09 約束
800年前。
ぼくが生まれてから100年くらい経ってからだったかな
あの神殿に、とても甘くていい匂いがする彼がやってきたのは
アクォリア神殿はぼくが生まれる前に
人の手によって建てられた神殿で
ブライトウッドの村はどんぐり信仰が盛んで
アクォリア神殿はどんぐり信仰の中心だった
そういった背景もあって
ぼくはアクォリア神殿に宿ったんだ
100年の間に何人かの守り人が神殿に来たけれど
契約したいと思ったのは彼が初めてだった
とても甘くていい匂いがする彼と血の契約をしたくて
彼が神殿に来た時に、ぼくは彼の前に姿を現した
血の契約をすると不老不死になる事、
血をもらう代わりに、ぼくが力を貸す事、
それともうひとつ、テラにはまだ言ってない事も含め
彼に話したんだ
ライルは「考えさせてほしい」と言って帰ったんだ
それからしばらくして「守り人にはなれない」ときっぱり断られてしまった
ところが、気落ちしていたぼくの所に再び彼がやって来て
「力を貸してほしい、血の契約がしたい」と言ってきたんだ
当時不作になっていた田畑を
ぼくの力でどうにか出来ないかと考えてのことだった
もちろんぼくは力を使った
ライルはとても驚き、感謝してくれた
そして、ライルとの血の契約
ライルには家庭があって、妻子がいると言っていた
不老になったら怪しまれるからと
妻子を残して3年で村を出ようと約束した
ライルは不老不死になったことを家族に隠していたんだ
家族は大切だけど、ぼくのことも大切だと言っていた
ぼくの存在は大陸中を豊かにする、と
そんなぼくの守り人になれたのは大変光栄だ、と
ライルの頼みでぼくは時々力を使った
ライルは必要な時だけ依り代を持ち
ぼくの力を必要とする場所へぼくを連れて行ってくれた
力は使えば使うほどぼくは強くなれるから
それでいいと思ってた
ぼくのために毎日神殿に通い
ぼくとたくさん話をしてくれた
たくさん未来の話をした
本当は毎日血が欲しかったけど
そんな優しいライルには言えなかったし
3年後、ふたりで村を出たら
その時になったら
『血とチカラ』のことを言おうと思ってた
それでいいと思ってた
そして、3年目の夏
村を出る準備をと考えていた矢先
皆既日食が起きた
そして、皆既日食でぼくの守護が消失したその時
たった数分の間にライルの血の匂いが、気配が、途絶えた
皆既日食の数分の間、精霊の力は弱まってしまう
分かっていたのに
ぼくが毎日血をもらって力をもっと高めていたら
ずっとライルのそばに居たら
ライルを死なせずに済んだはずなのに
あの時のぼくは弱くて、何もできなかった
ライルのそばに行けなかった
ライルの最期すら見れなかった
ぼくと共に永遠を生きる決断をしてくれた初めての守り人
ぼくが初めて永遠の愛と絆を誓った大切な守り人
とても懐かしくて、とても悲しくて、とても大好きな匂い
リーフは果たせなかった約束を思い返し、大切な守り人ライルへと遠い記憶の彼方に思い馳せていた
『どんぐり精霊』を読んでいただき、ありがとうございます!
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