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刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―  作者: Tomi
第二章『旅』終着編

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140 帰る場所と誕生花

 

 イーストゲートの市場はほぼ何でも買える、無いものは無いとも言われる大規模な市場だ。

 地元人だけでなく、旅人や商人まで、あらゆる人々が買い物に訪れている。

 テラは市場の人ごみの中を歩きながら、リーフと買い物の相談をしていた。



「2カ月分の食料って何を買えばいいのかな」


「チーズ、干し肉、ナッツ類、パンがあれば、とりあえずはいいんじゃないかな?」


 リーフは旅人が持つ食料の定番を挙げた。


「うん……そうね。それじゃ、食料は目についたものから買っていこう。夕方になるとパンは買えないかもしれないわ」


「うん。それがいいね」


 二人は店に目を配りながら、市場の石畳をてくてくと歩いていく。



「パン屋さんがあれば、15個ずつくらい買って、4店を回れば済むかな?」


「一日パン一個?」


「え? あっ! 一日三食……ああっ、2カ月分って大変っ!」


 テラは2カ月分のパンの量をよくよく考えてみて、思わず頭を抱えると、そのままうなだれた。


「パンは一日2個までにして、一食は麺とか他の食べ物にする……?」


「……うん、そうするわ。一日三食、いや、二食でもいいし……毎回パンを食べなくても平気……」


「そう?」


 リーフはテラが我慢していると思い、少しばかり心配になって彼女の顔をちらりと覗き込んだ。


 すると、テラはパンから話を変えようと思ったのか、唐突に、リーフに問いかけた。


「エルナス森林地帯で採れるものって何があるの?」


「山の中だから、ザクロやイチジク……は実が大きくていいよね。あと栗や山菜、キノコ類なども採れるかな。他にはサトイモ。もちろん薬草はいっぱい見つけられるよ。今は夏だけど、ぼくの力でちょっと操作してもいいし」


 操作というのは、秋に採れる実などを夏の今、採れるようにするという意味だ。


「うん……森には色々あるとは思うけど……果物は実が小さくて、あまりお腹の足しにならないものが多いよね。やっぱり果物は買っておいたほうがいいのかな」


 確かにベリー系などの山で採れる果物はどれも小さく、お腹の足しになるかと言えば、そうでもない。


「お肉も自分でうさぎを捕まえて、なんてのはテラはしないよね? ファルは出来るかもしれないけど、お肉も必要なら買っておいた方がいいかも?」


「た、確かに、私にはちょっと厳しいかな……」


 肉の調達を考えれば、これもやはりテラには難しいと思われた。



「村に住むことになれば、卵を確保するための鶏、バターやチーズ用に山羊や羊の飼うといいね。麦やナッツ類、果物の木を植えたりも」


「そうだわ。ナッツだったら、可能ならアーモンドを植えてみたい! アーモンドが栽培出来たら、売るのもアリよね」


 以前、ファルにもらった珍しいアーモンドがとても美味しかったのを思い出し、テラの想像が膨らむ。


「うん。食べ物は栽培したり飼育したりで、手に入るように。10年くらいで精霊の力がなくても生活ができるような村が作れたらいいかなって」


 村での生活の具体案を述べたリーフは、さらに続けた。


「もちろん、森の外に買い出しに行ったりする必要は常にあるけど、村は『帰る場所』になれたらと思ってる。旅に出ても、帰る場所があるって」


「帰る場所かぁ……。これからずっとだし、ゆっくり少しずつ、作っていけたらいいね。私にも、帰る場所が出来るんだね」


 テラは遠くを見つめるように空を仰ぐと、リーフに視線を移して柔らかく微笑んだ。


「テラ……ごめんね。ぼくのせいで……」


「リーフと一緒にいるって決めたのは私なの。嫌だったら、再契約してないよ?」


「……うん。ありがとう、テラ……」


 リーフは繋いでいたテラの手をぎゅっと握りしめた。


「ね、一緒に『帰る場所』を作ろう? 私も含めて、永く生きる守り人が安心して帰れる場所、落ち着ける場所。旅に疲れた守り人が立ち寄れる安息の地よ。すごく良いなぁ!」


 二人の後ろを歩きながら、こっそりと聞いていたファルとリモは、目を合わせてにっこりと微笑んでいた。



 こうして一行はいろんなお店に立ち寄り、あれこれと買い物をして回った。


 両手に持てなくなったら、建物の影に隠れては依り代に入れてもらい、さらに買い物をしていく。

 それを幾度となく繰り返し、夜になる頃、ようやく、買い物を終わらせることが出来た。



「買い物は済んだと思うけど……大変だわ。2カ月分のお給料くらいお金を使っちゃった……」


「仕方ないさ。なんでも最初は金がかかるもんな! 俺も同じくらい使っちまったよ。はははっ」


 ファルは笑いつつも、ファル・ハート・シリーズ第三弾を考案するのもアリだなと、本格的に新たな図案を描く気持ちに傾いていた。



 ◇ ◇ ◇



 今日一日、別行動をしていたアレクも、馬車の予備部品や備品などを買い揃え、これからの14日間の旅に備えていた。


「何か、買い忘れたものとか無いかな……」


「大丈夫よ? いつも通りじゃない?」


「……契約料もかなり貰っているし、何かあるとやっぱりね……」


 アレクの心配はどこまでも尽きないようだった。


「イーストロードから南下するノーサンロードは田園風景のほうが多いわ。メインズロードも山道というほどでもないし、急な坂もない、急な曲がり道もない、のどかなものよ」


「フィリスは行ったことがあるの?」


「ずいぶん前に通ったことがあるわね」


「そうなんだ。僕はメインズロードは行ったことが無いし、イーストゲートより南へ行ったのは一度だけなんだ。正直、不安だよ」


 アレクはどうにも落ち着かない様子で、部屋の中を右往左往としていた。


「ふふっ。大丈夫よ。イーストロードを問題なく走れるんだから、そんなに心配しなくても」


「イーストロードは駅馬制があるからね……この先には無いけど……」


 アレクの表情は、話を重ねるごとにどんどんと暗く沈んでいた。


「そんなに心配?」


「そりゃそうだよ。お客さんを乗せて走るんだ。慣れてない道なんて、何があるか分からない。危険な場所も知らない……不安じゃないって言ったら噓になるよ」


「……確かに、誕生花がヒイラギなだけあるわね。ふふっ」


 フィリスはアレクの誕生花を知ってから、彼を見る眼差しが少し変わっていた。


「? どういうこと?」


「何でもないわ。仕方ないから、明日からは私、依り代から出てアレクの隣に座っておくわ。それでいいかしら」


「え、フィリス、僕の隣に? ほんとに?」


 フィリスの思いもよらぬ提案に、アレクの表情が一転して明るくなった。


「ええ。本当よ。それで不安が少しは解消されるといいのだけど」


「あ、ありがとう、フィリス!」


 アレクは満面の笑みを浮かべてフィリスの手を取ると、とても嬉しそうに礼を言った。



 フィリスがアレクと契約した理由は、血の匂いだった。

 それは精霊ならば当然のことだった。

 けれど、一緒に過ごすうちに、アレクの性格も気に入ったし、養父思いな優しいところも気に入った。

 たくさん稼いで養父に孝行がしたいという願いを、手伝おうと決めた。



 それにしても、誕生花がヒイラギだったなんてね。



 これまで契約した守り人の誕生花なんて気にしたことも無かったのに、フィリスはなんだか嬉しくなって、無意識に頬が緩んだ。


 彼女は時々、気まぐれで守り人と契約し、気まぐれで契約を解除する。

 守り人と長い時間を共にしようとは思っていないし、そうする理由も無い。

 フィリスは守り人を必要としない精霊だった。


 しかし、もう暫くアレクの傍にいるのもいいかもしれないと、ヒイラギを誕生花とする彼を、放っておけないような気持ちになっていた。




 いよいよ明日の朝、一行はイーストゲートを出発し、ノーサンロードを南下していく。


 アレクはテラとファルと落ち合い、イーストゲートでの最後の夜を再び『焼きとり店』で満喫するのだった。


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