魔王の子〜魔王、勇者を育てる〜
魔王討伐
魔王、それは勇者により討伐されるもの。しかし、討伐されたものの少しずつ回復し、また復活する。生と死を繰り返す輪廻、その為歴代の勇者達は魔王を討伐し続けた。
とうとう辿り着いた。長い道のりだった。俺達一行は魔王を倒すべく、最上階に到達した。目の前には、豪勢な扉が立ちはだかっていた。皆、顔を見合わせて扉を開いた。
室内は、息をのむように静まり返っており、奥から禍々しいオーラを放つ魔王が玉座に座っていた。
「やっとここまで辿り着いたか。随分と手こずっていたようだが」
嘲笑いながら話す魔王。
皆、魔王のオーラに当てられ、声を出せずにいた。ただ一人を除いては。
「だいぶ長くかかっちまった。だが、こっちはアップはすんでいるぞ」
意気揚々と話す勇者ラウル。言葉とは裏腹に恐怖かはたまた武者震いなのか。ただ手元は震えている事実は変わらない。
「くく、そのくらい造作もない。では、早速始めるとしようか」
そういうと魔王は立ち上がった。
その瞬間、キラリと輝く耳飾りが見えた。
「魔王、その耳飾りはなんだ。何故持っている?」
あの人がつけていたものに似ている。だが、何故持っているのか?
「ああ、これか。覚えてないな。この耳飾りは気に入っておってな。なんだ、知ってるやつの形見か? そうだったら残念なことをしたな。これを持っているということは、俺が殺したみたいだな」
あれは、あの耳飾りは‥。いや、今は無駄な思考はやめろ。目の前にいるのは魔王だ。戦いに集中しろ‥。乱れた心を鎮め、魔王を見た。
そこには見たことがない魔法が蠢いていた。
「さぁ、始めるか」
凄まじい鬩ぎ合いが始まった。俺は魔王に攻撃を仕掛ける。魔王の攻撃をパラディンのアルクが受け、シスターのフェイが回復とバフを。魔法使いニーニャは後衛で遠隔攻撃とのアシストを・・。
どのくらいの攻防を行ったのだろうか。お互いHPとMPはほぼ残っておらず、どちらかが攻撃を喰らえば死ぬだろう。最後の力を振り絞り、俺は魔王に向かっていった。ニーニャが残りのMPを消費し魔法攻撃を繰り出し、魔王も魔法攻撃で応戦した。魔法の衝突により爆煙に包まれた。
この好機に乗じ、懐に入った。攻撃に気づいた魔王は驚いた表情をした後にほくそ笑んでいるように見えた。魔王も反撃を行う態勢に入ったが、俺の攻撃の方が早い。相打ちになろうが、構わない。俺は全身全霊をかけ剣を振るった。
魔王の胸元に剣が刺さる。そのほんの数秒遅れて魔王の攻撃が襲いかかった。鋭く尖った爪が俺の腹を貫いた。と同時に何かが流れて混んできた。なんだこの違和感は。そう感じた最中に、急に魔王が話始めた。
「お前は魔王が倒され、のち数年数十年後に再び復活する理由を考えたことがあるか?俺の意志を受け継いで新たな魔王が生まれるから?違う。俺の息子や娘が魔王になるからか?違う。ではなんでだと思う?」
「‥‥」
俺は黙り込んだ。
「それは自身の遺伝子データを死ぬ前に移すからだ。では、どこに? 察しがいいようだな」
俺は自然と自身の腹に目を向けていた。
「だが、それを知ったところで対処する方法は幾らでもあるんじゃ‥」
「試してみるといい。幾ら足掻いたところで対処することなんて不可能だ」
「魔王は‥、」
言葉を発しようとした際、大量に吐血した。まあこの傷では、ほとんどの内臓がやられていてもおかしくない。お互いもう長くはないだろう。徐に魔王を見た。魔王はあの耳飾りを眺めていた。
まさか‥。恐る恐る魔王に尋ねた。
「最後に聞きたいことがある。ソリティエって名前聞いたことがあるか?」
「知らないな。だがその響きは嫌いじゃない」
そうか‥。そういうことなのか‥。俺の中に色んな感情が込み上げていた。だんだんと意識が遠のいていき、そのまま気を失った。