表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―  作者: Tomi
第二章『旅』終着編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

149/166

146 エルナス森林地帯2

 

 シダが生い茂り、苔生す地面を踏みしめながら、リーフたちは森を進み続けた。


 約2キロおきに目印のヒイラギを成長させ、痕跡を消しつつ移動する距離は、一日あたり10キロから12キロほど。

 夕方4時過ぎにはテントを作り、朝は5時に出発するのが生活パターンになってから、かれこれ2週間が過ぎていた。



「今日って何日だったかな」


 森での生活が長くなるとどうにも日付の感覚が鈍くなり、テラはふと、リーフに訊ねた。


「今日は9月4日、木曜日だね」


「もう9月……どおりで少し涼しくなってきたはずよね」


 7月下旬頃に王都を出発し、1カ月以上が過ぎていた。

 暑かった夏も和らぎ、初秋の湿った土の匂い、重く静かな森の秋の気配が、辺り一帯を包んでいた。



「ねぇ、ヘリックス。到着まであと1週間くらいかな?」


 テラは先頭を歩くヘリックスに声をかけた。


「そうね。ここまで順調に来たし、このまま、この調子で行けたらそうなるわ」


「楽しみね! とても美しい場所だってリーフに聞いたのよ」


「リーフとリモは行ったことがあるものね。私は行ったことが無いのよ。だから、実は私も楽しみなの」


 ヘリックスはテラの方を振り返ると、にっこりと優雅に微笑んだ。


 もちろん精霊界の中心へは何度も行ったことがあるのだけれど、エルナス森林地帯の中心部へ行くのは初めてのことだった。


 ヘリックスは歩きながら、ふと、考えていた。



 滅多に行くような場所じゃないから

 つい、一緒に来てしまったけど……

 リーフも精霊王になったし、

 そろそろ引き継ぎをしてもらわないと

 私の役目が終わらないのよね。

 まあ、今は私も契約者がいるし、別にいいんだけど。



 以前感じていた言い知れぬ不安。

 リーフがファルの命を救ったことで『何か起きるのでは』と感じた不安は、リーフが精霊王になり、疫病を収束させたことで解決した。

 少し前に精霊界の家で感じた僅かな違和感も、気のせいだった。

 けれど、本当にそうなのか、と訝しく思う気持ちもあった。



 しかし、現状、何も無い。

 何かあれば、精霊界からコンタクトがあって然るべき。

 何も無いのだから――それは、何も無いということ――。



 考えても仕方ないわね、とヘリックスは中心部へ向けて、さらに歩を進めて行った。



 ◇ ◇ ◇



 しんと静まり返る森で、足音と息づかいと、揺れる葉音だけが響いていた中に、気付けば川のせせらぎが混じっていた。


「川が近いわ」


 ヘリックスが静かに呟いた。



 川音のする方へ進んで行くと、深い森が途切れ、明るい陽光が差す谷間を流れる川沿いに出た。


 川幅は広くなく、深さもさほど無いように見える小川は、岩間を滑るように澄んだ清らかな水が流れ、辺り一面の空気は涼しく爽快感に溢れていた。


「わあ! すごく素敵ね!」


 テラは目の前に広がる川辺の風景に目を輝かせた。



「このあたりでちょっと休憩しようかしら」


 先頭を歩いていたヘリックスが休憩を促した。


「もう休憩するの? ついさっき休憩したけど、いいの?」


「ええ。ほら、あの辺り、見てみて」


 ヘリックスは少し先の岩場を指した。



「え? なあに?」


 テラはヘリックスが指す方向に視線を向けた。


「温泉だね。あの辺りはお湯が湧き出しているみたい」


 リーフもヘリックスが指した方向を確認し、温泉の存在を口にした。


「え! 温泉? 温泉があるの!?」


 目を凝らして見ると、うっすらと湯気が上がっているのが分かる。


「ちょっと、見てきていい?」


「温泉があるのか! 俺も見てくる!」


 テラとファルは、湯気が上がる場所へと一目散に走って行った。




「ファル! 温泉よ!」


 岩場の水たまり、ではなく湯だまりは、澄んだ色をして底からお湯が沸き出しているようだった。

 湯気が立ちのぼり、それがお湯だということは目に見えて分かった。


「湯加減はどんなだろうな。ちょっと手を入れてみるか?」


「え、大丈夫? 熱くないかな」


「湯気もそれほどじゃないし、川の水が混じってるんじゃないか? たぶん、大丈夫……」


 そう言うと、ファルは水面に手を差し入れた。


「おおー!」


「どう? 熱くはなさそうね?」


 ファルが熱そうな素振りを見せなかったため、湯加減が熱すぎることはないように思われた。


「ちょうどいいぞ! これはなかなか気持ちいいな! 風呂に入りたくなる!」


 ファルの言葉に、テラも手をゆっくりと入れてみた。

 お湯は熱くもなく、冷たくもなく、ちょうどいい感じの湯加減だった。


「ほんと、温かくて、お風呂に入りたくなっちゃうわね! 浸かると気持ちいいだろうなぁ……」


 浅めだけれど、人が一人か二人、足を伸ばして入れそうなほどの大きさの湯だまりは、まさに天然風呂。

 テラはこの天然風呂に浸かるシーンを思い浮かべ、ほわぁと入浴気分の妄想を膨らませていた。



「今日はこの付近にテントを作ろうと思うんだけど、どう?」


 丁度その時、夢のような提案をするリーフの声が背後から聞こえた。


「いいの!?」


 テラはぐるりと振り返ると、空の青の瞳を輝かせていた。


「うん。温かいお風呂、久しぶりでしょ?」


「すっごく嬉しい! ありがとう、リーフ!」


 喜びのあまり、テラはリーフに飛びつくようにして抱きついた。



 野宿の日々は、水で濡らした布で体を拭く生活だった。

 小川や湧き水がある所では、時々、髪を洗った。

 温かいお湯に浸かる風呂が、恋しくないはずがなかった。


「やったな、テラ! 俺も風呂は有難い。ありがとうな、リーフ!」



 テントを作るにはまだ少し早い時間だったけれど、今夜のテントの場所が決まったことで、ファルとテラは天然風呂の周りを整えることにした。


 岩や石などを少しずつ移動させ、風呂の周囲を綺麗にせっせと整えると、大きめの布で幕を張った。

 石鹸や桶なども準備して、入浴準備はバッチリだ。


「ふふっ。これで完璧よ!」


「どうする? 飯の前に入るか?」


「私は食事の後がいいかな。ファルは?」


「俺は飯の前にすっきりしたいんで、今から入るとするかな」


「わかったわ。ゆっくりどうぞ? 食事の用意はしておくわね」



 では早速、とばかりにファルは入浴準備のためにテントに戻ると、テラは食事の支度に取り掛かった。


 いつものように火を起こし鍋に水を注ぐと、今や定番となった野菜スープを煮込む。

 ヘリックスも焚火の傍に座り、くつろいでいた。


 ちなみにリーフはテントを作った後、そのままテントで休んでいるようだった。



「あれ? リモは?」


「リモはファルと一緒にお風呂よ?」


「あ、そうなんだ。……って、えっ!?」


「テラったら、面白いんだけど」


 テラの反応に、ヘリックスはクスクスと笑っていた。


「精霊って、お風呂に入れるの?」


 テラは、精霊は風呂に入らないと思っていた。

 精霊は汚れないため、風呂を必要としないことは知っている。

 そしてリーフは、テラが知る限り一度も風呂に入ったことが無い。



「さあ、どうかしら? 精霊だって入ってもいいんじゃないかしらね」


「そっか……。それに、ファルとリモは夫婦だものね」


「テラもリーフと一緒に入っていいのよ?」


「!! ま、まだ、私たち結婚してないから……っ」


 テラは顔を真っ赤にしてヘリックスの勧めを断った。


「まだ? まだってことは……」


 ヘリックスは、まだと言ったテラの言葉に食いついた。

 無意識に口元がニヤリと緩んでしまう。


「あ、えっと……あの、実はリーフに……村が出来たら結婚しようって言われたの。だから、そういうのは、結婚してから……」


「まあ、まあまあまあ!! リーフったら、プロポーズしたの!? よかったわ! 大きな前進ね! おめでとう、テラ! 私もすごく嬉しいわ!」


 ヘリックスはテラの手を取り、ブンブンと振るようにして喜びを爆発させていた。


「う、うん……ありがとう、ヘリックス……」


 ヘリックスの喜びぶりに驚きつつも、こんなに喜んでくれるヘリックスに、テラは心から感謝した。



 そんな会話をしていると、ファルとリモが風呂から上がったようで、ファルは少し火照った顔をして、リモと共に焚火のそばに腰かけた。


「テラ、いい風呂だったぞ! 先に済まないな」


「お帰り、ファル。リモもお帰り。スープも出来たから、夕食にする?」


「おお、ありがとうな! テラは飯食ったら風呂に入って来ていいぞ? 片付けは俺がやっておくから」


「ふふ、ありがとう、ファル」


「ねぇ、ヘリックスもお風呂どう? なんだか体に滲みるというか、すごく気持ちよかったわ。お勧めよ!」


 リモがすっきりしたような面持ちで、にこにこ笑顔でヘリックスに入浴を勧めた。


「……私、飲み水としての温泉水は興味があるけど、入ったことは無いのよね」


 ヘリックスは温泉水に興味があり、温泉に関しては意外に詳しいのだけれど、やはりヘリックスも入浴は未経験だった。

 飲み水なら分かるけれど、入るとなると話は別なのだ。


「それならせっかくだし、ヘリックスも入ってきていいわよ? 私はまだ食事中だから」


 そんなヘリックスの話を聞いて、テラも彼女に入浴を勧めた。


「じゃあ……お言葉に甘えて、私も入ってみようかしら」


 リモとテラに勧められ、ヘリックスは初の温泉に浸かるという決心をし、お手製の浴場へ足を向けた。



 ヘリックスの入浴初挑戦は、思いのほか満足のいく体験になった。

 お湯に浸かり、体に滲みるような不思議な気持ちよさを満喫し、入浴もなかなか悪くないわねと、認識を変える結果になったのだから、入浴初挑戦は大成功といえるだろう。


 その後テラも入浴し、久しぶりの温かいお湯で体と髪を洗い流した。

 自然の中の天然温泉は歩き通しだった体を芯から癒し、心までもじんわりと癒してくれるようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ