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4-1「スロウ」

「どうも。オレは冒険者のハルトです、こっちは助手で千癒術士のイエ」

「ニフのイエと申します」


 依頼を受けて、冒険者ハルトと千癒術士イエはとある農村にやって来た。


「一昨日の晩から、麦畑に謎の発光体が現れるって話でしたよね? わざわざ割増の緊急依頼になってんですけど……」

「んだ。血の気の多い若い衆が正体を調べに行っちまったんだよ、魔物じゃねえかと思っておいらたちゃ止めたんだが」


 青空の下。村の代表として話してくれた農夫は、フェアリーを取り出すと中空にホロ・ウィンドウを表示させた。


「これが、送られてきた写真だ」


 ややピンボケしたナイトモードの写真。

 奇妙に波打ったような麦畑の上空に、橙色の強烈な発光体が浮遊していた……。


「この写真を最後に、そいつらとは連絡が取れなくなっちまったんだ……。村から捜索隊を出そうとも思ったが二の舞になるのが怖くて身動き取れねえ、どうか助けてくれ。あんたら冒険者は魔物とか怪奇現象の専門家だろ、な、な?」

「もちろんです。私たちに任せてください」


  ◯ ◯ ◯ ◯


 そうして、然るべき準備を済まして宵の時頃。ハルトとイエは農村から麦畑へ続く林道を歩いていた。


「集めた情報から考えると、やっぱり『ぎゅ~ほ~』か『シバエンド』の2択に絞られますね」

「シバエンドじゃないか? 人が消えるようなスキルを持ってるのはそっちだ」

「消えたとはまだ限らないんじゃないでしょうか。私はぎゅ~ほ~だと思います」

「じゃあ当てたほうに500ヒューマニな」

「ハルトさん、賭けだなんて不謹慎ですよ」

「おまえの言うとおりぎゅ~ほ~だったら、まだ不謹慎な事態にはなってないはずだろ」


 なんて交わしあっていた2人は、ふと、カーブした道の先に異変を見つけてしまった。

 農具で武装した数人の男衆である。


「お~~~~い~~~~」「た~~~~す~~~~け~~~~て~~~~」「ア~~~~イ~~~~ツ~~~~が~~~~」


 ただし、冗談みたいにスローモーな一団である。

 声は引き伸ばされ、動きは超緩慢。誰かがジャンプして手を振れば重力を無視してコマ送りよろしく滞空していて、それが演技ではなく魔力由来の状態異常であると見てとれた。


「スロウの状態異常。ですね」

「……ああくそ。じゃあシバエンドじゃないじゃん」

「毎度ありがとうございますです」


 ーー 《ペイ》(決済魔法) ーー

 ハルトのフェアリーが放った大銀貨型の魔力を、イエのフェアリーがキャッチで取り込んだ。


「な~~~~に~~~~を~~~~し~~~~て~~~~る~~~~」「は~~~~ら~~~~へ~~~~っ~~~~た~~~~」「み~~~~ず~~~~を~~~~く~~~~れ~~~~」

「まあそうだろうな、ずっとスロウ状態で逃げ帰ろうとしてたから連絡つかなかったわけだ」

「みなさん、ここにスロウ治しがあります。水と食べものも差し上げます」


 イエがローブの大袖をまさぐれば、薬瓶やペットボトルや携帯食糧が次々に取り出された。


「私たちが飲ませると喉を詰まらせてしまうので、みなさん自身のペースで飲んでください。……ハルトさん、この人たちを送りに村までいったん戻りますか?」

「質問に質問で返して悪いけど、千癒術士としておまえの見立ては?」

「スロウの他には脱水と空腹しか見受けられないので、もうちょっとここにいてもらっても変わらないと思います」

「じゃあ戻らない方向で」

「はい。《シェルター》(避難魔法)」


 イエが詠唱すれば、男衆をピッタリ囲む分だけの魔力のシェルターが地面からせり出しはじめた。ただし半透明のソレは秒速数センチの速度でしか形を完成させていかず、彼らはいろいろな意味でうろたえた。


「その《シェルター》の中にいる間は無敵ですけど、内側から触るだけで消えちゃうのでジッとしててくださいね」

「んじゃ、そういうことで。あんたらを襲ったヤツを片付けたら改めて助けに来ます」

「「「~~~~~~~~~~~~~~~~?!!?!」」」


 男衆は不服を申し立てていたが、農具を武器に先走るような者たちなので聞くまでもない。ハルトとイエは先を急いだ。


「……終わったらうるさいぞ、千癒術士なのに《ヒーリング》(回復魔法)もかけてくれなかったとかいうお決まりのアレ」

「たしかに《ヒーリング》なら状態異常もまとめて治せますけど、温存できる時は温存しないと。病や怪我は千の術で癒せても、魔力を癒すには飴ちゃんぐらいしかないんだってみなさん知らないんです。……コロコロ……ガリガリ……」

「……いくら食べても太らないのが救いだな」


 イエは大袖の中から片手いっぱいの飴ちゃんをジャラジャラと取り出し、頬張りながら歩いていた。

 そうして林道の出口が見えてきた頃には、夜の闇は本格的に濃くなっていた。

 しかしそんな中でも、道の向こうに開けた麦畑はかなりハッキリと見えていた。


 ーーハ~ウ~ヤ~ハ~ウ~ヤ~ハ~ウ~ヤ~


 他でもない、橙色の発光体が麦畑上空に留まっていたからだ。

 いわゆるミステリーサークルができていた地表を、末調律の弦楽器のような鳴き声とともに見下ろしている様子だった。

 イエとハルトは麦畑へ出るのではなく、林道の境目にて茂みの中へ伏せた。


「【ウェポンマスタリー】はナシな。麦畑を破壊しちゃったらアイツを倒せてもオレたちが村人に吊られる」


 握り込んだ応銃パラレラムを、ハンドガンから変形させる。

 スコープとバイポット付きのソレは、スナイパーライフルだった。

 ハルトがスコープ越しに発光体を覗き込めば、肩に相棒の手が置かれた。


「目標距離、直線252メートル。南南西の風、風速0.7メートル。大気魔力濃度は6.4。仰角3度、方位-9度修正してください……クリア」


 ポンと叩かれた直後。イエの計測を基に狙いを定めたハルトは吐いた息を止め、トリガーを絞った。

 落雷じみた轟音が突き抜けたと同時、速度と貫通力に特化した魔弾が発光体へ命中していた。


 ーーハヤヤ!? ウ、ウ~~ヤァァァァ……!?

「よっし! 落ちてくるぞっ、ゴーゴーゴー!」

「ムームームー」


 発光体が煙のようにエーテルを噴きながらフラフラと高度を下げていって、ハルトとイエは麦畑へ躍り出た。

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