102 王城生活04 報告会
リーフたちが休日をゆっくりと過ごしていたこの日。
ユリアンは父であるアイリオス王に報告の場をセッティングしてもらっていた。
この報告会には、母であるアリエラ王妃、長兄であるカミル第1王子、次兄であるセシル第2王子、さらに、父王と契約するオレガノの精霊カルバも同席していた。
「ユリアン、最近、忙しくしていたみたいだったね。報告はあちこちから上がってきているよ」
そう話すのは、冷静沈着な表情を浮かべたカミル第1王子だ。
「すみません、報告が遅くなってしまいました」
「構わないよ。それで、改めてどういった話なのか聞かせてくれ」
「私の視察に、精霊たちを同行させたいと考えていて、その許可と、また、視察に行く場所も厳選したく」
ユリアンは背筋を伸ばし、一言一句、慎重に言葉を選びながら、父王と兄たちに向き合った。
「精霊たちが自ら同行すると?」
「はい、私が契約するヘリックス、それとリモ、リーフも同行すると言ってくれておりますので」
「ふむ……カルバはどう思う?」
アイリオス王は、隣に座るオレガノの精霊に問いかけた。
「ユリアンはずいぶん信頼されているのね。そうね……リーフはどこに連れて行っても何でも出来そうよ。ヘリックスとリモは場所が限られるかしら。私なら、リモを舞踏会に連れて行きたいわね。社交会で大活躍してくれそうだもの!」
カルバは悪戯っぽく微笑んだ。
「私は、ヘリックスには孤児院の視察に同行してもらいたく。彼女は生年月日を特定できるため、今後、戸籍制度を作る際にも重要かと」
「ほう。それは素晴らしいね。しかし、カルバ? 社交会で活躍とは?」
「これから社交シーズンでしょう? リモは恋愛を成就させる精霊だから。リモがいるとなれば、大人気の舞踏会になるわね。晩餐会、音楽会・演劇鑑賞会、狩猟会、なんでもいいわ。人が集まること間違いなしよ」
「それはいいね。リーフに関しては?」
「リーフは次期精霊王よ。彼は大地を介して自然に干渉する。干渉できるということは、知っているということよ。それ以上に私が言うことは無いわ」
「そういえば、依り代の使い道もリーフから聞いたとのことだったか?」
「はい。友人のファラムンドから聞いた話でありますが、リーフから教わったと」
「ふむ。あの依り代の使い道はさすがに驚いたが、とても便利だ。私もさっそく、カルバの依り代にあれこれと入れてもらったよ」
アイリオス王は依り代を活用していることを楽し気に話した。
「それから、ファラムンドとティエラに関しては、それぞれ、装飾工房と薬草研究棟でしばらく手伝いをしてもらおうと考えております。彼らが旅に出るまでの間になりますが」
ユリアンは、ファルとテラ、二人の才能を信じているというように、自信を持って言葉を続けた。
「ああ。人手は常に足りていないからね。そこは自由にしてもらって構わない。ファラムンドだったか、事故で大怪我をし、既に完治していると報告がきているが……それは?」
どんな力を使って、とは思うけれど、精霊に対して過度な詮索はしないのが精霊との付き合い方だと王家の人々は熟知している。
「ファラムンドの怪我はリーフが治しました。しかし、あまりに早く治って外に出るのは不自然です。そのため、夏頃まで王城に滞在する予定です。また、ティエラですが、彼女はヴェルトの姪にあたることが分かっています」
「ティエラ、彼女はリーフの守り人だったかな」
「はい。その通りです」
「我が騎士団長の肉親が次期精霊王の守り人。悪くないな。しかも、ユリアンが契約したのはヘリックスだろう? ヘリックスと契約すると子孫繁栄が約束されるというじゃないか」
「はい。ヘリックスとの契約で、7代先まで約束されると」
「王家にとって良いことばかりで、これは一体、なんの冗談だ? と思うが……」
「まあ、冗談ではないはね。ユリアンが彼らに出会ったのは運が良かったとしか言えないけど」
カルバは目を細めてユリアンを見つめた。
「私もリーフや他の者にも一度会ってみたいが、精霊を呼びつけるわけにはいかないからな。私から会いに行ってもよいのだが……」
アイリオス王は顎を触りながら、少し考えるように話した。
「そんなに会いたいなら、ユリアンの視察に付いて行けばいいんじゃない?」
カルバが、リーフたちに会う確実な方法を提案した。
「ちょっとよろしいですか。ユリアンの視察にということでしたら、私も同行したく」
セシル第2王子が真っ先に声を上げた。
「いや、それならば私も同行したいが」
カミル第1王子もちょっと待てとばかりに声を出す。
「あら。私だって会いたいわよ?」
アリエラ王妃が笑いながら加わった。
そんな3人に様子に、ユリアンは顔色を変えずに牽制すべく口を開いた。
「いえ、知らない人間がいると精霊は力を使わない可能性があります。せっかく同行してもらうのに、力を使わないとなれば本末転倒ですので」
ユリアンの言葉は、精霊の協力がいかに貴重であるかを全員に再認識させるように釘を刺した格好だ。
「まあ、それもそうね。さっきの言葉は訂正するわ。会いたいなら、セオドア宮へ行けばいいんじゃないかしら? 庭師や給仕に成りすますと気軽に会話してくれるかもしれないわ」
クスクスと笑いながら、カルバがリーフたちとの接触方法を示した。
カルバはヘリックスと知り合いなのを隠しているのか、間を取り持つつもりは一切無いようだった。
「まあ、我々は関りが無いからな。彼らのことはユリアンに任せておくのが賢明だ。そもそも精霊は、人を選ぶのだから。精霊と関わりたいなら、選ばれし守り人と親しくなるのが一番の近道だ」
アイリオス王の意見はもっともだった。
ユリアンも最初はテラとファルと知り合いになり、ヘリックスを紹介されたのだから。
「申し訳ないのですが、これからやらなければならない仕事がありますので、私はこれで失礼します」
話が守り人に及んだため、ユリアンは報告会の場から離れることにした。
さすがに、テラとファルを巻き込もうとする話に加わりたくなかった。
そんなユリアンを見送ると、カルバが続きを話し始めた。
「ユリアン、逃げちゃったじゃない。ふふっ。それで、どうしてもということなら、工房通りに毎日通って、ファラムンドとティエラに自然と近づき、顔見知りになるというのが得策でしょうね」
カルバがここまで親切丁寧に助言するのは、王家の皆の人柄をよく知っているからだった。
「そこまでするの?」
王妃が少し呆れたように尋ねた。
「もちろん冗談だよ。だが、王国にとって全く悪いことではない。むしろ、有り難いくらいだ。親しく出来るものなら、ぜひともと思うのは別におかしくはないさ」
アイリオス王は冗談と言いながらも、本心を言ったようだった。
精霊を騙そうだとか、精霊を意のままにだとか、そんなこと出来るはずもなく、精霊を敵に回すなど、浅慮軽敵だと理解している。
王家は1,500年もの間、王族として代々カルバと契約してきた。
代々受け継がれた『精霊に関する知識』は伊達じゃない。
親しく出来れば王国にとってきっと良いことに繋がる、と思うのは当然のことだった。
「まあでも、すでにユリアンはリーフたちに信頼されているわ。それは、王国にとって非常に有益よ。それだけでも王国は1,000年安泰だと言っても過言ではないわ」
「1,000年! カルバがそう言うのなら、そうなのだろう。本当に、精霊のおかげでこの国の平和が成り立っているのだな」
遠い昔、先祖が契約したカルバの協力で、エルディン家は大陸一の大富豪となった。
その後の大飢饉で全財産を投げうったけれど、飢饉が去った後、国王として立つことになった。
カルバは空を統べる精霊王になり、1,500年の時が過ぎた。
カルバは今でも契約を続けてくれている。
全ては精霊のおかげ。
この事実は精霊とエルディン家しか知らない。
いつも「刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜」を読んでいただき、ありがとうございます!
次回更新をお楽しみに!