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刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―  作者: Tomi
第三章『歪み』

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148 村づくりの協力者1

 

 遠い遠い昔、一度だけ、セイヨウトネリコが枯れかけたことがあった。


 その原因が何だったか、今となっては誰も知り得ないのだけれど、精霊界ではその時の出来事が『伝承』という形で今に伝えられていた。


 そして、セイヨウトネリコを枯れさせる『歪み』が、長い長い時を経た今、再び起こっていた。



 ◇ ◇ ◇



 リーフたちは窪地を囲む壁のような山を下り、比較的平坦で、なだらかな起伏が連なる平原に降り立った。


 直径で約1500メートルほどある円形の窪地には、中心にセイヨウトネリコの巨木がそびえ立ち、清らかな水を湛えた池にその姿を映していた。

 池の周囲には草花が生え、点在するこじんまりとした小さな森がいくつか見える。



「セイヨウトネリコのそばまで行ってみよう!」


「ああ、そうだな! まずはあの樹に挨拶しないとな。なんだかそんな気がするだろ?」


「とても神聖な場所って感じだもの。ここに住まわせてもらうからには、ね!」


 リーフ、リモ、ヘリックスは無言のまま、セイヨウトネリコから目が離せなかった。

 テラとファルが何を話しているのかも耳に入らないほどに、樹の異様さに『なぜ!?』という思考が止まらない。



 ヘリックスは、不安はこれだったのだと確信していた。



 リーフが疫病を収束させ、不安は解消したと思ったのは間違いだった。

 精霊界で感じた違和感は気のせいではなかった。



 しかし、このような異変が起きているのに、精霊界から何のコンタクトも無かったことが不思議で、それが腑に落ちない。



 なぜ何も無いかのように放置しているのか。

 これが放置でないなら、なんだと言うのか。

 必然だとでも言うのか――。


 まさか、私たちの到着を……待っていた?


 私たちがエルナス森林地帯に入ることは、何人かの精霊は知っていた。

 ジオもカスタスもフラクシスも知っている。


 いえ。

 もしや、アンリムが知っていた?


 そうならば、待っていても不思議ではないわ。

 なぜなら……予知されていたのだから。


 そうだとしたら、どこまで、何を、知っている?



 ヘリックスが思い起こしたのは、予知の精霊アンリムの存在だった。




 ◇ ◇ ◇




 遠くからでは分からなかったけれど、中心に近付いていく途中の木立の中に、木造の家が見えた。

 真新しい、平屋の家だ。

 さらに、池から延びていると思われる、澄んだ水が流れる人工的な水路が目に入った。



「あっちの木立に家があるわ! こんなに整った水路まで!」


 テラは感激もひとしおといった様子で目を輝かせ、弾むような足取りで楽しげに歩いていた。



 家と水路まで造られていることから、カスタスが予定通りに村づくりを進めていることが伺えた。


「カスタスが造ったのね。彼女、村の設計は任せてって言っていたから」


 ヘリックスは、リーフと共にフィオネール家でカスタスと話した時のことを思い返していた。

 


 彼女、あの時はずいぶんと楽しそうに話していたけど……

 セイヨウトネリコの異変もあるのに。

 なるほど……

 予定は変えない、ということなのね。



「この水路、すごいわね!」


 水路はフィオネール家にある水路と似た造りで、段差を施し、平地でも水の流れが滞らないよう工夫されたものだ。


 テラとファルはキョロキョロと窪地を進みながら、一行はセイヨウトネリコの根元まで歩を進めた。


 窪地の端から中心のセイヨウトネリコまで、歩いて10分から15分ほど。

 初秋を感じさせる草原はススキが穂を出し始め、夏の草花と秋の草花が混在し、多くの野草が賑わいを見せていた。



 歩くにつれて、巨木の存在感は圧倒的になり、首を大きく反らさなければ樹の頂が見えないほどだった。


 樹の上部半分ほどは葉が黄色く色付き、樹の先端部分は枝が露わになっているのだけれど、近づくほどに、樹の全貌は視界に収まりきらなくなっていく。


 近くで見るセイヨウトネリコはとても大きく、幹は太く、人が両手を広げても端に全く届かないほどで、下から見上げると大きく張った枝が広がり、柔らかな木漏れ日を降り注いでいた。


 

 高さは約50メートル、ドーム状の樹冠を成し、幹の直径は約3メートルほどに達する。

 これがセイヨウトネリコの全貌だった。


 その樹の幹の根元には人一人が潜れそうな穴がぽっかりと空いており、これが特別な穴だというのが何となく感じられた。



「この穴が、もしかして……!?」


 テラは興奮したように、目を見張った。


「俺がこの穴に入ったらリモの家に行けるんだろ? 開通ってのは、入るだけでいいのか?」


「そうなんだけど……ちょっと待って」


 ファルが身を屈めて穴を確かめようとしたところで、リモが彼を止めた。


「どうした?」


「フラクシスはいないのかなと思って……」


 リモは、セイヨウトネリコが枯れかけている事を危惧した。

 この穴は繋がっている場所へちゃんと連れて行ってくれるのか、という疑念を抱いた。

 そのため、フラクシスに会って、話が聞けたらと思ったのだ。



「フラクシスってのは、セイヨウトネリコの精霊だよな。そうだな……ぜひとも会って挨拶したいところだが……俺らに会ってくれるのかどうか……」


 リモの心配とは若干のズレがあるのだけれど、ファルの心配も納得できるものだった。

 フラクシスは滅多に姿を現さないため、多くの精霊は彼に会ったことが無い。

 

 リモとリーフは以前、偶然にも彼に会ったことがあるけれど、ここにフラクシスの気配は感じられなかった。



 その時――。

 どこからか光の粒が集まり、渦を巻くように立ちのぼると、その中からカスタスが姿を現した。


「こんにちは。皆、お揃いね」


 カスタスはにこやかに声をかけた。

 それはあまりに普通な様子で、樹の変化など気にも留めていないようだった。



「カスタス!」


 リーフが彼女の名を呼んだ。


「よく分かったわね? 私たちが到着したって」


 ヘリックスはタイミングが良すぎるカスタスに問いかけた。


「ふふっ。そろそろだと思ってたから。ここには時々来ていたし、まだ造りかけだもの。それより、彼女たちを紹介してくださる?」


 カスタスはにっこりと微笑んで、テラとファル、そしてリモを見つめた。


「もちろんだよ。彼女はぼくの恋人のテラ。よろしくね」


「私はリモ。カスタスは初めましてよね? 彼は私の夫、ファラムンドよ。夫婦共々、よろしくね」


「知ってると思うけど、私はフィオネール家にいる精霊、カスタスよ。あなたたちがフィオネール家に滞在していたことは、もちろん知っているわ。カリスのお友達でしょう? 私はそのうちカリスと契約することになるかしらね。どうぞよろしく」


 カスタスは穏やかに微笑むと、ドレスの裾をもって優雅に挨拶を決めた。

 白を基調としたエレガントなロングスリーブドレスに淡い紫の長い髪、紫の瞳をした白いアカンサスの精霊だ。


「わぁ、とても素敵な精霊さんなのね! とっても綺麗ですごく上品で! 私、ティエラっていうの。テラって呼んでね。どうぞよろしく。カスタス!」


「俺はファラムンド。みんなファルって呼んでる。カリスにはよくしてもらったよ。カスタスもよろしくな!」


 カスタスは上機嫌な面持ちで、終始にこやかに微笑んでいた。



「ところで、家はまだ見ていないわよね?」


 カスタスはテラとファルを交互に見つめ、問いかけた。


「さっき小さな森のそばに建てられていた家をちらっと見たわ! 山を下りてきたところにあったのよ」


「あの家はカリスとユリアンが来たときのために作ったの。ふふっ。ちょっと早かったかしら」


 カスタスはおどけたようにクスクスと笑った。


「カリスとユリアンの家、もう作ったの!?」


「カリスが作ってくれってうるさくて。遊びに行くんだって毎日毎日言ってるわ。ふふっ。どこなのかも知らないのにね」


 カスタスはカリスの話をすると、微笑みながらも苦笑していた。


「あっ……カリスは私たちが向かった場所をまだ知らないのね?」


「ユリアンがまだ話していないようよ。それで私が言ったの。リーフたちに協力する約束をしていて私が家を建てるって。そしたら自分たちが過ごす家も建ててくれってね」


「それでバレてないのか? どこに、とか聞かれずに?……まあ、今更バレるも何もないんだが」


 ファルは思わず突っ込みを入れた。


「だけど、来るってことはユリアンと仲良くしているってことよね。よかったわ!」


 テラはカリスとユリアンの仲睦まじい姿を想像して、なんだかほっこりした気分になった。



「それじゃ、あなたたちの家に案内するから、ついて来てくれる?」


「ええ、もちろんよ! ありがとう、カスタス!」


 テラは瞳を輝かせ、大喜びでお礼を口にした。


「お礼を言われるまでもないわ。そもそも、不老や不老不死にしたのは精霊でしょう? 契約したいって泣かれたんじゃないの?」


「えっ! そ、そんなことはっ」

「いや、俺は、違うぞ! 俺が契約したいって……」


「ふふっ。精霊の性質のために守り人が人らしく暮らせなくなるというのは、私は不公平だと思ってたの。精霊が守り人を欲するなら、守り人のために環境を整えるのは当然なのよ」


 カスタスは自身の考えをはっきりと口にし、さらに続けた。


「リーフが精霊界の意志として生まれ、リーフが永きを生きる守り人のために村を造りたいと言うなら、それはもう、精霊界の意志なの。私は大賛成よ。協力して当然ね」


 カスタスはまっすぐにリーフを見つめると、誇らしげに言い切った。



「カスタス……ありがとう。すごく嬉しい」


 リーフはカスタスの言葉に励まされ、これから続く慌ただしい村づくりへの道筋が、少し明るくなったように感じた。



 しかし、カスタスにはどうしても聞きたいこともあった。


「カスタス、あとで、ちょっといいかな? 聞きたいことがあって……」


「ええ、いいわよ」


 カスタスはにっこりと微笑んだ。


 カスタスがこの場所とフィオネール家の邸、自分が宿る場所を行き来できているのは、ここに依り代を置いているからだ。

 フラクシスと仲が良くて、昔は頻繁に行き来していたと聞いている。

 そんなカスタスが、セイヨウトネリコの異変についてフラクシスから何も聞いていないとは思えない。


 なぜかカスタスは全く触れないけれど、どうして彼女が、セイヨウトネリコが枯れかけている事実に触れないでいるのか、リーフにはそれが不思議でしょうがなかった。

 

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