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刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―  作者: Tomi
第三章『歪み』

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149 村づくりの協力者2

 

「さあ、着いたわ。まず、ここがリモとファルの家よ。ヘリックス、リーフたちの家はこの後行くから、楽しみにしてて」


 カスタスが誇らしげに手招きした先には、小さな森の木立に溶け込むようにして、一軒の木造の家が佇んでいた。


「基本的には、皆の家は同じ造りにしているわ。家に差をつけちゃうと問題になるかと思って」


 カスタスは悪戯っぽい笑みを浮かべた。


 中心のセイヨウトネリコから見て北東側に位置するこの家は、小さな森を背後に建てられており、テラやファルがこれまでの旅路で見てきたどの建物とも違った趣きがあった。


 派手な装飾があるわけではない。

 けれど、美しい木目の木材の一本一本が深みのある艶を放ち、石積みの基礎は落ち着いた自然な外観を保ちつつも、寸分の隙もなく噛み合っている。


「……すごいな。この家、カスタスが一人で建てたのか?」


 ファルは吸い寄せられるように家の壁に触れた。

 ひんやりとしているのに、どこか温かい。

 白いアカンサスの霊力によって整えられた木肌は、職人が何年もかけて磨き上げたような滑らかさだった。


「ふふっ。一人というか、この土地にある最高の素材たちに協力してもらったのよ。さあ、中に入ってみて」


 カスタスは楽しそうにクスクスと笑いながら、軽やかに扉を開けると、そこには真新しい木の匂いに包まれた、明るい陽光が差し込む広々とした空間が広がっていた。



 ◇ ◇ ◇



「おお! 暖炉まであるのか! ええっ!? 窓はなんだ、これ!?」

「わあ……! この窓! これは一体、どういう……!?」


 ファルとテラが真っ先に駆け寄ったのは、居間に造られた、南側に大きく取られた窓だった。

 そこには枠があるだけで、何も無いかのように外の景色が鮮明に見える。

 なのに手を伸ばせば、透き通った硬い『何か』に指先が触れた。


「あら、気に入ってくれた? これは私の特別仕様なの。人間界には無いから、本当に特別よ?」


「確かに、人間界に無い……よな……」

「…………」


 ファルは開いた口が塞がらない。

 テラはもはや、言葉を失っていた。



「精霊界でも見たこと無いわよ?」


 リモが思わず突っ込みを入れた。


「昔造った建物には無いわね。これ、最近なのよ。私が考案したのよ!」


 それはまさかの精霊界、というよりカスタス考案の最新技術だった。

 色付きガラスばかりのこの世の中に、初めて無色透明なガラスがお目見えした、歴史的な瞬間だった。



 さらにファルは家の構造をまじまじと見つめ、驚嘆の声を上げていた。


「おいおい……この梁、どうなってるんだ? 釘一つ使ってないのに、ビクともしない! アカンサス工匠会の職人が見たら、腰を抜かすんじゃないか!?」


「彼らの技術は、元を辿れば私の模倣から始まったのよ。私が本気を出せば、これくらいは造れなくてはね」


 カスタスは誇らしげに、優雅な足取りで案内を続けた。


 台所には水路から引き込まれた清らかな水が淀みなく流れ、心地よい水音を響かせている。

 煮炊きのための大きなかまども、使い勝手よく設えられていた。



 そして、極めつけは半戸外に設えられた浴室に、温泉の湯が引き込まれていることだった。


「風呂に湯が溢れているんだが!?」


「ふふっ。この辺りは温泉が湧いているの。それを利用しない手はないでしょう?」


「私、温泉好きだから嬉しいわ! ありがとう、カスタス!」

「す、すごすぎる……」


 リモは率直にカスタスに感謝を述べ、ファルは贅沢な家に驚愕し呆然としていた。



「さあ、最後は寝室ね」


 寝室は屋根裏のような2階のような場所にあり、居間と同じように大きく空が見えるよう、透明なガラス窓が設えてあった。


「夜にはあのセイヨウトネリコの向こうに沈む星が、一番綺麗に見えるはずよ」


 カスタスは、リーフがテラに約束したことを知っているかのような、心憎い設計を施していた。



 そこは、まさに理想的な素晴らしい家だった。



 カスタスは精霊界の建物を手掛けてきた精霊だけれど、人間界ではさすがにその力を使わずにいた。

 アカンサス工匠会の経営者であるフィオネール家と代々契約し、アカンサス工匠会が大陸随一の建築ギルドとして名を馳せているのは、カスタスの長年の協力があるからこそだった。


 人間界では建築の職人を育てるのが趣味になり、裏方に徹しているカスタスも、この場所では思う存分に力を発揮できる。

 村の設計が出来るというのだから、精霊界の建物を造るのとはまた違った楽しさが味わえるのは明らかだった。

 リーフから村づくりの協力を持ち掛けられ、うずうずしていたのはもちろん秘密だ。

 カスタスにしてみれば、この村づくりが面白くて仕方がなかったのである。



「それじゃ、次はヘリックスの家に行きましょう!」


 家の中を一通り案内したカスタスは、皆の反応に満足したように次の家へ誘った。


「ああ、ちょっと待ってくれ。今夜はどうする? 何か話し合うとか、明日からどうするとか、何か決めておくか?」


 ファルとリモはこのまま家に残ることになるため、彼はテラに声をかけた。


「そうね……あとで一度集まる? 私は明日でもいいけど」


 テラの返事にリモがピンときて、補足するように話した。


「明日の朝集まって、今後の方針を決めたら? 今日は家の中を色々と整理したりでいいんじゃない? ね、ファラムンド?」


「それもそうだな。まずは生活できるよう、家の中をだな。明日、朝飯食ってから集まるか?」


「ええ。私はそれでいいわ。どこに集まるかだけど……」


 テラはカスタスのほうを見て、続けた。


「これからヘリックスの家に行って、私たちの家に行くのよね? ヘリックスの家が真ん中なの?」


「ええ。ヘリックスの家は、あなたたちの家のちょうど真ん中あたりよ」


「それならヘリックスの家に集合しない? 真ん中だし、どうかな、ファル?」


「了解だ。明日……9時頃、ヘリックスの家に集合ってことで!」



 こうしてファルとリモに一旦別れを告げると、カスタスに連れられヘリックスの家へと移動した。

 最後にリーフとテラの家へと案内され、それぞれが新しい我が家に落ち着くことになった。


 彼らの家はそれほど離れてなく、歩いて2分から3分ほどの距離にあった。

 家と家を結ぶ小路は、それとなく歩きやすいように整えられていた。



 カスタスが案内をしている間に夕暮れとなり、気付けば辺りは灯り無しでは歩けないくらいに夕闇が迫っていた。

 家の中にはいくつものランタンが置かれ、窪地の夕闇の中で明々と輝いて見えた。



「今日はもう暗くなってきたし、私ももう帰らないと」


 カスタスが宿る場所は、王都のフィオネール家の邸だ。


「カスタス、ありがとう。こんなにすごく素敵な家を造ってくれて」


 リーフとカスタスは、リーフの家の前で話をしていた。


「いいのよ、リーフ。私も楽しんで造ってるから」


「あの、カスタス、ちょっと聞きたいことがあって……」


「リーフの聞きたいことは分かってるわ。数日中にアイリスの精霊からメッセージが届くわ。この意味、分かるわよね?」


「!!」


 アイリスの精霊によるメッセージは、精霊界から発信する場合に限り、まるでテレパシーのように霊核に直接届くものだ。


 ヘリックスが想定していた、『精霊界からのコンタクト』というのはこれのことで、精霊界では全精霊に対して一斉にメッセージを発信することが可能だった。

 もちろん、特定の精霊に対し個別にメッセージを送ることも出来る。


 精霊個人がそのシステムを利用することは無く、アイリスの精霊からのメッセージとは、精霊界としてのメッセージという意味をもつ。


「アイリスの精霊……わ、分かったよ」


 精霊界からのメッセージは、必ずしもよい便りだけを運ぶとは限らない。

 けれど、セイヨウトネリコの異変に気が気では無かったリーフは、精霊界からコンタクトがあることが分かり、少しだけ気持ちを落ち着かせることが出来たのだった。



 ◇ ◇ ◇



 真新しい家での初めての夜。

 ファルとリモ、リーフとテラは、それぞれの家でそれぞれの新生活の第一歩を噛みしめていた。



 ファルとリモは、この時の為に購入した揃いのカップや衣類など、生活用品を依り代から次々に取り出しては部屋に配置していった。

 台所には食器やカトラリーなどを並べ、いくつかの食料や調味料を棚に置いた。

 物がひとつひとつ置かれるごとに、ここが宿ではない『家』であり、二人にとっての初めての家になることを実感する。

 寝室に設えられた広い机には、紙とペン、それからスターチスのドライフラワーを置いた。

 寝室で使うシーツやカバーなどはリモの色である淡いピンクで統一されており、これから始まる二人の生活に華やかさを添えていた。



 リーフとテラも、イーストゲートで購入した生活用品や保存していた薬草などを依り代から次々に取り出し、部屋に配置していった。

 それは、テラが生まれ育ったブライトウッドの家の再現でもあり、リーフと共同生活を始めた、生活感あふれる温かい家の再現でもあった。

 台所の棚には調味料や薬草茶の瓶を並べ、カチャカチャと音を立てる。

 その生活の音が、新しい家に息を吹き込む。

 半戸外の作業場には引き込まれた水路と大きめの作業台があり、薬草を干したり手入れをするのに丁度よい空間になっていた。

 ムーンピーチフラワーのプランターも、ようやく定位置に納まった。

 

 「ねぇ、リーフ? 依り代、家に置いててもいい?」


 「テラもぼくも、ここを離れる予定は無いし。ぼくが精霊界に行くとしても戻るのはここだし……うん。いいと思うよ? 飾っておくの?」


 「可愛い飾り棚があるから、そこに置いたらピッタリだなと思って」


 居間の壁に取り付けられた、ちょっと目を引く小さな飾り棚。

 葉模様が彫られたオークの飾り棚はどんぐりを置くのにぴったりで、狙って作ったのかなと思える可愛らしさで、テラはその棚にリーフの依り代をちょこんと置いた。


 「ふふっ。ぴったり過ぎて可愛い……!」


 テラは大満足のようだった。




 そして、ヘリックスはひとり、カスタスが造った家で椅子に腰かけ、考え事をしていた。


「カスタスはどうして私の家まで造ったのかしら。別にいらないのに……と思ったけど、ファルやテラの家にお邪魔するのは、さすがに悪いわよね」


 ファルとリモ、リーフとテラの家は、それこそ文字通りの新居であり、旅で宿の部屋を同室にするのとは訳が違う。

 さすがのヘリックスでも、まるで新婚の新居に居候するのは気が引けると感じた。


「でも、ここに家があるのも悪くはないわ」


 ヘリックスの依り代も、今はこの家の暖炉の上の棚に置いてある。


「それにしても、本当に同じ造りなのね。精霊の私がひとりで使うのは手に余ってしまうわ。まあ、集合場所としてはいいんでしょうけど」


 ヘリックスの家は、ファルとリモの家、リーフとテラの家のちょうど中間にあり、明日の集合場所にもなっている。

 たぶんに、今後も集合場所はヘリックスの家、ということになるのは明らかだった。

 まるで地域の集会所、のような家になる予感しかしなかった。


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