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刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―  作者: Tomi
第三章『歪み』

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151 暮らしの灯

 

 窪地を一周してきた一行は、ヘリックスの家に寄り、描いたばかりのファルの地図を見ながら今後の話し合いをしていた。



「これからどうする? まずは畑を耕すのが最優先かな?」


「そうだな。最優先は食料の確保! だよな」


 テラもファルも、依り代に一カ月分ほどの食料があるけれど、それが尽きれば後が無い。

 尽きる前に食料の確保をするのは、当然ながら最優先事項だった。



「私、麦の種はイーストゲートで手に入れたのよ」


「おおっ。俺も麦の種は買ってあるぞ!」


「じゃあ、まずは麦畑を作るってことでいいかな。麦は大事だものね!」


「ああ、麦畑があると、ここで生活してるって感じがするよな! 根菜もいくつか買ってあるぞ。植えたら増やせる!」


「ふふっ。なんだか、いよいよ本格的にここでの暮らしが始まるって感じ!」


 テラはワクワクして、満面の笑みがこぼれた。



「それじゃ、あなたたちが畑を耕している間に、私は作業小屋と保管庫を造っておこうかしらね」


 カスタスが少し得意げに話した。


「ほんとか! それは助かるよ!」


 ファルは前のめりになって、嬉しそうに感謝の気持ちを口にした。


「ぼくは植えられそうな野菜を先に植えておくよ。人参や玉ねぎ、ジャガイモなんかがいいよね。収穫してもしばらくは保管庫に置いておけるから」


「ありがとう、リーフ! それじゃ、私たちは午後から麦の畑を耕そう!」


「了解だ。頑張ろうぜ、な!」


 テラとファルは拳を突き合わせ、改めて気合いを入れた。



 その様子をニコニコと見ていたリーフは、リモとヘリックスに向き直ると、二人に協力を仰いだ。


「リモとヘリックスは、ぼくが成長させた野菜を収穫してくれる?」


「!? わ、わかったわ、リーフ!」

「私もなの?……まあ、いいけど……」


 まさかのリモとヘリックスも役割を与えられ、畑作業に同行することになった。



 ◇ ◇ ◇



 昼食の後、テラとファルは農器具を手に、畑の予定地へと繰り出した。



「麦の畑って、まずは耕せばいいのかしら」


「そうだな。土を掘り起こしてふかふかにするんだよな、リーフ?」


「うん、それでいいよ。耕したらそこに種を蒔いてみて。そこまでやってくれたら、後はぼくが成長させるから」


「よっしゃ! 任せとけ!」

「私も頑張るわ!」



 テラとファルに麦畑を任せ、リーフとリモとヘリックスは根菜を植えるために、8つある区画のうち、一番遠くにある区画に足を運んだ。


「ちょっと待ってて。この木に少しだけ手伝ってもらうから」


 リーフは手で土を掘り起こす代わりに、すぐそばに立っている木の根を操作して土を柔らかくしていた。


「リーフ、何してるの? 土が動いてるみたいだけど!?」


 リモは変な物を見せられている、と言わんばかりに顔をしかめていた。

 目の前で、まるでモグラがモコモコと動いているかのように、土がモコモコと波打っているのだ。



「えっと、根を使って、土を柔らかく……」


「……根を使って?」


 リモにはちょっと意味が分からなかった。


「うん、こんな感じでいいかな。で、まずはジャガイモを植えようかなと……」


 モコモコ波打っていた土の表面をシャベルで少し退けると、柔らかく解された土が見えた。

 そこに持参したジャガイモを潜らせると、リーフはさっそくとばかりに瞳を煌めかせ、力を使った。


「リーフ・ヴェイル」


 リーフの足元から放射状に光が広がり、その光は土に溶けた。

 すると、土からにょきにょきと芽が出て、ぐんぐんと緑の葉が伸び、瞬く間に葉が黄色く色づいた。


「これで収穫できるよ」


「え、もういいの? 早すぎない?」


 リモは目を丸くした。


「うん。ちょっと掘ってみて?」


「わ、わかったわ!」


 リモは、持ってきていたシャベルを手に土を掘った。

 土を掘るなんて、リモにとって精霊人生で初めての体験だった。



「わぁ! ジャガイモがいっぱいよ!」


 土の中から、大きなジャガイモがごろごろと現れた。


「とりあえず全部掘って、それからもう一度いくつか植えよう。ジャガイモは日持ちがいいし、カスタスが保管庫を造ってくれるからね」


 三回ほど成長と収穫を繰り返し、ジャガイモは籠いっぱいになった。

 量にして、約20キロほどだ。


 同じように人参と玉ねぎも植え付け、成長と収穫を何度か繰り返すと、わずか三時間ほどで籠いっぱいのジャガイモと人参と玉ねぎを手にすることができた。

 これでしばらくは、食べ物が何も無い、なんて状況は避けられるというわけだ。



「リーフの力って、なんだかすごく、ズルいわよね」


 ヘリックスが呆れたような、じとっとした視線をリーフに送っていた。


「え? どうして?」


「だって、普通は肥料をやったり、水をやったりとかするんじゃないの? 人はたぶん、そうやって野菜を育てているんだと思うわ」


 その点についてはヘリックスの言うとおりだった。


「ぼくは一応、守護を与えているんだけど……」


 守護の力で植物を成長させる。

 それがリーフの力なのだから、ズルいと言われても困るのだ。



「そうだけど、リーフにかかると虫の被害の心配もいらないし、おそらくだけど、とても美味しい野菜になるんだと思うわ。形もとてもきれいだもの」


 ジャガイモも人参も玉ねぎも、『生産者リーフ』として展開したら、立派なブランド品として成り立ちそうな気配すら感じられた。



「……あれ?」


 ヘリックスのツッコミを何となく聞き流していたリーフが、ふと何かに気付いて、山の頂上付近に目をやった。


「どうかしたの?」


 リーフの視線を追うように、リモも山のほうへ視線を移した。


「ヤギがいる。こっちに来るみたい」


「ヤギ? 野生のヤギかしら」


 ヘリックスも山のほうへと目を向けた。

 すると、山の頂上に一頭のヤギが姿を現した。


「たぶん、ぼくが力を使い放題に使ってたから、力を感じ取って来たのかな」


「ヤギは群れを形成しているんじゃ?」


「群れだね。五頭いる」


「ええ……五頭もいるの? 何しに来るのかしら? リーフに会いに来てるの?」


 リモは困惑しリーフに訊ねた。


 話しているうちに五頭になったヤギの群れは斜面を下り、リーフたちのほうへと近付いて来るようだった。


「怪我をしている子がいるみたい。だから来たんだと思うよ」


「なるほど……そういうことね」


 リーフの応えにヘリックスは納得して、つぶやいた。




 ヤギはリーフの目前までやってきて、つぶらな瞳でリーフに何かを訴えていた。

 リーフは緑の瞳をキラリと煌めかせ、ヤギの体全体を見るように目を凝らした。


「この子、足を怪我してるね」


 パッと見は分かりにくいけれど、リーフには分かる。


「治すの?」


 リモが率直に訊ねた。

 来るもの全てに力を使っていたら、それこそ大変じゃないかと思ったのもあった。


「せっかく来てくれたからね。もちろん治すよ。それに、ヤギはここに留まってくれてもいいかなって」


 リモに治すのか聞かれたけれど、リーフの返事は決まっていた。


 リーフは怪我をしている足にそっと優しく触れると、野菜を成長させる時とは全く違う、まばゆい光を全身から放出した。


 これはどんぐり精霊の力であり精霊王の力ではない。

 けれど、過去にリスの怪我を治した時よりも、遥かに強力な力になっていた。


 それはテラとの再契約から一カ月以上が経ち、毎日血をもらって力が倍増しているおかげだった。

 精霊王として使う力と、どんぐり精霊として使う力は完全に別物で、こうしてリーフが普段使っている力は、どんぐり精霊としての力だ。



「ヤギが来てるのね! かわいい!」


 そこに、弾むようなテラの声が響いた。

 リーフたちがいる野菜の区画に動物が見えたため、テラとファルがワイワイと駆け寄って来ていた。


「危なくないか? ヤギとはいえ野生だろ? 突進してきたり……」


 ファルは少し離れた位置で、ヤギが突進してくるのを警戒していた。



「ん……ちょっと待って。みんな野生の子たちだから、どこかしら痛めているみたいだし、ヤギは有用な家畜になるからね」


 リーフは五頭すべてに力を使い、痛めている箇所を次々に治した。

 もちろん、野生のヤギでも懐けば家畜になると踏んでの事だった。

 そして、言うまでもなく、ヤギたちは完全にリーフに懐いてくれた。


 リーフはヤギたちに囲まれ、一頭一頭、ヤギの頭をぐりぐりと撫でていた。

 

「明日も遊びに来てね」


 ヤギたちは元気いっぱいに走って行ってしまった。



「たぶんあのヤギたち、家畜として飼えるようになるよ。明日も来ると思うから、その時は撫でたり、エサをあげたりしてみて」


「ヤギが飼えるなんてすごいわね! チーズとか作れちゃうし!」


 畑で野菜は作れても、チーズなどの乳製品は畑では作れない。

 早々にヤギが現れたのは、まさに僥倖だった。



「そうだ、リーフ。あっちの畑、一区画だけ耕したんだ。麦の種を蒔いたからって話そうと思ったんだが……」


 気付けば夕暮れの時間が迫り、辺りは急速に薄暗くなっていた。


「暗くなってきたし、麦畑のほうは明日の朝でもいい?」


「ああ、もちろんだ。それじゃ今日はこれで解散……じゃなくて、カスタスはどうした?」


「あっ! カスタスはあそこ! 新しい建物が建ってるところ!」


 テラが区画の奥を指差した。

 今まで無かった木造の建物が、区画の奥にいつの間にか出現していた。

 皆がヤギたちと戯れている間に、作業小屋が完成していたようだった。


「おおっ! あれは作業小屋か? もう出来たのか!」


 カスタスは作業小屋らしき建物のそばで手を振っている、と思ったら、何の前触れもなく、いきなりスッと消えた。


「ええっ!? カスタス消えたぞ!?」


 ファルは驚いたようにゴシゴシと目をこすった。


「暗くなってきたから、家に帰ったんだと思うよ?」


 ファルの驚きとは対照的に、リーフは落ち着いた声でにっこりと答えた。


「あっ、そうか。カスタスは王都、フィオネール家の邸に住んでるもんな。それにしても便利だな……」


「それじゃ、今日はぼくたちも家に帰ろう! 続きはまた明日だね」


 リーフたちは、それぞれの家へと帰路に就いた。



 畑も、作業小屋も、家畜も――。

 すべてはまだ始まったばかり。

 けれど確かに、ここに暮らしの明かりが灯り始めていた。

 今日積み上げた小さな営みが、確かに未来へと続いている――誰もが、そんな気がしていた。


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