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刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―  作者: Tomi
第三章『歪み』

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150 村の地図


 新しい家での一日目が終わろうとしていた頃。

 テラは温泉が引き込まれた風呂に入り、旅の疲れを癒していた。


「毎日温泉だなんて、ほんと贅沢ね! そういえばリーフはやっぱりお風呂には入らないのかな? たぶんリモは入るわよね。ヘリックスも入るかも?」


 リモもヘリックスも温泉に入るなら、リーフも体験してみたらいいのに。


 つい、モワ~っと想像してしまったテラは、恥ずかしくなってブクブクと顔半分ほどを湯の中に潜らせた。



 な、何を想像してるの!?

 私ってば……!

 で、でも

 結婚してるファルとリモは……



 テラは顔から湯気が立ち上るほどに真っ赤になって、どうやら少々のぼせたようだった。



「あがらなくちゃ!」


 バタバタと風呂から出て寝間着に着替えると、テラは寝室へと足を向けた。



 寝室では揃いの寝間着を身に着けたリーフが、すでにベッドでコロンと横になっていた。


「リーフ……寝ちゃったのかな?」


 ベッドの端にそろりと腰かけ、覗き込もうとしたところで、リーフがテラに手を伸ばした。


「起きてるよ? 星がきれいだから、一緒に見よう?」


「ちょっと待ってね? まだ髪が濡れてるから乾かさないと」


「ぼくが拭きたい。いい?」


 リーフは体を起こし、テラの長い髪を一束、そっと手に取った。


「嬉しいけど、時間かかるよ? まだ暖炉も火を入れてないし」


「ぼくの光は温かいから、少しは役に立たない? ぽかぽかしてたら、早く乾くかも!」


「ええ? そ、そうかな……?」


 言われるがまま、テラはリーフにお任せすることにした。


 慣れない手つきで、テラの金の長い髪を温めた布で優しく包み込む。

 水分を拭うように、きゅっきゅっと髪の束を押さえる。

 しかしながら、リーフの光は温かいだけで温風ではないので、残念ながら『早く乾く』という精霊ドライヤーにはなれなかった。



 ◇ ◇ ◇



 二日目の朝。

 リーフとテラ、そしてファルとリモは、前日の約束通りの午前9時、ヘリックスの家に集合していた。

 外は良い天気で、秋晴れのすがすがしい空が広がっていた。



「それにしてもすごいよな。この家! 言うこと無しだ!」


 ファルは居間の椅子に腰かけ、我が家とほぼ同じ造りの部屋を見回していた。


 テーブルの脚には木彫りのアカンサスの彫刻が施され、天板はつややかに磨かれた美しい木目が複雑な模様を成していた。

 椅子は六脚あっても部屋を圧迫することなく、自然に馴染んでいる。



「ファルはハーブティーでいいかな?」


「おお、ありがとう、テラ。ここの台所で煎れたのか?」


「ええ。集まるならぜひ使ってくれってヘリックスがね。水もあるし、かまども大きくて。カスタスが造った台所、とても使いやすいのよ」


 テラはヘリックスの家の台所に、ある程度の台所用品や薬草茶を置いておこうかしらと考えていた。

 

 村の集会所には『いつの間にか誰かが持って来た物』があるという、よく見かける光景になるのは時間の問題だろう。



「さて、まずは何から始めようかってことなんだが」


 ファルが手に持っていたハーブティーのカップを置き、話し始めた。


「家の中はカスタスがほとんど造ってくれているから、生活する上で困るってことは無さそうよね」


「となると、やっぱり食料だよな。畑をどこに作るか、何の畑を作るか」


「どこに、と言っても……」


 テラは透明なガラスの外に目を移した。


「そうだな……。まずは外を見に行かないか? 俺らは昨日の午後に到着したばかりで、家の周囲の事を何も知らない。どこに何があるのかも知らないからな」


「それもそうね。まずは周辺の散策かな。リーフも行くよね?」


「もちろん、ぼくは行くよ!」


 数日中に届くと聞いている精霊界からメッセージ。

 その時は精霊界へ行かなければならないけれど、定住地、村づくりのために動くのはリーフにとって当然のことだ。


「私だって行くわよ? ファラムンドが行くのに、私が行かないわけがないわ」

「あら、私も行くわよ? まずは場所を知らないとね」


 それはリモとヘリックスも同じだった。


 こうしてリーフたちは、改めて、窪地の散策に出掛けることにした。



 ◇ ◇ ◇



 ファルは手に紙とペンを持ち、立ち止まりながらペンを目の前に差し出し、何かを測るように書き留めつつ、歩いていた。


「ファルは何か書いてるの?」


 ファルの様子を不思議に思ったテラは、彼の手元を見ながら近寄り、声をかけた。


「地図だな。どこに何があるか、ちゃんと書いておかないと分からなくなるだろ?」


「さすがファル! 地図なんて描けるのね!」


 テラは目を丸くして感心していた。


「カスタスは今日も来てくれるんだろ? どんな村を想定しているのか、どこまで考えているのかもカスタスに聞きたいしな。それによって、俺たちがやるべきことが決まる! だろ?」



 一行はリーフとテラの家の前を通り過ぎ、中心のセイヨウトネリコのちょうど北側の位置まで歩いてきたところで、リーフが立ち止まった。


「このあたり、カスタスは畑にするつもりじゃないかな」


 そこには、区画のような形で四角く囲まれた石積みがいくつかあった。

 その区画には水路も張り巡らされており、確かに畑として使うであろうことが伺える。


「おおっ! 確かに耕したら畑って感じだな!」


「それなりの広さがあるし、やっぱり麦かな。耕さないといけないけど」


 リーフが畑を見渡しながら話した。

 見た感じは、幅10メートル奥行き10メートルほどの正方形の区画が、2面×4面で8面並んでいた。


「畑仕事は俺がやるよ。耕すくらい、なんてことないぞ!」

「私だってやるわよ? ファル一人にやってもらおうなんて思ってないんだから」


 ファルとテラはやる気満々の様子だ。


「ここで麦を育てるなら、近くに作業小屋とか保管庫もあるといいね」


 リーフがそうつぶやいた時、背後からいきなり声がした。



「あら。よく分かったわね」


 誰かと思って皆が一斉に振り返ると、そこにいたのはカスタスだった。


「カスタス! いつの間に!?」


「ふふっ。この付近は麦畑と野菜畑をと思っているのよ。区画は石積みを敷き詰めて区切ってあるの。それと、作業小屋と保管庫は造る予定だから安心してていいわ」


「カスタス……何から何まで、ほんと、ありがとうな!」

「ええ、本当に。ありがとう、カスタス!」


 ファルとテラは、カスタスの村づくり計画に大感謝するしかなかった。



「どういたしまして。私も村づくりを楽しませてもらっているわ」


 カスタスは優雅に微笑みつつ、リーフに目を向け言葉を続けた。


「ところで、他の場所も見に行くの?」


 カスタスはリーフに訊ねた。



「うん、これから見に行くところ。住む場所だから全体を見ておかないとね。それに、ファルが地図を描いているし」


 リーフが視線を移すと、ファルも頷いた。


「ああ、俺は地図を描いてるから、一周、ぜんぶ見て回るつもりだ」


「そう。じゃ、私が案内したほうがいいかしらね?」


「それは助かる! よろしく頼むよ!」



 実のところ、カスタスは村の設計をするにあたり地図を描いていたため、ファルが自らの手で描かずとも、言ってくれれば地図を出そうと思っていた。


 けれど、すでに描き始めている事と、この人物が『ファル・ハート・シリーズ』を考案した張本人であることを知っていたため、その様子を眺めることにした。


 人間界で建築職人を育てるのを趣味にしているせいか、ファルを見守るカスタスの視線には、どこか温かい雰囲気が醸し出されていた。



 北側から北西方向へ歩いて行くと、ここにも石積みで区切られた一帯があった。


「カスタス、ここは何かしら?」


 テラは広々とした区画を見ながら、訊ねた。


「この一帯はあまりゴツゴツしていなくて、比較的平らな地面でしょう? そのまま使えそうだから果物の木を植栽できればと思ったのよ」


「なるほど、果樹園ね? 果物は植えたいと思ってたの。それと、果物ではないけど、アーモンドの木も植えたくて」


「アーモンドの木はいいわね。まだまだ珍しいでしょう? 上手くいけば、それで生活費を稼ぐことも可能になるんじゃないかしら」


「ええ、そう! そうなのよ!」


 テラは、カスタスが守り人の生活費の事まで考えていることに感動を覚えた。

 そこはやはり、アカンサス工匠会、フィオネール家と契約する精霊だけある、といったところだ。



「ちょっと待ってね。この窪地は……温泉も湧いているくらいだから、そこまで冷え込まないのかな。アーモンドは寒さが苦手な木だし、霜が降りるような場所もあまり……ここは風通しはいいとは思うけど」


 リーフはしゃがみこんで、土に手を伸ばした。


「リーフ……アーモンドって、ここでは難しそう?」


「分からないけど、ぼくが力を使って成長させるのは問題ないよ。ただし、その後。ぼくが力を使わなければどうなるのか、というのは難しいかもしれない。防寒対策をちゃんとして管理しないと、だめになってしまう可能性は高いかも」


 リーフは率直に、余計な誇張もせずに答えた。


「わかった。私、しっかり頑張るから!」


 テラは改めて、アーモンド栽培という夢に、希望を抱くのだった。



 そのまま一行は西側へ移動し、さらに歩き続けて南側へと回った。


 カスタスの村設計では、西側は村の主な宅地にする予定らしく、これからの計画を聞いた。

 そして南側。

 こちら側は一行がぐるりと取り囲む山の頂上から下りてきた方角。

 セイヨウトネリコの巨木の足元に溜まる池がこんこんと湧き出る清らかな水を湛え、直径25メートルほどの煌めく水面に巨木の影を映していた。



 カスタスに案内され、じっくりと見聞きしながら、地図を描きながらの散策は、約3時間ほどで窪地を一周した。

 直径約1.5キロの窪地は、普通にぐるりと一周歩けば約60分ほど。

 それを考慮すると、かなりゆっくり、じっくりと見て回ったことが分かる。



「ファル、お疲れさま! 地図、できた?」


「おう、テラ。地図できたぞ! ほら、見てくれ」


 ファルが手描きした地図はかなり詳細な記入があり、場所も正確に描かれていたけれど、パッと見ただけでもすぐに分かるような、可愛らしい絵まで添えられていた。


「これ、ファルが描いたのよね?」


 テラは手に持った地図とファルの顔を交互に見て、思わず聞き返した。


「俺じゃなかったら誰が描くんだ?」


「そ、そうよね。すっごく可愛らしい地図で、びっくりしたわ!」


「あー、そういや図案描いてる時も皆から色々言われたな」


 二人の会話を聞いて、ちょっと見せて見せてと皆が寄ってきて、ファルが描いた地図を真ん中に据えて、頭を突き合わせていた。


「ファルって装飾品の図案だけじゃなくて、絵も上手なのね」

「すごいね、ファル! 絵の才能もあるんだね」


 ヘリックスもリーフも感心しきりだった中で、リモは誇らしげで嬉しそうにニコニコと微笑んでいた。


 咲いていた花や工具などの道具を単純化したカット絵がふんだんに挿し込まれた可愛らしい地図は、皆で共有するためにヘリックスの家の居間に飾られることとなった。


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