ、記憶をたどるように答えた。


「分かりやすく言うと、ファルが子どもを持つまでが契約よ。子どもを持てば契約は自然に消滅するわ。私はあなたの家族が代々続くよう、子孫繁栄、世代交代を見守る。これから7代先まで私の加護が続くわ。私は契約した守り人の子孫繁栄を保証するの。若返った姿は、契約解除しても老けたりしないから安心していいわ」


「契約解除しても若返った姿はそのままなのか。ヘリックスの加護はすげーな……。そして、俺が、子どもを持つ……子孫繁栄……そういうことか……」


 ファルは軽く眉をひそめながら考え込み、やがてふと視線を上げて尋ねた。


「ところで、ヘリックスはそれで何の得があるんだ?」


「あなたは守り人でしょう。守り人の血を絶やさないのはとても重要な事よ」


 ヘリックスは小さく笑みを浮かべ、静かに答えた。


「なるほど。そりゃ重要だ。今は守り人の数も減っているからな」


 ファルはその言葉に、深く納得するように頷いた。

 守り人同士で結婚し子どもが生まれれば必ず守り人として生まれるけれど、そうでなければ守り人が生まれる確率は低くなる。今は昔ほど守り人の数も多くなく、守り人は減る一方だった。


「手首に私の紋が刻まれたでしょう? 子どもが生まれたら契約が消滅して紋も消えるけど、加護はそのままだから安心して。ただ、結婚相手を見つけるとか、そういうのは手助け出来ないし、事故で死にそうになってもそれは助けられないわ。普通に生活して、結婚して。子孫繁栄の加護で必ず子宝に恵まれるわ」


 ヘリックスはその説明を終えた後、優しく微笑みを浮かべてファルに視線を向けた。


「……ああ、わかったよ」


 しばらく考え込んだファルは深く息をついた後、静かに頷いて決意を込めたように答えた。


「だから、私から離れても大丈夫よ。一緒にいる必要は無いの」


 ヘリックスはさらに言葉を続けた。


「いや、俺はヘリックスと過ごしたいから契約したんだ。契約するときにも言ったが、俺は守り人であることに誇りを持ってる。ヘリックスは俺を必要とすることは無いのかもしれない。けど、話し相手くらいは出来るぜ」


 そう言ってファルはニカッと笑いながら言葉を締めくくった。

 精霊と共に過ごす時間を大切にしたい、ファルの気持ちは変わらないのだ。


「そうね、でも、自由に恋愛してよ? むしろそうしてくれないと困るのよ。そのために若返ったんだし。あ、テラはダメよ? テラはリーフのものだから」


 ヘリックスは半ば冗談めかしながらも、しっかり釘を刺すように微笑んだ。


「あはは。テラはまだ子どもじゃないか」


 ファルは肩をすくめて笑っていたのだけれど、すぐにヘリックスのじとっとした視線に気付き、苦笑いを浮かべた。


「あなたも外見はずいぶん幼くなったわよ?」


「俺は中身だけはいい歳したおっさんだからな! そんな心配はいらないよ」


 ファルは自分の胸を軽く叩いて笑い飛ばした。


「それに、リーフはテラに惚れてるだろ。見てたら分かるよ。リーフのことは俺に任せてくれ! 俺はこれでも昔はモテモテだったんだ」


 ヘリックスは声を立てて笑った後、目を細めて楽しげに返した。


「ふふっ モテたのは精霊に、じゃないの? ファルの血の匂いってすごく精霊好みだと思うわ」


「ははは。まあな!」


 ファルは頭をかいて豪快に笑い、その場の雰囲気を一層和らげた。

 が、笑顔を見せた直後、少し表情を引き締め、ヘリックスに向き直った。




「それはそうと……ヘリックスに言おうかちょっと迷ったんだが……あの場所を通りかかったのは偶然じゃなくてな。はっきり場所が分かってたわけじゃないが、守り人を探している精霊がいることは知ってたんだ」


「そうなの?」


 ヘリックスは驚きつつ、ファルの言葉に耳を傾けた。


「前に俺が契約してた精霊が突然現れてな。ノーサンロードを南下して行くと守り人を探している精霊が居るからって教えられて」


 ファルの言葉には少し懐かしさがにじんでいた。


「前に契約してた精霊って誰なの?」


 ヘリックスは少し身を乗り出しながら尋ねた。


「……あー……えっと。俺は実はもう220年くらい生きてんだ。その精霊とは訳あって離れたけど、そいつとは俺が22歳のときに契約して。俺は不老になって150年くらい一緒に過ごした。で、離れて、俺は年をとって、今なんだ」


 22歳のまま150年、どおりでね。そういうことなら……

 ヘリックスは心の中で納得しつつ、静かに目を細め、そっと言葉を重ねた。


「スターチスの精霊?」


「そう。スターチスの精霊で名前はリモって言うんだ」


 ファルの声には、どこか懐かしさと切なさが混じっていた。


「永久不変。でもどうして離れたのかしら? そのままでもよかったでしょう?」


「分からないが……俺を自由にしたかったのかもしれないな」


 ファルは少し遠くを見るように視線を落とし、静かに続けた。


「自由に?」


「俺、子ども好きだからさ。あっちこっち行ったけど、行く先々で子どもらと仲良くなって、遊んで。子どもがいたらいいよなっていつも言ってたからな。……俺、長男でさ。歳が離れた弟や妹たちの面倒をよくみてたんだ。だから、思い出してね。可愛いなって」


 ファルの口元には自然と微笑みが浮かんだが、その目には淡い寂しさが垣間見えた。


「リモは人の気持ちを引き立てるから。それでファルのことを想って離れたのかしら」


「そしたら、離れて50年も経ってるのに突然現れたんだ。そしてヘリックス、君と出会った」


 ヘリックスはその言葉を受け止めながら、静かに考えを巡らせた。


「急に現れたのも、ファルのことをずっと記憶しているからよ。それにしても……」


 ファルの話を聞いて、ヘリックスはちょっと引っ掛かることがあった。

 ヘリックスの言葉が途切れる中、ファルは真剣な眼差しを向けた。


「俺は若返ってヘリックスに再び長い時間を与えてもらった。俺は守り人として、それに報いなきゃいけないと思ってる」


 真剣な眼差しでヘリックスを見つめ、ファルは守り人として決意を固めた。


 ヘリックスはファルの真剣な眼差しを受け止め、しばらく沈黙が続き、その静けさの中で、ヘリックスにはある考えが浮かび上がった。



 実は私のところにもリモが来たのよね

 もうすぐここに年配の守り人が通りかかるから契約してあげてほしいって

 だけど、どうやって現れたのかしら?

 ファルのところにも、私のところにも?

 精霊はそんなにあちこちを移動したりしないわ。

 リモの性質を考えたら、なおさら変だわ。


 もしかして……


いつも「刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜」を読んでいただき、ありがとうございます!

次回も楽しんで読んでいただけると嬉しいです!

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