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23-1「不良魔族」

 帝都ベルロンドにて。とある私立高校が放課後を迎え、生徒たちが盾投げやヨメ召喚などの部活動に励んでいた。

 一方で帰宅部の生徒たちも退屈というわけではなさそうで、剣や銃や魔道書を持ち合いながら冒険計画を話し合っていた。


「あ~のさ~……余計なお世話なんデスケド、あーしらの先公でもないくせに」


 はたまた一方。世紀末的に要塞化された旧校舎屋上で、部活にも入っていないのに延々たむろしている不良たちもいる。


「余計な世話なのはわかってるけど、こっちも仕事だからわかってくれると助かる」

「んな義理ねぇよタコ!」「おい、タコに失礼だろ」「仕事仕事って悲しいヤツだね~」「引っ込め日雇い労働者」


 冒険者ハルトも譲歩して語りかけたつもりだったが、なにしろ相手は魔族の不良グループなのでインパクトがスゴかった。


「ヒトを腫れもん触るみてぇによぉ」「見せもんでもねぇぞ」「な~にが『人界のニンゲンらしく』よぉ~」


 ゴキブリンの触角を有した者や、羽毛まで筋肉質なザンギのマッスルを宿す者、ぎゅ~ほ~として牛角付きの円盤帽子じみた外皮を被った者など。魔物の特徴を有した魔界の人類ゆえに、こちら人界しか知らない者の目を一瞬瞪らせるのは確かだ。


(典型的だなあ、こんな世間のイメージどおりの『魔族の不良』にならなくてもいいだろに。いや、むしろ……)

「あのー。私たちが受けた依頼はみなさんに立て籠りをやめてもらうことなので、とりあえずこっちに出てきてもらえないでしょうかー? えっと……みなさんは完全に包囲されてますです、真正面から」

「……(俺は諌める。イエコくん、それは包囲と言わないし刺激してはいけない)」


 今回の依頼には、助手のイエの他にも魔族ショコラ・サイカのディアデムも同行していた。

 玉座の間めいた様相の屋上には防衛線が重々に敷かれ、バリケードの上の不良たちが佇まいで自己主張している。

 ハルトたちは旧校舎内の階段から上がってきたばかりだったが。これ以上の戦線突破をする気はとりあえず無く、防衛線越しにずいぶんと距離を空けて対話を試みていた。


「ごほん……あー、こいつはオレの友だちのディアデム。魔界から単身上境してきたヤツで、見てのとおり帝国軍で士官候補生としてガンバってる。オレのことは信じたくないとしても、同じ魔族のよしみでこいつの話は聞いてほしい」

「……(俺は諭す。ショコラ・サイカのディアデムだ。きみたちが抱え込んだ思いの形は一人一人違い、その理由も千差万別だろう。勇者が魔界を解放してから約20年……魔族というだけで勝手なイメージを持たれたり、人界に生きる魔族ならばと謂れの無いプレッシャーを背負わされたり……。気持ちはわかるなどと言ってしまうのはおこがましいが、どうか心の底からそう言えるように努力させてほしい。きみたちがやりたいことや言えずにいること、どうか俺に話してみてくれないだろうか)」

「いうてテメェが口で話してねぇじゃん!」「テレパシーとかマジきめぇ」「ウケる~」「脳内プライバシーの侵害」


 ハルトですらディアデムの弁にアツいものを感じていたのに、0.2秒で足蹴にされた。


「……(俺は抗議する。そのような心無い言葉が魔族を傷つけるのだぞ……! 俺のは魔族関係無く口下手なだけだが!)」


 ハルトとイエが「どおどお」とディアデムをなだめる……と、バリケードの中央に1人の女生徒が立ちはだかった。


「……我らがやりたいこと? まずはこの旧校舎の取り壊し撤回と、我らの存在を学校が正式に認めること……」


 タコの魔物ラブクラーケンの魔族だろう。キメ細やかな毛髪はいくつかの束の触腕で、肘と膝にも吸盤が形成されている。


「そして帝都中の魔族の生徒を集め、誰もが自分らしくいられる独立国をここに樹立することよ……」


 静かなるカリスマ漂う彼女がリーダーらしい。手袋を整える所作を掲げただけで、同調する鬨の声が続々上がった。


「と、とてつもなく大きく出たなあ。いやウチの帝王様なら認めるかもだけど、こんなガキっぽい暴動よりもっと気持ちの良いやり方で戦わないか? 魔族の能力で活躍して見返してやるとか」

「ガキっぽいって言うけど……調べたらあなたたち、17よね? 我より年下じゃない。それで説教なんて……ガキね」

「ガキぃ!」「ざ~こ♪」「高校にも通ってねぇくせによぉ!」「ウケる」「大学全入時代だぞ!」「学歴社会ナメんな!」

「悪かったなああ中卒でえ!?」「……(俺は感心する。少なくとも進路のことはしっかり考えているようだな)」


 大人……いや社会人として、ハルトは応銃パラレラムを抜きそうになったのをこらえた。


「熱血教師モノで説得しようと思ってたけどっ、お望みどおり学園バトルものにしてもいいんだぞ!?」

「ラフティ……! こんなことはもうやめよう!」


 と。校舎内から駆け上がってきた男声が、ハルトたちの前に躍り出た。

 どこにでもいるような人間の男子生徒と、彼を中心にした魔族の男女による一団だった。


「そうだよ!」「何度も戦いあったけど……!」「それ以上に何度も助けあってきたじゃん!」「わかりあえるはずです!」

「……あなたたちは…………きみは。どうして、またそうやって」


 不良リーダーは静かな威圧感こそ変わらなかったが、男子生徒の登場にその瞳は揺れていた。


「それはっ……、きみたちがかけがえのない仲間だからだ!」「……!!」

「わあ。わあ。学園青春モノですか? 学園恋愛モノですか? こっちの路線で解決しましょうよハルトさん」

「うーんー。まあオレたちより熱血主人公してるし、それならそれでもいいけどな」

「……(俺は拗ねる。熱血はやぶさかではないが、俺はテレパシーだからどうせ締まらない)」


 ハルトが「拗ねるな拗ねるな」とディアデムの背を叩いてやっているうちに、不良リーダーはかぶりを振った。


「いいえ……退けない。我は人間に縛られない……全ての魔の上位者たるラブクラーケンの魔族として」「ラフティ!」

「うん? ……盛り上がってるとこ悪いんだけど、ラブクラーケンにそんな設定あったか?」

「設定とか言わないで……。人界でもっとも恐れられているのは深海生物の魔物でしょう? ならば我もまたそう……」

「ああ、なるほど? 魔界から見たら『深海』って見方になるのか……でもこっちの世界では普通に……」


 ハルトは言いきる前に肩をつつかれた。……男子生徒が「察してほしい」とばかりに生温かい目をしていた。察した。


「我は思うわ……このベルアーデ帝国と魔界は強者こそが絶対という点で似てる。我らを組み伏せるにしても説き伏せるにしても、きみたちが強さを示さない限り屈するわけにはいかない……」


 ハルトがコソっとフェアリーに魔物検索【マモネイター】を起動させた……一方、イエが青空を見上げて何事か呟いた。

 魔力の風が囁いた……次の瞬間、旧校舎はほの暗い混沌に覆われていた。

 高校の敷地どころか街の一角を占める威容。深海生物の部位を名状しがたく唸らせた、有翼の両生類……フタグンだ。

 その翼の皮膜で羽ばたくのではなくエーテルを迸らせ、星座を描くような直角的な軌道で宇宙から飛翔してきたのだ。

 そして彼あるいは彼女は……不良たちを目と鼻の先で視つめながら。脳髄に届いてこそ言葉となる囁きを発するのだ。


 ーーこら 「いやぁぁぁぁぁぁ!?」「「「「「いあぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」


 竜の一声で不良たちは戦意喪失。……不良リーダーは涙やそれ以外のものを垂れ流しながら腰を抜かしたのだった。

 そしてイエが目配せすると、かつてQズ・モウで救ったロック・フタグンは(どこか釈然としない様子で)帰っていった。


「出てきて、くれますか?」「我はははは……わかった、我はははは……わわわわ……」


 ーー ラブクラーケン ーー

 ーー 海洋最強ともいわれる生物ラブクラフトから転化した魔物です。ラブクラフトが島ほども大きく凶暴なのに対して、手乗りサイズで貧弱です。そして自分がラブクラフトの魔物であると理解しているので、プライドとカリスマだけは立派です ーー


(……けっきょく、学園コズミックホラーだったかあ)


 奥の手として予め知っていたハルトとディアデムも、根源的恐怖から冷や汗をかきまくっていたのだった。

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