表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―  作者: Tomi
第三章『歪み』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

155/166

152 ヘリックスの交渉術

 

 エルナス森林地帯での三日目の朝。

 リーフたちは皆で畑に出かけ、今日も一日、農作業に勤しむことになっている。


 よく晴れた空は澄んで、どこまでも青く高く、心地よく優しく頬を撫でる爽やかな風は秋の訪れを感じさせた。



 セイヨウトネリコの色付きは、最初に見た時よりも目に見えて進んでいた。


「セイヨウトネリコは今日も美しいわね。山は気温が下がるから、色付きが早いのかしら」


 テラはセイヨウトネリコを見上げ、満足げに独り言をつぶやいた。

 それは季節の移ろいにしては、どこか早すぎる色付きだった。



 ◇ ◇ ◇



 リーフたちが朝いちばんにやって来たのは、種が蒔かれてある麦畑だ。


「昨日蒔いていた麦、今から成長させてみるね」


 リーフは力を使い、10メートル四方の区画に蒔かれた麦の種を一気に成長させた。

 そこには、黄金色の穂をたわわに実らせた、収穫時期の麦畑が誕生した。


「スゲェな! これを収穫したらひと冬は越せるんじゃないか!?」


 ファルは目を見開いて、キラキラと輝く麦畑に目を見張った。



「どうする? 先に刈り取ってもいいし、そのままにして耕す?」


 リーフが尋ねると、ファルは少し考えてから答えた。


「そうだな……俺は隣の区画を新たに耕すから、テラはとりあえず刈り取ってくれないか? そのほうが効率がいいだろう?」


「そうよね。……わかったわ!」


「しかし、依り代に入れられるくらいの機械か……いや、手動でもいいが、作業が楽になるような物があるといいんだがな」


 ファルは腕を組んでうーんと唸るように思考を凝らしていた。



「大丈夫よ。そんなに大きな畑じゃないし、私、頑張るから!」


 テラは肩をぐるぐると回して、やる気十分だ。


「ああ、こっちが終わったら刈り取り手伝うんでな! お互い頑張ろうぜ!」


 こうしてテラとファルは二手に別れ、作業を進めることとなった。



 ◇ ◇ ◇



「それじゃぼくたちは昨日と同じように、野菜を植えて収穫ってことで」


 リーフはリモとヘリックスと共に、昨日ジャガイモや人参、玉ねぎを作った野菜畑の区画へと向かった。


 何度も成長させては掘り起こした区画だけれど、リーフの力のおかげで土が痩せた感じは全くなく、むしろ光の残滓が宝石のように煌めいていた。


「今日はどうするの? またジャガイモ?」


「ヘリックス……またって。でも、どうしようかな。あまり作りすぎてもね?」


 リーフが少しばかり迷っていると、後ろから声がした。



「保管庫は出来てるわよ?」


 声の主は、突然現れたカスタスだった。

 昨日は急に背後に現れてビックリだったリーフも、二度目となれば特に動じることもなく、自然にカスタスへ問いかけた。


「カスタス、保管庫ってもう出来たの?」


「ええ。地下の保管庫は出来ているわ。昨日、作業小屋の地下に造ったのよ。見に行ってみる?」


「うん、行くよ! でも、せっかくなら、ここにある野菜を持って行きたいんだけど……」


 リーフは置いたままになっている野菜たちに目を向けた。

 昨日収穫したジャガイモ、人参、玉ねぎが、籠いっぱいの状態で置かれたままになっている。



「そうだわ。カスタスって荷車は作れないのかしら?」


 ヘリックスが期待を込めた眼差しで、カスタスを見つめた。


「荷車?」


「荷物が運べたらいいのよ。木で作れない? やっぱり無理かしら……。カスタスは建物は得意だけれど、車輪がある荷車は難しいわよね?」


 ああ残念、というような空気を振り撒いて、ヘリックスは少し大げさにしょぼんとして見せた。


「荷車は作ったことは無いけど、水車を作ったことはあるわ。私が作れないわけがないわよね。私はカスタスよ?」


 カスタスの誇らしげな物言いに、ヘリックスの口元が無意識にニヤリと歪んだ。


「それじゃお願い出来るかしら。この野菜を運びたいのだけど、重くて大変なの」


 ヘリックスは籠いっぱいのジャガイモと人参、玉ねぎを指差した。


「まあ、見ていなさい。ふふっ」


 カスタスが山側の斜面に目を移すと、紫の瞳が光を帯びた。


 太い木の枝が数本、スパッと木の幹から切り離されたと思ったら、枝が空中でカスタスの手の動きに合わせてくるくると回転し、必要な形に切り分けられていった。


「まずは車輪ね」


 カスタスが軽く手を払うと、丸く切り出された木片が自然に組み合わさり、軸を中心に滑らかに回転し始めた。


「次は荷台」


 細い枝が板状に伸び、ふわりと重なり合って頑丈な荷台を形作っていく。


「はい、完成。試してみて?」


 その声と同時に、荷車はふわりと地面に降り立った。

 荷車は大人が4人ほど座れそうな十分な大きさがあり、野菜を運ぶのは全く問題なさそうだった。



「すごい……もう出来ちゃったの!?」


 リモは驚いて目を見開いた。


「さすがね、カスタス! やっぱりカスタスは精霊界一ね!」


 ヘリックスはしっかりと褒めちぎった。


「ふふっ。これくらいお安い御用よ」


 カスタスは出来上がった荷車を手で触り、出来栄えを確認してご満悦だ。



「それなら、もう一台お願いできるかしら? テラとファルのところにも必要だと思うの。それと、余った材料でいいのだけど、可能だったら木の樽や桶は作れないかしら」


「確かに一台だとちょっと不便よね。樽や桶は簡単よ。端材で作れるわ」


 にっこりと微笑んだカスタスは、ヘリックスの追加注文を快く引き受け、再び力を使った。


 荷車二台と樽二つ、桶四つが、カスタスの手によっていとも簡単に出来上がり、これで荷物運びが無事、解決することとなった。


 ヘリックスとカスタスのやり取りを聞いていたリモは、少々呆れたような眼差しでヘリックスを見つめていた。



 ◇ ◇ ◇



 荷車にジャガイモと人参、玉ねぎをどっさり載せ、リーフたちはゾロゾロと作業小屋へと移動した。


 作業小屋の位置は、テラとファルが耕している麦畑とリーフたちの野菜畑の中間あたりで、距離にして約20メートルほど離れている。


 木造の小屋の中には広々とした作業台が設置されており、作ったばかりの樽や桶をそこへ運び込んだ。

 

 地下に造られた保管庫は、壁も床もしっかりとした石造りで、広さは二十畳ほどある。

 備え付けの棚は頑丈で、多少重い物でも問題なく置けそうな立派な造りだった。



「ジャガイモや人参、玉ねぎなどはここに保管しておくといいわ」


「荷車まで作ってくれて、本当に助かったよ。ありがとう、カスタス」


 リーフがペコリと頭を下げると、カスタスはどこか愉快そうに目を細めた。


「そもそも精霊は力仕事なんて出来ないものね。力持ちでもないし、物を持ったことが無い精霊だっているくらいよ? こうしてあなたたちが手足を動かしている事自体、笑っちゃうほどおかしなことなんだから」


 言いながら、カスタスは笑いを堪えるように口元に手を添えた。


「それを言われると、ちょっと……」


 カスタスの指摘に、リーフはちょっぴり気まずさを覚えた。


「でも、それだけ本気だって分かってるわ。だから、協力しているのよ?」


 カスタスはリーフたちが自ら畑仕事を進んでやっていることに好感を持っていたし、感心もしていた。

 さすがに、荷車を引く精霊王を見ることになるとは夢にも思っていなかったけれど。

 だからこそ、協力をしたいという気持ちにもなる、というものだ。



「うん。ありがと、カスタス……あの……」


 リーフは言おうかどうか迷いつつも、言葉を続けた。


「それで……まだ連絡が無いんだけど、気になってて。どうなってるのかな。カスタスは知ってる?」


 リーフはセイヨウトネリコが気になって仕方がなかった。

 巨木の色付きは、一日目よりも目に見えて進んでいる。

 数日中に連絡が来るという話だったのに、まだ音沙汰がない。



「全ては知らないわ。私は詳しくは聞いていないの。でも、数日中と聞いているし、それは間違いないはずよ」


「そうだよね。やっぱり、待つしかないかな」


「そうね。恐らくあなたを呼ぶときは、あなただけじゃなく、フラクシス、もしかするとジオとカルバ、そしてアンリム。ヘリックスとリモも呼ばれるかもしれないわ」


「アンリムって、最古の精霊のひとりの……」


 リーフは知識としては知っていた。

 アンリムは最古の精霊のひとりで、白いキンギョソウの精霊である。


「ええ。アンリムが呼ぶことになるそうよ。だから、その時まで待つのが賢明ね」


「それは、予知しているってこと?」


「それは分からないわ。でもアンリムがタイミングを計っているとみていいんじゃないかしら」


「そっか……」


 リーフは何かを考えるように、顎に手を添えて俯いていた。



「ねぇ、カスタス? 私もヘリックスも呼ばれる可能性があるということなの?」


 リモはカスタスとリーフの話から、自身の呼ばれる可能性に驚いていた。


「リモ、私も詳しくは知らないの。でも、可能性はあると思うわ」


「精霊界から呼ばれるなんて。しかも、アンリムに呼ばれる? 考えてもいなかったわ」


 カスタスとリモのやり取りを聞きながら、ヘリックスは確信していた。

 やはりアンリムが予知していて、すべて分かった上で、動いているのだ――と。



 ◇ ◇ ◇


 

 保管庫の中で精霊たちだけの会話が繰り広げられていたところに、外からテラの声が聞こえた。


「リーフーー! いるーー?」

 

「あ、野菜を荷車に置いたままだった……忘れてた!」


 リーフたちは会話を中断しバタバタと慌てて保管庫から外に出ると、そこにはテラとファルが立っていた。


「おお、保管庫にいたのか。リーフ、これ、運ぶんだろう?」


「うん、そう。保管庫に運ぼうと思ってて」


「重そうだからな。俺が運ぶよ。それにしてもこの荷車、なかなか良いな! これもカスタスが作ったのか?」


「ええ。荷車は二台作ったから、あなたたちも使ってね」


「それはすげぇ助かるよ! やっぱ手に持って運ぶのは限界があるもんな」


 ファルはジャガイモの籠を抱え、スタスタと保管庫の階段を下りて行った。

 ひんやりとした空気感と土の匂いが漂う、石造りの保管庫に、ファルは初めて足を踏み入れた。


「ほぉ! これはすごいな! 広さもあるし、冬が来ても大丈夫そうだ」


「わあ、ちょっとひんやりしてて、根菜なんかは長持ちするわね」


 テラは抱えていた人参の籠を棚によいしょっと置いた。

 その横に、ファルもジャガイモの籠を並べて置いた。


「あとは玉ねぎだったか」


 すると、リーフが玉ねぎの籠を抱えて石の階段を下りて来た。


「ええっ! リーフ、重いだろ? 大丈夫か?」


「これくらいなら大丈夫。テラよりこっちのほうが軽いよ?」


「……リーフ? そうかもしれないけど、それって言う必要あるのかな?」


「? 比べたほうが分かりやすいよね? どっちが重いかって」


 ファルはギョッとしてリーフに目配せをしながら、小声で話しかけた。


「リーフ、そこは謝っておくほうがいいぞ……」


「? ごめんなさい……?」


 リーフはいまいち分かっていなかったのだけれど、ファルがそう言うのだから、と素直に従った。


「もういいわ!」


 リーフはやっぱり相変わらずだわ。

 なんて思いつつも、そんなところが可愛いのよねと、ついニマニマしてしまう。

 リーフの天然無垢さがいつまでもそのままでありますように、とテラは密かに願うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ