表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―  作者: Tomi
第二章『旅』終着編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/166

135 大雨での野宿

 

 イーストロード駅馬車の旅は順調に進み、5日目を迎えていた。

 今日は朝からどんよりとした曇り空で、今にも雨が降り出しそうだけれどなかなか降らない、蒸し暑い日だった。


 昼食後の休憩をとり、午後6時頃に駅馬の宿場町に到着する予定で、アレクは今日の宿へと馬車を走らせていた。



 山間部を走っていると、緩い曲道が続く道の先に、不自然に止まっている馬車が見えた。

 御者と思わしき男性が馬車の外で何やらウロウロと動いている。


「なんだろう? 故障? こんなところで……」


 アレクは馬車の速度を落とし、その横を慎重に通り過ぎた。


 一瞬、止まる選択が頭をよぎったけれど、客を乗せての運行中に勝手なことは出来ない。

 到着時間の予定もある。

 悪いな、と思いながらの通過だった。



「アレク、ちょっと止まってくれるか?」


 すぐに声をかけたのはファルだった。

 御者台の背中側、車体の前面に連絡用の小窓があり、アレクに直接話しかけることか出来る。


 馬車の窓から外の様子を見ていたファルが、不自然に止まっている馬車に気付き、アレクに馬車を止めるよう頼んだのだ。


 アレクは馬車を止め、ファルに声をかけた。


「ファルさん、どうされましたか?」


「あの馬車、こんな山道で故障してるようだし、ちょっと見てくる」


「ええっ、ちょっと!」



 馬車をサッと降りて、ファルは立ち往生している馬車へと駆け寄って行った。


「アレク、ごめんなさい。ファルはこういう時、放っておけないから」


 テラがファルの代わりに謝罪した。


「いえ、大丈夫です。こんな山道ですから、あの馬車の御者も大変でしょう」


 アレクは、本当は自分も『止まりたい』と思っていたことは隠しつつ、ファルの行動にこっそりと感謝していた。




「おーい、どうした!?」


「ああっ! 止まってくれてありがとうございます! 故障してしまって困っていたんです!」


 返事をしたのはこの馬車の御者で、中年くらいの男性だった。


「これは……車軸が折れてるのか」


「はい。そのようで、どうしようかと……荷を運んだあとに客を乗せることになっているのに……」


 立ち往生していた馬車は、故障で動けなくなっていたようだった。


 そこに、アレクが駆け寄ってきた。


「故障ですか?」


「ああ、車軸だな」


「車軸……ちょっと待っていてください。確認しますので」


 アレクは馬車の下に潜り込み、故障箇所を確認していた。

 5分ほど待っているとアレクが馬車の下から出てきて、御者の中年男性に話しかけた。


「車軸は交換がいいと思います。見たところ、駅馬車でよく使われている部品ですし、幸い、車輪部分の金具も僕の馬車と同じようです。僕の予備の車軸が使えそうです」


「なんと! ありがとうございます! 助かります! 荷はすぐに降ろしますので!」


 車軸の交換となると、馬車をジャッキで持ち上げる必要がある。

 中年男性は馬車の荷を一旦下すことにした。


「アレクは車軸の予備なんて乗せてるのか! 準備がいいんだな。気付かなかったよ」


 ファルは感心したように、アレクに声をかけ、彼の肩にポンっと手を置いた。



「今回は10日間の旅程で貸切ですので、積んでいました。万が一に備えてです」


 アレクは当然です、と言わんばかりににっこりと微笑んだ。


「ファルさん、ちょっと待っててください。馬車を移動させますので」


 アレクは一旦自分の馬車に戻ると、故障した馬車のそばに着けた。



 馬車に乗っているテラたち4人……テラとリーフ、ヘリックスとリモは馬車の中から様子を見学していた。


「外に出ても邪魔になるだろうし、ここで見てていいよね?」


「いいんじゃないかな。この場で出来ることも無いし」


「ふふっ。確かにね。こんな力仕事は出来ないわ」


「ごめんね。ファラムンドったらすぐ勝手に動いちゃって」


 中年の男性は普通の人、守り人ではないため、精霊は見えない。

 馬車に乗っているのはテラだけにしか見えないので、女の子が馬車に残っているという状況は、特に不思議でも何でもなかった。



 アレクは、車体の屋根の上に固定していた予備の車軸を地面に下ろした。


「僕も御者ですから、ある程度は修理も出来ますが、車軸の交換は一人では厳しいです。ファルさんと、あなたも手伝えるなら……」


「ああ、俺は手伝えるぞ! 何をすればいい?」


「も、もちろん私も手伝います! 私の馬車ですから!」


 腕まくりをした二人は、やる気満々、なのはもちろん当然の流れだった。



「それじゃ、こちらの壊れた車軸を外しましょう。車体を持ち上げておかないといけませんが、ジャッキは2個ありますので」


「ジャッキも2個あるのか! アレクはさすがだな! それじゃ、一つは俺が回すよ」


「では、もう一つは私がやります! えっと、アレクさん? はご指示ください」


 ねじ式ジャッキのハンドルを回し、少しずつ、車体が持ち上げられていった。


 車輪と折れた車軸を外し、車体との接続部を確認する。

 接続部の金具は壊れておらず、そのまま使えそうだった。


「これなら問題なく接続出来そうですね」


 折れた車軸から金具を外し、予備の車軸に付け替えられた。

 予備の車軸は車体にぴったりと適合し、車体、車輪に順調にテキパキと接続された。


 しかし、ようやく修理が完了した頃には、時刻はすでに3時間ほどが経過していた。



「ありがとうございました、本当に助かりました! アレクさん、王立駅務院を通して、お礼は必ず!」


 先を急いでいた中年の御者は、何度も礼を言って、走り出した。



 アレクとファルは馬車が無事に走っていく光景を見送ると、ファルは馬車に乗り込み、アレクは御者台に腰かけた。


「皆、済まない。ずいぶん待たせてしまって」


「ふふっ。いいよ、ファル。そのまま知らぬふりで行っても、ファルは気になって仕方ないでしょ?」


 テラはそんなファルの性格を分かって、笑っていた。

 どんよりとした空から、雨がポツリポツリと降り始めていた。



「雨が降り始めました。我々も急ぎましょう」


 ファルとテラ、リーフたちを乗せて走り出した馬車は、予定時刻を3時間もオーバーしていたけれど、行く手を阻むかのように雨は次第に雨脚を強め、馬車は速度を緩めるしかなかった。


「ずいぶん降ってきたな。アレクは大丈夫なのか?」


「アレクは御者台でずぶ濡れよね? 雨も酷いし、暗くなってきたわ。これ以上は危なくない? ねぇ、リーフ?」


「そうだね。真っ暗闇になる前に、野宿する場所を決めたほうがいいね」


 そうと決まると、御者台に座るアレクにファルが声をかけた。

 車体前面の連絡用の小窓は非常に便利だ。


「アレク! ちょっといいか? 暗くなってきたし雨も酷い。ちょっと止めてくれ!」


「ファルさん、どうしましたか?」


 アレクは降りしきる雨の中、馬車を止めた。



「皆で話したんだ。今日はこれ以上は危ないから、野宿しようってな」


「野宿ですか!? 遠くの空が少し明るいので、もう少し走ればと思っていたのですが……」


 西の遠くの空が、少しオレンジ色に見えていた。

 しかし、宿まであと3時間は走らなければならない。

 到着予定は午後9時を回る見込みだった。



「いや、アレクはそのままだと風邪を引くぞ? それに、暗くなってしまう前に決めたほうがいい」


「確かに、そうですね……決断は、早いほうがいいです。しかし、客人に野宿をさせてしまうとは……」


 ユリアンに破格の代金をもらっているのに野宿だなんて、とアレクは責任を感じていた。



「遅くなったのは俺のせいだ。アレクが気にすることじゃない」


 ファルの言葉にアレクは気持ちをスッパリと切り替えた。

 野宿は避けたいけれど、客人の安全が一番であり、判断は早いほうがいいのだ。


「……わかりました。では、野宿の場所を決めましょう。どこか、良い場所があればいいのですが」



 すると、リーフが横から声をかけた。


「それだけど、すぐそこの脇道に入れる? 分かりにくいけど、木々の間を縫うように脇道があるから」


「承知しました。では、その脇道に入ります。そのあとはどうしますか?」


「50メートルくらい進んだら止めて。その付近に、ぼくがテントを作るから」


「テントを作る!? わ、わかりました。では、出発します」


 アレクはリーフに言われた通りに馬車を脇道に進めた。

 木々が生い茂り、ギリギリ、車体に当たるか当たらないかくらいの狭さだ。



「リーフさん、この辺りでよいですか?」


「うん、ありがとう! それじゃ、そのままちょっと待ってね」


 リーフの瞳が眩いばかりに煌めくと、周囲の蔦や蔓がぐんぐん伸びて絡まり、頭上の木々の隙間を幾重にも重なり、埋めて、屋根のようになった。


 つい今まで馬車を叩いていた雨の音が消え、雨音が遠ざかったように感じられた。


 すると、リーフが馬車を降りて、頭上を見上げた。


「とりあえず屋根を作ったから、これで雨はしのげたよね」



 地面から3メートルほどの位置に作られた切妻の屋根は、広さも十分にあり、テントというより平屋のようだった。

 木の幹がまるで家の柱のように、いくつも立っている感じだ。



「木の幹の間に壁を作って、お部屋みたいにするよ」


 その言葉通り、木の幹は家の柱のように蔦や蔓で作られた壁で繋がり、三つの寝所が出来上がった。


「わーお! リーフ、すげえな! これはテントじゃなくて、家だな!」


 一つ一つの寝所そのものはそれほど広くはないけれど、畳でいえば3畳くらいの広さがあった。

 野宿でテントと思えば、十分な広さだ。


「蔓で床も作ってくれたのね! これなら濡れた地面も関係ないわね」


 ファルとテラは馬車から降りて、久しぶりのリーフの緑のテント、改め、リーフの『緑の山小屋』に大感激の様子だった。



 リモとヘリックスも馬車から降り、リーフが作った緑の山小屋を眺めていた。


「リーフったら、こんなことに力を使いたい放題ね」


「ふふっ。でも、おかげでゆっくり休めるわ」



 アレクも御者台から降りて2頭の馬を馬車から離すと、作られた屋根の下に繋いだ。

 馬も屋根の下に入り、雨をしのげるのは有難い。



「ねぇ、テラ? 火を起こすよね? 早いほうがいいかも」


「そうね! リーフ、道具を出してもらえるかな? 火を起こすのもすごく久しぶりよね」


 テラは火を起こす道具を依り代から出してもらい、さっそく焚火の準備を始めた。


「アレクは着替えたほうがいいんじゃないか? 濡れた服は焚火の近くで乾かそう」


「すごいですね……こんなことが出来るなんて」


 アレクはしばし、呆然としていた。

 こんな力がある精霊もいるのか、と驚きつつも感動を覚えていた。



「ははは。リーフはすごいんだ。アレク、好きな寝所を使ってくれ」


「では、お言葉に甘えて……こちらの寝所を使わせてもらいます」


 アレクは端の寝所を選び、荷物を置いた。

 草の匂いに包まれた、まさに自然の中の寝室だ。



「焚火、できたわ! 久しぶりだったけど、うまくいって良かったわ!」


「おお、ありがとう、テラ。何か作るのか?」


 焚火には大きめの鍋がかけられ、鍋には水が入っていた。

 ファルは、テラが何か作るのかと思い、聞いてみた。


「特に考えてはいなかったけど……スープなら作れるかなぁ。前に作った料理の材料の残りがあったわね」


「うん。依り代の中にあるからね。出そうか?」


「そうね。じゃ、お願い、リーフ」


 料理というのはユリアンの誕生会の時に作った野菜スープで、余った材料を依り代に保管していた。


「野菜スープを作るから、あとは……果物とかパンとか。食べられるものを出しておいてもらってもいいかな?」


「わかった。すぐに出すよ」


 リーフはご機嫌な様子で依り代から食料を出して並べた。

 三人で食べる量としては十分な量だった。


 そこへ、着替えを済ませたアレクが焚火のそばにやって来た。

 手には濡れた服を持っている。


「リーフ、服を干せるような感じのものを、何か作れないか?」


「いいよ。蔓を伸ばして、物干しにすればいいね」


 しゅるしゅるっと蔓を伸ばし、あっという間に物干しが出来た。


「すみません。色々とお世話になってしまって……」


 アレクは焚火の傍に腰を下ろすと、ふぅ、と息をついた。

 全身の力が抜け、ようやく一息つくことができた。


 ここは山の中で、当然野外なのだけど、リーフが作った屋根のおかげで雨は全く感じられない。

 しかし、屋根の外側は、夏の雨がザーザーと降り続いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ