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刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―  作者: Tomi
第二章『旅』終着編

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139 買い物相談

 

 翌朝、早起きをしたテラとファルは朝食を軽く済ませると、リーフたちも一緒に早々に市場へと向かった。


 イーストゲートでは食料以外にも衣類や生活雑貨など、あらゆるものを購入するつもりでいた。

 これらは、村での生活や、エルナス森林地帯を1カ月近く歩くためのものとなる。

 今日一日で買い物を終えられるのかと心配しつつも、二人はとにかく買えるだけ買おうと意気込み、そのために財布にはそれなりの額のお金を用意してあるのだ。



 やがて、まだ人出の多くない市場に到着した一行は、市場の一角にある広場の片隅で、まず何を買うか、どこに行こうかと相談をしていた。



「私、新しい台所用品を買いたいわ」


 テラは旅では出来ない料理をするために、新しい調理道具を揃えるつもりだった。


「俺も家に住むなら台所用品は必要だな。今まで旅ばかりだったから、そういうのは何一つ持ってないが……」


「あら、それは大変ね! ファルは鍋からお皿からカップから、全部揃えないと!」


 大変ねと言いつつも、テラの表情には笑みがこぼれていた。


「うへぇ……俺、そういうのあんまり……」


「だけど、自分の家を持つなら必要よ? どうやってご飯食べるの?」


「テラの家に食べに行くかな」


「ええ!?」


「冗談だよ。自分の飯くらい自分で作るさ」


 とは言ってみたものの、ファルの目は泳いでいた。


「ファル、作れるの?」


「まあ……なんとかなるだろ! ははははっ」


「ほんとかしら……」


 若干呆れつつ、テラはジト目でファルを見ながら、もしかしたら二人分の食事を作ることになりそうね、と少しばかりの覚悟を決めたのだった。



「ところで、リーフ?……家ってどれくらいの大きさになるのかな」


 宿を出る少し前に、エルナス森林地帯での家について、リーフから話があった。

 家は、白いアカンサスの精霊カスタスに協力してもらえることになっている、ということだった。


「ぼくも詳しくは分からないけど、たぶん普通の家? ふたりで生活するくらいというか……ヘリックスは知ってる?」


「さあ、どうかしら? 私も詳しくは分からないわ。だけど、精霊界の自分の家があるでしょう? あんな感じじゃないかしら。それと、森の中だからたぶん木で作られた家よ。そこにある材料を使って建てる感じね」


 ヘリックスは、カスタスが建物を造る際にその場の材料を活用するらしい、ということは知っていた。


「なるほど! 木を材料に、力を使って家を創るのね。木の匂いがするとてもいい感じの家になるわね! リーフの精霊界の家も木で出来てて、可愛らしい家だったもの」



 テラはリーフの精霊界の家を頭に浮かべ、そういえばあれ以来一度も行ってないなと、ふと思い出した。


「リーフの家、また行ってみたいんだけど……また連れて行ってくれる?」


「もちろんだよ。庭を一緒に作る約束、ちゃんと覚えてる」


 リーフはテラの手を恋人つなぎでそっと握ると、二人は見つめ合った。


「ふふっ。よかった。リーフの精霊界の家は、私にとってもすごく大切な場所だもの」

 

 リーフの優しげな緑の瞳がキラリと輝いて、テラはその瞳に吸い込まれるようにポウっとして目が離せなかった。

 テラは、リーフの木の家で初めてキスした日のことを思い出していた。



「なんかすげー熱いな。このあたりだけが熱いのかな」


 その声にハッとしてテラが我に返ると、ファルがニマニマと笑っていた。


「も、もう! ファルったら!」


「いやいや。テラが所かまわずイチャイチャしてて面白くてな!」


 思わずにやけてしまって口元が緩んでいたところに、リモが声をかけた。


「ファラムンド。二人をいじってないで、買うものちゃんと考えて。揃えたい物がいっぱいあるでしょ?」


「おおっ! 俺の嫁さんはしっかり者だな!」


「当たり前じゃない。ファラムンドとお揃いの物だって色々買いたいし、色々見たいし、早くしなきゃ一日が終わっちゃうわ」


「それじゃまずは、台所用品を見に行くとするか。そのあと、布団とか布だな。衣類も見に行こう。工具や道具類、野宿用品はだいたい持ってるが、買い足すのも含めて見に行くか」


「あ、私、お裁縫用品のお店にも行かなくちゃ!」


「了解だ! まあ、なんだ。もう、一通りだな!」


「あとは……畑を耕す道具もいるわよね。それから食料になる色んな野菜の種も欲しいし……」



 欲しいもの、揃えたいものが次々と挙げられるのを聞いていたリーフは、つい、口を挟んだ。


「当面はぼくが野菜を育てるよ。いきなりあれこれするのは大変だから。数年かけて、森の外に行かなくても生活できるようになれれば、と思ってる。村を作るのは大変だし、ゆっくりでいいから。ね?」


「そうよね……。なんでもかんでも一気には出来ないもの。なんだか焦り過ぎちゃってたかも……」


 テラは『ゆっくりでいい』と言われ、ちょっと反省した。



「とりあえず、まずは水回りじゃないか? 建物があっても、畑を作るにしても、水が無いとな」


「水……家の中に水を引き込みたいかも……。井戸でもいいけど」


「まあ、そのへんは行ってからだな! 行ってみないことには分からないだろう?」


「行ってから……そうだよね…………やっぱり、最初は1週間くらい滞在して、それから一度森の外に出て、あれこれ買い出しするほうがいいような気がしない?」


 テラの言う事はもっともだった。

 どんな場所で何が必要か、見てみなければ分からない。


「しかし、一度森の外に出たら、往復で40日から50日くらい戻れないだろ? 森に入って20日から25日はかかるって話だったと思うが?」


「それでも、私たちは先が長いから……」


「まあな。時間の流れを気にすることも……いや、だが、やっぱり40日も50日もって、ちょっと時間かかりすぎだろう?」



 テラとファルのやり取りを聞いていたヘリックスが、満を持したように、ちょっと得意げに、声を上げた。


「ひとつ、いい方法があるわ」


 ヘリックスは真剣な顔でテラとファルを交互に見つめた。


「いい方法ってなんだ?」

「いい方法?」


 二人は興味深げに少し身を乗り出した。


「中心部にあるセイヨウトネリコの樹の根元に、守り人だけが通れる入口があるの。その入口と、精霊界にある家、例えばリモの家とかだけれど、繋げることが出来るわ。そうすれば、守り人だけは中心部へ帰ることが可能よ」


「ええ? どういうことだ?」


 ファルはいまいちピンとこなかった。

 テラも首を傾げ、よく分かっていない様子だ。


「精霊と一緒に、まずは精霊界の家へ行く。そして、守り人だけ中心部へ抜けられる。精霊は通れないから、精霊界の家に残される。精霊界から人間界へ行くとき、精霊は自分が宿る場所、あるいは依り代へと戻るから、守り人が依り代を持っていれば、依り代がある場所へ戻れる、というわけよ」


「そうだったわ。私、セイヨウトネリコへは、すでに一度行ってるの。精霊界の私の家とその入口を接続してるのよ」


 ヘリックスの説明に、リモが思い出したように説明を付け加えた。


「リモ、そうなのか? それじゃ、俺はもう、そのセイヨウトネリコがあるという中心部に行けるのか!?」


 ファルは前のめりになって、期待を込めてヘリックスに尋ねた。


「それは無理ね。入口の開通は、セイヨウトネリコの樹の根元、入口側からしか出来ないのよ。だから守り人は、中心部まで一度は歩いて行かなければならないわね」


「……ま、そう簡単じゃないってことか」


 もしかして、とちょっと期待したファルだったけれど、そううまい話は無いものだ。


「そして、その入口から入れば、契約する精霊の家へと直通で行けるようになる。その道が開通すれば、精霊を伴わずにその木の根元から行き来出来るってわけ。ただし、契約解除すれば当然だけれど通れなくなるわ」


「なるほどな。それじゃ、リモと二人で森の外に出て、買い物をしてから精霊界の家へ連れて行ってもらう。俺はそのまま開通している道を通って、森の中心部へ帰る。リモは俺が帰ったのを見計らって、人間界の依り代、つまり、俺の元へ帰ってくる、というわけだな。行きだけの日数で、帰りは楽々ってことだ!」


 ファルは往復する必要が無いと知り、喜びもひとしおでグッとこぶしを握った。



「リモはすでに接続しているそうだから、リモがいなくてもファルは中心部にさえ行けば、リモの精霊界の家へ行ける、ということでもあるわね」


 ヘリックスは、その仕組みを改めて確認するようににっこりと微笑んで話した。


「まあ、俺とリモが別々にってことは滅多に無いとは思うが……」


「それは分からないじゃない? すでに接続してあるなんて、リモ、いつ中心部に行ったの?」


 リモが中心部と家を接続済みだと聞いて、ヘリックスは意外すぎて改めてリモに尋ねた。


「リーフと精霊界に行った時よ。精霊界の中心に行ったら、ちょうどセイヨウトネリコの精霊フラクシスに会ったの。そして、直接連れて行ってくれたのよ」


「ずいぶん珍しいのね。フラクシスに会えただなんて」


 フラクシスは滅多に姿を現さないため、ほとんどの精霊はフラクシスに会ったことが無いのだ。



「セイヨウトネリコの精霊!? やっぱりいるのね! いるんじゃないかと思ってたけど! セイヨウトネリコという樹は昔から信仰があるもの。……それじゃ私たちは……セイヨウトネリコの精霊のおひざ元に村を作るのね。……賑やかになって、大丈夫なのかな?」


「フラクシスには話を通してあるから、大丈夫。ちゃんと話してあるし、賑やかなのは嫌いじゃないって言ってた。楽しみにしてるって」


 リーフは穏やかな笑顔で、テラを安心させるように話した。


「リーフ、知らない間に色んな精霊に会って、村のことを話してたのね。リーフもその入口と家を繋げてあるの?」


「ぼくはまだ繋げてないんだけど……」


「リーフとリモが精霊界へ行った時なら、その時はまだ、リーフの家には名前が無かったものね?」


 ヘリックスはクスクスと笑って、入口と家を接続できなかった原因を面白そうに話した。


「そうなんだけど、中心部に着いたら、今度は接続しておく……」


「私、楽しみだわ! リーフの家に自分で行き来できるなんて!」


 テラは、精霊界のリーフの家に自分で行けるという夢のような話に、嬉しさと楽しみが溢れんばかりだった。



「だが、森から出るだけで20日から25日はかかるんだ。あとで買い出しをするにしても、最低でも1カ月分くらいの食料を常に確保しておく必要があるよな。初めて行く今回は、最低でも2カ月分を持って森に入らないと」


 ファルが真剣な声で買い物計画をまとめた。


「それじゃ、私とファル、それぞれ依り代に2カ月分の食料を用意しておくのは必須ね」


「それと、今後は依り代の中だけでなく、地下や木の上などに食料の保管庫を作るといいかも」


 リーフが依り代を使わない方法を提案した。


「そうだな。それは重要だ。いつもいつも依り代に入れてもらってるが、依り代からは自由に出せない。いつも一緒にいるから不便に思わないが、ゆくゆくは保管庫を作る、と」


 うんうん、とテラも頷いて納得の様子だった。



「さて。だいたい、話はまとまったかしら? 本当にそろそろ買い物に行かないと、遅くなってしまうわ」


 リモは広場から見える市場の人出を確認するように、皆に呼びかけた。


 一行は広場を出て、買い物へと繰り出した。

 せっかく朝早くに宿を出てきたのに、市場はすでに多くの人出でごった返していた。


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