22-2「100均銃」
ベルアーデ王城膝元の演習場にて。観覧席のシャルカにけしかけられたハルトたち5人は、100均銃を手に立っていた。
ここの花形らしいピジョンブラッド分隊が、対戦チームのそんな様を見て無反応でいられるはずがなかった。
「それは何の趣向だ? きみたちのことは噂程度だが知っている、ちゃんとした武器は持っていたはずだが……」
「我々も舐められたものだね」「帝国軍の装備には傷1つ付けられないぞ」「こちとら年季が違います」「手は抜かない」
さすがに何か仕掛けがあると踏んでいるのか、いささかの怒気を見せながらも誰もハルトたちを嘲ってはいなかった。
「みんな。ディアデム候補生の指揮は伏線を張るのが得意だ、違和感があればそこを叩け。メイド長の娘さんもいるからには見た目どおりの銃と信じきるな。その他3人も中遠距離戦が得意なはずだが、特にヒューマン族のほうの男の子は例の【ウェポンマスタリー】使いだ……戦術機動3Q2でいくぞ」
「わあ。注目されてますねハルトさん」
「冒険者として名が上がったってことにしとこう……」
「んじゃーボクらは『その他』らしくガンバろうぜーイエコちゃんー」
ファンファーレが鳴り響く。ベット終了の合図である。
最後の一音が余韻たっぷりに流れ……かき消え……刹那の静寂の後、演習開始の鐘が鳴らされた。
「状況開始!」
コンマ1秒をも攻める慣れたスタートダッシュ。3人と2人に分かれたピジョンブラッド分隊がV字型に駆け出した。
ハルトたちも100均銃を手に動き出していたが、当然、強化外骨格ギアスを纏った分隊のほうが速度も気勢も上だ。
あと数秒もすればショットガンの危険範囲に迫られるだろう中で、まずアクションを起こしていたのはマリーだった。
「アイアァァァァンメイデン!!」
ギア仕掛けの宝石が強化外骨格アイアンメイデンとして展開され、小柄なマリーは長身の鋼鉄レディへチェンジ。
拡張されたメイド服がひらめいた時には、片膝立ちを滑らせながら100均スナイパーライフルを構えていた。
ただしその構えは妙だった。銃身下部へ添えて照準を支えるべき片手が、銃口の縁をつまんでいたのだ。
パリィとクラフトに用いる鋼鉄の指が、カメラのレンズでも塞いでしまうように銃口の闇へかかっていた。
そして発射された貫通魔弾は、良くても下の中レベルだろう威力。100均レベルに違わない変哲の無さだった。
「なにも改造してないじゃないかっ……ああっ!?」「え……!?」「!?」
歴戦の反応速度で射線上から跳び退いた隊員3人だった……が、1人の踵から嫌な異音が爆ぜた。
たしかに無改造の100均銃から放たれた貫通魔弾が、シンカーカーブを描いてギアスへ直撃したから。
「わたしのユビの見せどころは、銃の改造だけじゃないよ」
たしかに100均銃は無改造でも。マリーが銃口へかけた指によって、スピンのかかった魔弾は変化球と化したのだ。
それは銃身の粗からくる弾道の歪みも計算ずくで、隊員のギアスの踵を撃ち抜いたのだ。
アキレス腱にあたる部分が繊細なのは、強化外骨格でも同じだ。それにしてもローラーで猛ダッシュしていたというのに、的確に駆動部のエーテルギアを削ぎ飛ばした。
ただし数瞬のうちに隊員3人の足を壊したところで、100均スナイパーライフルは銃身がポロッと抉れてしまった。
「ありゃ。ごめーんっ、3人で限界」
「……(俺は引き継ぐ。上出来だマリーくん、《エンチャント》)」
次に、単騎で突貫したのはディアデムだった。
彼の100均銃はショットガンであり、付与魔法によって火属性を帯びた。
分隊長ともう1人のバディへ向ける……のではなく、居合術よろしく銃口を背中側へ向けながら腰溜めに。
そして散魔弾を発射すれば、火のエーテルで過負荷を加えたそれは強烈なバーニアと化していた。
噴射の勢いと反動により、宙に浮いたディアデムはギアス以上の豪速で敵方へ飛び込んでいた。
分隊長の胸当てへ跳び蹴り、一瞬よろめかせたところでヘルムを銃底殴打。
「ぐっ……突貫!? ディアデム候補生っ、指揮はどうした!?」
「……(俺は信頼する。みんなには必要ありません。俺も軍人としては闘っていないので)」
装甲部は傷1つ付けられないとしても。フルヘルムゆえに、打ち込んだ衝撃は脳震盪を起こしかねないほど生身の頭へ伝わる。分隊長は膝から崩れかけたが踏みとどまり、一方でディアデムはまた散魔弾バーニアを噴かしてヒット&アウェイ。
分隊長のバディが撃ってこようとしていたショットガンをまたも銃底で打ち上げて。その勢いのまま全体重をかけて手から引き剥がし、持ち主めがけて撃ち込んだ。
「うああ!?」「ピジョン2! ……くっ!」
己が誇りのショットガンの前では、さしものフルアーマーも負けた。倒れたバディの代わりに、分隊長はディアデムをショルダータックルでぶっ飛ばした。
「……(俺は任せる。こちらの役目は果たせただろう)」
100均ショットガンはやはり数発でガタがきていて、盾代わりに分隊長の肩を受け止めたのでスクラップと化した。
「た、隊長!」「ギアスがうまく動かない……!」「この狐ぇ!?」
と。声のほうへ目を向けた分隊長は、ヘルムの奥で焦燥混じりの目を見開いたようだ。
「装備を自慢するのもいいけどさー。機械っていうのには一挙一動……決まった駆動音があるんだぜー?」
100均サブマシンガンを持ったザインが、ローラーダッシュを封じられていた3隊員のもとに到達。彼がギアスの手足へ連射すると、迎撃しようとしていた隊員たちは一瞬痺れたようになってうまく動けていなかった。
隊員たちがギアスを唸らせてアクションを起こそうとするたびに、ザインの狐耳がピクッと反応していた。
「……! 予備動作の駆動音で、どう動くか先読みしている……!?」
肘や膝が数ミリ動いた先から、ザインは最も狙うべき駆動部を撃って動作を阻害していたのだ。
隊員たちの混乱が加速度的に深まっていくなかで、ディアデムを押し退けた分隊長はただちに合流しようとしていた。
しかし、もとよりこの演習は数秒を争う電撃戦だった。
「出でよー! ハールトぉー!」
「召喚獣みたいに言うな」
100均サブマシンガンが装填不良を起こしたザインに代わり、遮蔽物越しの死角から急襲したのはハルトだ。
アキンボ……二丁持ちにした100均ハンドガンを以て隊員の肩へ飛び乗り、ヘルムとアーマーとの隙間へねじ込んだ。
「【ウェポンマスタリー】っ……は使うかよ!」
装甲の内へ零距離連射。隊員1人を失神させたとともに一丁壊れ、もう1人も倒した拍子にもう一丁壊れた。
「こん、な……っ! 帝国軍人が一撃も与えられないなんて……!!」「隊長ぉ!!」
そう。開始の鐘が鳴ってからここまでわずか1分足らず……分隊は魔弾を1発も撃てずに圧倒されていた。
だからこそだろうか。分隊長はたった1人残った隊員の射線に割り込みながら、ショットガンを前へ前へと突き込んだ。
「あっ」 銃を失ったハルトたちへではなく。一番遅れて100均バズーカを引きずってきたイエへ……。




