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126 王城生活28 誕生会のあと~秘密

 

「ただいま。部屋に荷物を置いてきたわ」


「ああ、皆、お帰り。ちょうど良かった。僕はそろそろ城に帰らないといけないから」


 ユリアンはテラたちが戻ってくるのと同時に、席を立った。



「ユリアン、もう帰るの?」


「うん。ごめんね。今日はありがとう。誕生会、すごく楽しかったよ! 料理もどれも美味しかった! 本当にありがとう。こんなに嬉しい誕生会は初めてだったよ」


「ユリアンが楽しかったのなら良かったわ。私たちは明日、お昼頃には城に戻るわね」


「うん、わかった。それじゃ、カリスも。またね」


「あ、ええ、また……」



 ゲストハウスを出たユリアンは、待たせていた馬車に乗り込み、フィオネール家の敷地を出る前に本邸に立ち寄った。

 彼は期待と不安の入り混じった気持ちを抑え込み、強く熱い願いを込めて衣装箱を使用人に預けると、ざわつく心のまま王城へと戻っていった。



 ユリアンがゲストハウスを後にしてからも、テラたちはしばらく何気ないおしゃべりをしていた。

 しかし、カリスは時折ぼんやりとして、心ここに在らずといった様子だった。


「カリス、どうかしたの?」


「あ、ごめんね、テラ。あのね……」


 カリスは皆に相談しようかと思った。


「ん?」


「ううん……私も、今日はもう本邸に戻るわ。皆はゆっくり過ごしてね」


「ええ、ありがとう、カリス。また明日ね。今日は楽しかったわ!」


 それじゃ、とカリスがゲストハウスを後にするのを見送った。


 テラたちは、カリスの左手の薬指に指輪がキラリと輝いているのを見逃しはしなかった。



「なあ、テラ。見たか? カリスの左手の薬指!」


 ファルは前のめりになって、興奮したようにテラに話しかけた。


「見たわよ! あれ、ユリアンからよね? さっきまで指輪なんてしてなかったもの」


「あの指輪、手作りだぞ。俺が指輪を作るときに、じつは、市場でユリアンと一緒に土台になる指輪を買ったんだ。あの時の指輪、やっと完成したんだな!」


「そうだったのね。手作りしてカリスに贈ったなんて! しかも左手の薬指よ。ユリアン、もしかしてプロポーズしたのかしら」


「舞踏会に誘ったんじゃないか? 17歳の誕生日の舞踏会で踊るってのは、意味があるんだよな? なあ、リモ。リモは知ってるんだろ?」


「ええ。17歳の誕生日の舞踏会は、婚約者を発表する場になっていて、婚約者とダンスしてお披露目するそうよ。これまでそうしてきたって聞いてるわ」


 リモは王城生活の中で、何度も舞踏会にゲスト参加してきたおかげなのか、その時々の舞踏会の意味や慣習などを色々と教えてもらっていた。


「てことは、カリスもか!?」


「ユリアンは婚約者が決まっていないから、今回はそういう予定は無いのよ。だから、ユリアンが誰と踊るかが注目されるし、ファーストダンスはもとより、2番手、3番手も注目でしょうね」


「そんな何人も踊るのか!」


「婚約者が決まっていない場合は、候補の女性たちと踊るそうよ。ユリアンとぜひって御令嬢はいっぱいいるのよ? 舞踏会は何度も見てきたけど、ユリアンが動くだけてザワついて黄色い声が飛び交っていたもの」


 リモはこれまでの参加した舞踏会を思い返し、黄色い歓声の中でも意に介せずだったユリアンを回想して、思わず口元がゆだいま。部屋に荷物を置いてきたわ」


「ああ、皆、お帰り。ちょうど良かった。僕はそろそろ城に帰らないといけないから」


 ユリアンはテラたちが戻ってくるのと同時に、席を立った。



「ユリアン、もう帰るの?」


「うん。ごめんね。今日はありがとう。誕生会、すごく楽しかったよ! 料理もどれも美味しかった! 本当にありがとう。こんなに嬉しい誕生会は初めてだったよ」


「ユリアンが楽しかったのなら良かったわ。私たちは明日、お昼頃には城に戻るわね」


「うん、わかった。それじゃ、カリスも。またね」


「あ、ええ、また……」



 ゲストハウスを出たユリアンは、待たせていた馬車に乗り込み、フィオネール家の敷地を出る前に本邸に立ち寄った。

 彼は期待と不安の入り混じった気持ちを抑え込み、強く熱い願いを込めて衣装箱を使用人に預けると、ざわつく心のまま王城へと戻っていった。



 ユリアンがゲストハウスを後にしてからも、テラたちはしばらく何気ないおしゃべりをしていた。

 しかし、カリスは時折ぼんやりとして、心ここに在らずといった様子だった。


「カリス、どうかしたの?」


「あ、ごめんね、テラ。あのね……」


 カリスは皆に相談しようかと思った。


「ん?」


「ううん……私も、今日はもう本邸に戻るわ。皆はゆっくり過ごしてね」


「ええ、ありがとう、カリス。また明日ね。今日は楽しかったわ!」


 それじゃ、とカリスがゲストハウスを後にするのを見送った。


 テラたちは、カリスの左手の薬指に指輪がキラリと輝いているのを見逃しはしなかった。



「なあ、テラ。見たか? カリスの左手の薬指!」


 ファルは前のめりになって、興奮したようにテラに話しかけた。


「見たわよ! あれ、ユリアンからよね? さっきまで指輪なんてしてなかったもの」


「あの指輪、手作りだぞ。俺が指輪を作るときに、じつは、市場でユリアンと一緒に土台になる指輪を買ったんだ。あの時の指輪、やっと完成したんだな!」


「そうだったのね。手作りしてカリスに贈ったなんて! しかも左手の薬指よ。ユリアン、もしかしてプロポーズしたのかしら」


「舞踏会に誘ったんじゃないか? 17歳の誕生日の舞踏会で踊るってのは、意味があるんだよな? なあ、リモ。リモは知ってるんだろ?」


「ええ。17歳の誕生日の舞踏会は、婚約者を発表する場になっていて、婚約者とダンスしてお披露目するそうよ。これまでそうしてきたって聞いてるわ」


 リモは王城生活の中で、何度も舞踏会にゲスト参加してきたおかげなのか、その時々の舞踏会の意味や慣習などを色々と教えてもらっていた。


「てことは、カリスもか!?」


「ユリアンは婚約者が決まっていないから、今回はそういう予定は無いのよ。だから、ユリアンが誰と踊るかが注目されるし、ファーストダンスはもとより、2番手、3番手も注目でしょうね」


「そんな何人も踊るのか!」


「婚約者が決まっていない場合は、候補の女性たちと踊るそうよ。ユリアンとぜひって御令嬢はいっぱいいるのよ? 舞踏会は何度も見てきたけど、ユリアンが動くだけてザワついて黄色い声が飛び交っていたもの」


 リモはこれまでの参加した舞踏会を思い返し、黄色い歓声の中でも意に介せずだったユリアンを回想して、思わず口元がニヤリとなった。


「そうなのか。まあ、ユリアンはモテるよな……」


「ええ。モテモテね」


「だが、それでも、ユリアンはカリスと踊るんじゃないか? 指輪も贈っているし、それで他の女性とだなんて、ユリアンはそんな奴じゃないからな! ユリアンはカリスとしか踊らない。もしカリスが来ないなら、誰とも踊らないさ」


 ファルはユリアンの心情を思い計り、ユリアンの行動を想像した。

 ユリアンならきっとこうすると自信を持って言えた。



「まあでも、何にしろ、良かったわ。二人きりにして正解だったってことだし。それに、この誕生会も大成功だわ」


 ファルとリモのやり取りを聞いていたヘリックスは、かなり満足げだった。

 ヘリックスはユリアンの恋愛がうまくいくことにしか興味がなかった。


「ヘリックスは契約があるからな。いつまでも友達関係じゃ、待ちぼうけになっちまうもんな」


「そうよ。子どもを授からないとユリアンとの契約が終わらないもの。あとは、カリスが舞踏会へ行って、ユリアンの手を取るのかどうか、ってところかしら」


 ヘリックスの契約は子孫繁栄。

 ユリアンと契約して、子孫繁栄を約束している。

 子どもを授かるまでが契約だから、無事に契約満了してもらわないと困る、というのがヘリックスの本音だ。


「あら。それは大丈夫だと思うわ。だってカリスは……あっ、いえ。えっと……私の予想では、カリスはきっと行くってことね」


「お? リモは何か知ってるのか? ま、カリスが行くなら、何でもいいさ。俺は二人に幸せになってもらいたいだけなんだ」


 ファルは二人が結ばれるのは当然と言わんばかりに、腕を組んでどっしりと座っていた。




「それと、もうひとつ、いいかな? 出発の日なんだけど。みんな揃ってるし、決めておかない? リーフは何かある?」


「そうだね、テラ。リモがユリアンの舞踏会にゲスト参加するから、その後だよね。翌日か、翌々日?」


「翌日だと何だかバタバタな気がするから、翌々日にしない? どうかな?」


「うん、ぼくはそれでいいよ。ファルはどう?」


「ああ、俺もいいぜ。ヘリックスとリモもいいか?」


「私もそれでいいわ。最後の日はゆっくり、王都の町を探索してもいいし、王城でのんびりしてもいいし」


「そうね。二度と来ないかもしれないものね。5カ月、長かったようで、あっという間だった気がするわ」


 王都を発つ日は、ユリアンの誕生日の翌々日に決定し、5人は王都での日々を懐かしく思い返していた。



 ◇ ◇ ◇



 ゲストハウスから本邸に続く石畳を歩きながら、カリスは考えていた。



 皆に相談しようと思ったけど……

 もし断った時に気まずくなってしまわないかしら。

 ユリアンが皆と距離を置くかもしれないし

 私も……。


 それは、嫌だな……



 カリスが本邸の自室に戻ると、ユリアンが預けた衣装箱がデンと置かれていた。


「こちらはユリアン殿下からの荷です。先程、殿下がお嬢様にと……」


「ありがとう、マリ」


 マリはカリスの専属侍女で、カリスが幼い頃からずっと傍に居る、気の置けない相手だ。


「お嬢様、指輪を嵌めていらっしゃるのですね?」


「これ、ユリアンが……手作りの指輪なの」


「殿下の愛が籠もった指輪なのですね!」


「そう、なるのかしら」


 カリスは左手の薬指に輝く銀の指輪をそっと撫でた。

 ユリアンが心を込めて作ったと聞いただけで、その銀の輪が何よりも貴重な宝物のように感じられた。


「ええ、間違いなく! 愛がたくさん詰まった愛の結晶でございますね!」


「そうよね……愛の結晶……」


「荷物のほうは、もしや、舞踏会のドレスでしょうか?」


「そうなの。ユリアンがね、これを着て舞踏会に来てって。一緒に踊ってほしいって言われたの」


「お嬢様!! 想いが通じたのですね!」


 想いが通じた、というマリの言葉に、カリスは少しだけ、表情が曇った。



「……私、リモのしおりを使ったのよ」


「リモ様のしおり……をですか?」


 マリは当然ながら、リモのしおりがどのような物かは知っていた。

 リモのしおりは貴族の間でとても有名で、それを持つと恋愛が成就すると云われる品だ。



「ええ。リモが私のために、特別な加護を付けてくれて。いつ、それを使うのかも教えてくれたの」


 カリスは化粧台の引き出しから、リモにもらったしおりを取り出した。



「特別な加護ですか? それはどのような……?」


「私に対して本当の思いを話すように……」


「そのような加護があるのですね! その加護が効いていたということでしょうか?」


「そう。『その時は次に会う時』ってリモから聞いたの。次に会う時というのは、今日のこと。だから私、しおりに願ったのよ」


「何を、願ったのですか?」


「ユリアンはいつも曖昧なの。意味が分からないの。思わせぶりで、大切なことはいつもはぐらかされて……だから……本当の気持ちが聞きたいって」


「それで、今日、本当の気持ちが聞けたということなんですね!?」


「うん……聞けたわ。でも、想像してたよりも大変なことになって……」


 カリスはそう言いながら、しおりをぎゅっと握りしめた。

 指輪と、愛の告白と、そして後継に関する重大な秘密。



「……衣装箱、開けてみますか?」


「そうね……ドレス、出してもらえる?」



 マリは衣装箱の蓋を開け、ドレスを包んでいるリネンの布を慎重にめくった。


「お嬢様! このドレスは!」


「……紫のドレス……!」


 それは、ユリアンのライラックのような髪色を思わせる淡い色から始まり、優雅なロイヤルパープルを経て、夜空のような紺色のユリアンの瞳の色へと移ろう、息をのむような美しいグラデーションのAラインドレスだった。


 生地には、まるで月の光をすくい取ったかのような、極細の銀糸がラメのように織り込まれていた。

 それは動くたびに、夜空のようなユリアンの瞳の色と、淡い紫の髪色を、優しく幻想的に結びつけていた。



「このドレスを着て舞踏会に行くだけでも、お嬢様が特別なのだと誰もが認識します! そして、ユリアン殿下が、お嬢様の手を取るのですね!! なんて素敵な光景でしょうか! 私、目に浮かびました!」


 マリは二人が手を取る光景を目に浮かべ、瞳を輝かせて興奮したように話した。



「こんなドレスを着て舞踏会に行けば……私、王族の仲間入りね。ユリアンと婚姻を結ぶって公に宣言するようなものだわ」


「確かにそうなります。でも、お嬢様は、ユリアン殿下と婚約することも考えていらしたからこそ、本当の気持ちを聞きたかったのですよね?」


「もちろん、そうよ。ユリアンから招待状をもらった時点で考えたわ。ユリアンが私と踊りたいと思ってくれるなら……すごく嬉しいって思ったの。私は、ユリアンと踊りたいと思ったのよ。……だから、知りたかったの。誤魔化したり、はぐらかしたりせずに、ちゃんと言ってほしくて」


「良かったですね! お嬢様の願いが叶ったのですから!」


「でもね……私、王妃になるなんて、そこまで考えていなかったから」


「王妃、ですか?」


 マリはきょとんとした顔でカリスを見た。


「ユリアン、アイリオス王の後を継ぐそうなの。第三王子のユリアンが、次の王だってユリアンが教えてくれたのよ。これは決定事項だって」


「なんと……!」


「だから、それを踏まえた上で、このドレスを着て、僕と踊ってほしい、待ってるからって言われたのよ」


「そこまで本気で考えておられると……」


「確かに、ユリアンと婚約という覚悟は決めていたわ。けれど、私が将来の王妃だなんて……」


 カリスは俯いて自分の手をぎゅっと握り、薬指の指輪に指を添えて、思い悩んでいる様子だった。


 マリはカリスの手に自身の手を添え、励ますように、言葉をかけた。


「私は、お嬢様は立派に王妃の務めを果たされると思います! ユリアン殿下と支え合い、仲睦まじいご夫婦になられると確信しておりますよ! お二人はとても、お似合いですから!」


「マリ、ありがとう。そう言ってもらえると、なんだか勇気が湧いてくるわ」


 ちょっと涙目になりながら、カリスはマリににっこりと微笑んだ。



「あ、お嬢様、ちょっと待ってください。ドレスの下に小さな木箱が……ドレスに合わせた装飾品かもしれません」


「装飾品まで?」


 木箱を開けると、中には可愛らしいハートのペンダントが入っていた。


 万年筆で描いたような柔らかな曲線が特徴的な、ふたつのハートが絡んでひとつになったハートのペンダントは、細く繊細なチェーンが肌の上を滑り、キラキラと煌めいていた。


「わぁ! すっごく可愛らしいペンダントね!」


「お嬢様、このペンダント、貴族の間で最近とても流行っているという大人気の『ファル・ハート・シリーズ』のものではないでしょうか」


「ファル・ハート・シリーズ?」


 普段のカリスなら流行に敏感で、すでに知っていてもおかしくない情報なのだけれど、ここ1カ月は思い悩むことばかりで、友人たちとの交流からも遠ざかっていた。



「なんでも、新人の有望な図柄職人が考案したのだとか。この繊細なチェーン、美しい曲線のハート柄、間違いないですよ! ユリアン殿下もお好きなのですね! ファル・ハート・シリーズは第一弾が発表されていて、もうすぐ第二弾が出されるとのウワサです!」


 ファル・ハート・シリーズ第一弾『あなただけ』と名付けられたペンダントは、すでに商品化が進み、貴族の間で大人気となっていた。



「ふふっ。マリはよく知ってるのね、それにしても、ファルって……」


「お嬢様、このペンダントはドレスにとてもよく合うと思いますよ! ドレスの邪魔をしない控えめなサイズですが、それでいて、存在感のある輝きがあります!」


「そうね。とても可愛くて、気に入ったわ。ドレスも素敵だけれど、このペンダントは毎日でも身に着けたいわね」


 ファルって、と気になったのだけど、カリスの思ったとおりで、これはファルが考案した装飾品だった。

 カリスに贈られたものは、王妃に届けられた第二弾の試作品。

 これは『ふたつの心』と名付けられる予定の未発表の新商品で、試作品が王妃の手からユリアンへと渡されたものだった。


いつも『刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜』を読んでいただき、ありがとうございます!

次回『127 王城生活29 再会と再契約』更新をお楽しみに!

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