01 白いキンギョソウの予知
精霊界ヴェルデシアの中心部。
ひときわ大きな浮島にセイヨウトネリコの巨木が青々とした緑をたたえ、その根元には白いキンギョソウが咲き誇っていた。
白いキンギョソウの精霊、アンリム。
彼女は最古の精霊のひとりであり、彼女の予知は外れたことが無い。
アンリムは、未来を覗いていた。
それは、精霊の中でも極めて特殊な存在となる『どんぐり精霊』の未来だ。
精霊界の期待を一身に背負い、次期精霊王として生まれ落ちる彼の未来を、少しだけ覗いてみたいという興味からだった。
アンリムが見たどんぐり精霊の未来。
その光景は、枯れかけたセイヨウトネリコを圧倒的な力で癒す姿だった。
「これが彼の姿……? しかし、これは……」
アンリムは精霊界の伝承となった、遠い昔の記憶を思い起こした。
かつて、セイヨウトネリコが枯れかかった際に、ある精霊が人の肉体を器とし、その力を増幅させ膨大な癒しの力で精霊界を救った記憶。
「彼は、精神を失い器と化した愛する人の肉体に、自身が宿るという現実に耐えきれず、自ら霊核を破壊したのよ」
人の肉体を得た精霊は『人神』となる。
しかし、通常の人間では精霊の霊的エネルギーを収めきれず、肉体は内部から崩壊し、その肉体を保てない。
精霊の器と成り得る人間は、不老不死でなければならなかった。
どんぐり精霊は、その性質、本質から、契約する守り人を不老不死にする力を持つ。
それは、『もてなし』という彼の生まれ持つ性質のために、もてなし与え続ける彼を癒し、支える存在として、守り人を絶対的に必要とする彼だけに許された『道理を超える力』だった。
世界でただ一人の守り人に『永遠の愛と絆』を誓い、彼にだけ許された特別な力を、その守り人だけに行使する。
その彼が、枯れかけたセイヨウトネリコを圧倒的な力で癒すということは、不老不死の守り人が器になることを意味した。
「まさか、彼もまた、同じ運命を辿るの……?」
アンリムは、再びその先の未来を覗いた。
何年後を覗いても、どんぐり精霊は泣いているだけだった。
ただ、ただ、泣いていた。
百年後まで覗いても、彼はずっと、ずっと泣き続けていた。
アンリムはいたたまれなくなり、覗くのを止めた。
「どんぐりの精霊。あなたは、精霊界の意志として、次期精霊王として生まれる。霊核の形はすでに出来上がってきているわ。まもなく、あなたは誕生する。成長するために未完成で生まれるあなたがこれから背負う未来を……興味本位に覗かなければよかったと、私は後悔しているのよ……」
どうか幸せな日々が少しでも長く送れるようにと、アンリムはただ願うしかなかった。




