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22-3「鐘と宝石」

 演習場の観覧席が、熱気と緊張に沸いていた。

 100均銃でピジョンブラッド分隊を圧倒していたハルトたちだったが、追いつめられた分隊長が鉄腕を突き込んでいた。

 1人だけ100均銃が壊れていなかったイエへ……100均バズーカを引きずってきた彼女めがけて、ショットガンのトリガーに指をかけた。


「《マジックハンド》(魔手魔法)」 ただその時には、彼女は口ずさんでいた詠唱を終えて魔力の手を放っていた。


 瞬時に引き寄せていたのは、ガラクタでクラフトされた大盾だった。


「間に合ったね……!」 壊れた100均銃たちをマリーが寄せ集めた、即興の被造物だった。


 そして大盾は、分隊長が放ったスラッグ魔弾を受け止め……威力を半減させたが止めきれずに砕け散った。


「ふぐぬ……!」「ハ、ハルトさんっ」


 盾の裏に割り込み、弱まったスラッグ魔弾を生身で受け止めたのはハルトに他ならない。


「イエ! いけ!」「はい……!」


 分隊長がポンプアクションを終えるのが早かったか、イエが100均バズーカを引きずり回すのが早かったか。


(イエはハンドガンもろくに撃てない……だからいっそ、コレだ……!)

「分隊の誇りのためにっっ……!」


 結果からいえば、銃口を相手へ定めたのは分隊長のほうが早かった。

 しかし。対するイエはそもそも、分隊長へ銃口を定めようとはしていなかった。

 引きずった100均バズーカを担ぎ上げることもできないわけで、その照準はただ目の前の地面へ打ち付けられた。

 だから結果的には、撃ったのはイエのほうが早かったのだ。


「自爆攻撃だおらああああ!」「ああああ」

「バ、バカなぁぁぁぁ!?」「たいちょぅぶばぼぶっっっっ」


 地面に零距離発射された炸裂魔弾が、ハルト、イエ、分隊長、生き残りの隊員をもろともぶっ飛ばしたのだった。

 なお、ワリと近くにいたディアデムとザインはヘッドスライディングでギリギリ逃げていた。

 もうもうと立ち込めた魔力波を号砲代わりに、決着を告げるブザーが演習場に鳴り響いたのだった。


「きゅう……《ヒーリング》……」

「……サンキュ。いでで、実戦では絶対やらないぞこんなこと……」

「当たり前です。100均銃縛りだったので今回だけ特別です」

「へーい大丈夫かー、男気ハルトぉー」

「名字みたいに言うな」

「さすがだね。イエコちゃんを犠牲にバズーカだけ引き継いでもよかったのに、とっさに守ったあたりさすがさすが」

「言うなって!」


 ハルトの上ずった叫びは、残念ながら歓声と拍手にかき消されてしまった。


『ただいまの演習結果は、挑戦者の勝利~。タイムは0分58秒、払い戻し窓口がたいへん混み合いますので分かれてお進みください~。繰り返します、金貨は逃げませんので酒瓶と武器を置いて大人しく大人らしく並んでください~』


 ウグイス嬢のアナウンスだけは落ち着いたものだったが。ギャンブラーたちは狂喜乱舞するわ、ピジョンブラッド分隊のファンたちは悶絶するわと場内はまさに大荒れだった。


『ほ~~~~はっはっはっはっはぁ! どやっさぁ!! こんで文庫版からフルカラー編集版までまとめ買いやでぇ!』

「……(俺は釘を刺す。たぶんだがシャルカさん、その大穴闘券でもクレカの請求は払いきれない)」


 念動スコップたちで左うちわを組んだシャルカを、ギャンブラーたちが平身低頭崇め奉っていた。


「……くっ! 姫様、こんな侮辱は受け入れられません!」


 と。ようよう立ち上がった分隊長の慟哭が、熱狂を静まり返らせた。


『ふぅん? なんやねんな見苦しい、負けたんを無かったことにせぇ言うんやないやろな?』

「いいえ、自分たちは負けました。それを覆すわけにはいきません。しかし真剣勝負のこの場で、わざわざあんな100均銃を用いたのは何故なのですか! あなたがたが持ちうる最高の力は出しきれなかったはずです!」


 いかにも、ハルトたちにはそれぞれの得物がある。だからこそのスキルもある。その上で100均銃で苦心した。


「あなたがたは強い……だからこそ互いに最強の武器で闘いたかった。そうしなかった理由を、恐れながらこの場でお聞かせください! あなたがたにとって、自分たちは100均銃で事足りる相手だったとでも仰るのですか!」


 舐められた。遊ばれた。そう思われても無理はないし、ひたむきな帝国兵だろう彼らには屈辱にちがいない。


「……(俺は否定する。たしかに縛りをつけて闘いましたが、舐めてどうにかできる相手ではありませんでしたよ分隊長。俺たちがやったことはしょせん、いつ崩れてもおかしくない奇襲でした)」

「だからっ、なぜそんなことを……!」

「なんでかいうたらな。あんたらが帝国軍の装備を『最強』て言うたからや」


 そしてシャルカが、一瞬にして分隊長の目の前にいた。

 念動スコップをカタパルトにした音速移動によって。分隊長のフルヘルムを指先1つで脱がせながら、睨み上げていた。

 呼応するようにマリーがフェアリーを操作すると、電光掲示板がハッキングされてテレビ番組のクリップを映した。


『特にこの帝国軍制式ショットガン。これは最強の銃です。これさえあれば、自分たちはどんな相手とも闘えます』


 他でもない分隊長たちが、巨大ショットガンを手にカメラ目線を送っていた。


「『最強』なんてもんはあらへん。そう見えるもんを超えるたび、吐いた血反吐の分だけベルアーデ帝国は強なってきたんや。せやのにあんたらは今の装備や自分自身で満足してもうた……シャルカさんもおとんもな、演習場の番人やったピジョンブラッド分隊が日曜のアイドルに甘んじたんをヨシとは思ってへんねん」

「な、ッ……!? ま、待ってください、あの番組の一言だけで!? 自分たちはけっしてそのような……!」

「もちろんそんだけやったら言葉の綾かもしれへんけど、実際あんたらは負けたやん。100均の銃で『最強』の制式装備をどう超えてくんのか覚悟しきれへんかったんや」


 帝国王女は分隊長の目前から1歩引くと、八重歯を見せて笑うのだ。


「ベルアーデのモットーは実力主義。勝ったもんの言い分は負けたもんの言い分より強い。異論は認めへんで」


 彼女が「撤収!」と拳を突き上げれば、ハルトたちが帰り支度をはじめるとともに場内へ拍手が巻き起こった。


「悔しかったら今度は勝ってみぃや。配当5倍付けにしてくれるんなら、またマッチメイクしたってもええで」

「……願ってもないことです。その時はよろしくお願いいたします」


 市民たちがベルアーデの名をコールするなか。悔しげながらも笑った分隊長もまた、場内へ手を振った。


「みなさん! 自分たちの連勝記録は破れてしまいましたが、イチからまた強くなっていきます! 見ていてください!」


 拍手とコールに、惜しげない歓声が加わったのだった。


「ところでシャルカ、クレカの支払いが終わったら次はオレたちのギャラな」「ほは!?」

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