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22-1「演習場」

 『日曜の守護神! 帝都演習場のピジョンブラッド分隊、その人気に迫る』。


『そうですね。入隊当初はアイドル崩れの自分たちでしたが、軍人の使命感に燃えているうちにもうこんなおじさんです。

 応援してくださる方々に恵まれているのは、やはり自分たちを強くしてくれる装備の力が大きいでしょう。

 特にこの帝国軍制式ショットガン。これは最強の銃です。これさえあれば、自分たちはどんな相手とも闘えます』


 細かな傷跡やシワが刻まれたものの、甘い笑顔に渋さが増しただろう軍人たちが巨大ショットガンを手にカメラ目線。

 そんなブランチタイムのテレビ番組を。下町のダイナーにて、黄金の輝きが明細書越しに眺めていた。


  ◯ ◯ ◯ ◯


「リロード!」「うっす! カバー!」「ぶっ飛べ!」「うぅぅぅぅららららぁ!」


 ベルアーデ帝国軍の制式武器は、特大剣と見紛う超大口径ショットガンだ。

 全員が強化外骨格ギアスを纏ったフルアーマー兵なのもあり、動く鉄塊じみた彼らの戦いぶりは苛烈を極める。

 ベルアーデ帝国軍の由緒正しい軍事戦術に基づき、彼らは基本的に突撃一辺倒なのである。

 散魔弾を放てば正面ほぼ180度にわたって弾幕が飛び散り、

 逆に一粒弾と呼ばれるスラッグ魔弾を放てば竜巻を伴う大玉が鉄の壁をも粉砕した。 ーーピンバケケェッ!?

 スクラップの遮蔽物が並ぶ円形フィールドで、圧倒されるばかりだったのはバケツから剣の手足が生えた大型魔物だ。

 帝国兵たちは味方もろとも撃つこともあったが、特注のフルアーマーは魔弾より硬いので問題にならなかった。

 サバトンの踵から展開されたローラーのダッシュで地を抉り、士気高揚に吼え、ショットガンを振り乱した。

 実際、ショットガンはフルアーマー並みの頑丈設計なので鈍器としても振るわれていた。


「……(俺は指揮する。スピネル4は10時方向の遮蔽物からスピネル1と合流……してるか、スピネル3はスピネル2が魔物の脚を叩くのに合わせて魔物使いを……ああもう叩いてますね。ああもう)」


 魔族ショコラ・サイカな士官候補生ディアデムが采配を振る先をいって、帝国兵たちはあっという間に魔物をぶち倒した。

 ソレを使役していた魔物使いや、モジュールゴテゴテのアサルトライフルを携えていた冒険者たちも。


「おれのバケツ剣闘士がぁ!」「くっそ!」「このMODでも貫通できねぇのかよ!」「手持ち全賭けしたのに」「ぶべ」


 彼らが最後の抵抗むなしくフルアーマーに踏み踏みされた瞬間、フィールドの外から歓声が上がった。


『ただいまの演習結果は、帝国軍の勝利~。タイムは3分21秒、最終オッズの集計中ですしばらくお待ちください~』


 ここは帝都ベルロンドはベルアーデ王城のお膝元、市民向けにも観覧席を備えた演習場だった。

 タワー型の電光掲示板に最終オッズが表示されると、馬券ならぬ演券が一喜一憂とともに広げられた。

 帝国兵たちは観客にヤジを飛ばされても仕事人らしく堂々としていたが、からかう調子でディアデムを小突いた。


「指揮が遅ぇぞガハハ!」「まだまだ型通り」「姫様のカレシならまあ気張れや」「陛下からもよろしく言われてるしな!」

「……(俺は抵抗する。角を叩かないでください……。ご指導ありがとうございました)」


 金剛シャベルエスツェットで防いでやっと耐えられる肩パンまでされたが、ディアデムはまんざらでもなさそうだった。


「……(俺は敬礼する。じゃあまた、次の演習があるので俺はこの辺で)」

「うん?」「どっち行くんだよ」「次はピジョンブラッド分隊と組むんだろ」「向こうは挑戦者のゲートだぜ」


 帝国兵たちが宝石の紋章のゲートへ向かおうとしたのに対して、ディアデムは鐘の紋章のゲートへ向かって。


「……(俺は胸を張る。ええ、合っていますよ。……友だちに誘われまして)」 先輩方に背を向けた彼は苦笑していた。


「よ、ディアデム。コレおまえのぶんな」

「……(俺は受け取る。ようこそみんな)」

「おつかれさまです。むん、駆けつけ《ヒーリング》」

「ぅよーし1回こっきりの大勝負、楽しんでこー」

「ディアデムくんは11連戦目だけどね」


 ゲートの真下で演習を眺めていたハルトは、包装紙に包まれた大きめの筒をディアデムへ渡した。そして同じような包装紙を担いだイエ、ザイン、マリーもいっしょに待機していたのだった。


『帝都演習場では帝国軍の戦力向上のため、挑戦者を募集しております。続きまして11R、挑戦いたしますのは『シャルカと愉悦な仲間たち』~!』「愉悦!?」


 そんな愉快犯めいたリングネームは聞いていなかったのだが、呼ばれてしまったからにはハルトたち5人は歩み出た。


『おや? チーム名に反して姫様はいらっしゃらないようですが~……?』

『シャルカさんが参戦したら相手も本気出せへんやろ。ちゅうわけで今日はみんなの手綱を握るだけや!』

「人を競走馬みたいに言うな」


 実況兼ウグイス嬢に割り込んで。マイクを握ったシャルカが、観覧席の手すりに片足を乗っけてエラそうにしていた。


『たのむで~あんたら、帝国軍と挑戦者のオッズは1:99や。実質機能してないさかい、いつの間にか帝国軍が挑戦者を倒すまでのタイムレースになってもた。帝王の名に懸けてっ、この停滞しきった演習場にシャルカさんらが風穴開けたんでぇ!』

「縦ロールの中に演券見えてるぜーシャルカちゃんー」

「……(俺は心痛する。妙なところで陛下の名を懸けないほうがいいと思う)」


 シャルカのカリスマ……もといマイクパフォーマンスに乗せられて、酒瓶片手なギャンブラーたちが鬨の声を上げていた。


「姫様に泣きついて日頃の仕返しかい? ディアデム候補生」


 と。対面のゲートから歩み出てきた鉄塊たちが、夜闇の眼光がごとき赤い輝きを肩にチラつかせた。

 肩当てを赤く染め、フルアーマーのヘルムに勝利数らしき傷痕を刻んだ分隊だった。


『さあ11Rを守る帝国軍は~、ご存知日曜の守護神、ピジョンブラッド分隊~』


 歓声があがった。演習場にはギャンブラーのみならず、かの分隊目当てのファンたちも相当数訪れているようだ。


「今日も応援してくれてありがとう! ピジョンブラッド分隊が勝利を以て、みなさんの日曜を輝かせてみせよう!」


 観覧席へ手を振った分隊長。そんな彼へディアデムが鋭く敬礼した。


「……(俺は敬礼する。彼女に泣きついていたら俺は今ごろ軍を追放されていますよ。むしろ泣きつかれたのは俺です)」

「シャルカさーん、あれからもうクレジット決済は使ってないですかー?」

『ぃゃぁイエコちゃん、続きが気になってもう3冊だけ買うてもうたわ。絶対勝ってや!』

「ダメじゃないシャルカちゃん……わたしだって読みたかったんだから早く言ってよ」


 緊迫感たっぷりに視線を交わしていたディアデムと分隊長だったが、主に女子3人のかしましさに脱力した。


「まあいい。ディアデム候補生ならびに友人諸君、姫様に言われずとも本気でお相手しよう。かかってきなさい」

「んじゃ遠慮なく。日曜日の守護神……だっけ? あんたらもタイヘンだな」


 ハルトが目配せすれば、提げていた筒の包装紙をみんなで一斉に剥ぎ取った。……途端、場内がざわついた。

 イエを含めた5人とも、同一シリーズの銃器を持っていたからだ。


「バカな。それは……そんなもの……100均の銃じゃないか」


 そう。底抜けにポップなデザインだが造りの安っぽさはごまかしきれない、ワンコイン銃の数々を装備していたのだった。

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