ヤバみが凄みな凄見沢。
俺は原見一渓、娘と孫の生活を男手一つで支えているフリーターだ。
今は知人の紹介でコンビニエンスストアで働いている。俺の現在の主な収入源はココと競馬だ。
「ま、また負けた……。二人の……灯代子とうずらちゃんの生活がかかっているんだぞ!? なんとか言ってくれ!」
全財産の九割を賭けていた馬「セイコーノハハ」が最下位となってしまい、俺はただ項垂れるしかなかった。
この馬は「カノーポッシブル」と「エイコージンジャ」という、第一線での活躍を期待されている二頭の生みの親であり、まさに「成功の母」と言われている馬だ。それがこんな……落馬なんて……。
「はぁ……二人になんて言えばいいか……」
テレビの電源を切ってふと時計を見やると、既に昼の休憩時間が終わっていた。二時間前に。
「そろそろ、戻るかぁ」
そう呟いて休憩室からカウンターへ戻ると、同じシフトの凄見沢濯巳さんがカップラーメンを品出ししているところだった。
「お~戻ってきた。ハラミーはカウンターをシクヨロー」
凄見沢さんは今日からこのコンビニで働き始めたバイト仲間だ。その前は別の店舗で働いていたらしい。金髪、色黒、ピアスに長いネイル……と絵に描いたようなギャルで、挨拶のときもさっきのように気軽にあだ名呼びをしてくる。
「うへ~地域限定味まぢ多すぎだし。『稼働中のPC味』とか意味不明からの理解不能だし。ハラミーもそう思うっしょ?」
「あ、あぁ……そうだね」
最近の若い子の喋り方は難しい。どうしてもワンクッション挟んでの反応になってしまう。
……と、お客さんだ。
「いらっしゃいませ」
「しゃっしゃっせー」
おそらく凄見沢さんは「いらっしゃいませ」と言ったのだろうが……俺も歳かな……。
「29番」
「はぁ……」
「だ・か・ら! 早く頂戴」
このお客さん……スーツを着た、OLらしき女性……は煙草を買いに来たらしい。えぇと、何番だったかな……。
「ほい、どうぞ。お急ぎっすか~?」
「ワタシが急いでるように見える!?」
「いえいえなんとなくっすよ~」
「じゃあ聞かないでよブス!」
いつの間にかカウンターに入ってきていた凄見沢さんが丁寧に差し出した煙草「フォワードシックス」の箱を強引に奪い取り、硬貨を一枚バシンとカウンターに叩きつけて出て行ってしまった。あんなに強く叩きつけたら硬貨が可哀そうだ……。
「まぢコワみざわからのキレみざわだし~。そしてこれゲームコインっすよお客様~? ……ちょっとハラミー店番ヨロからのガンバロってことで」
「えっ、あっ凄見沢さん!?」
行ってしまった……。防犯用のカラーボールを持って。