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21-1「儲からない話」

「おーい、ザイン」「こんにちはザインさん」

「んおー、ハルトにイエコちゃん。どったのーおまえらまでこんな僻地までー」


 普段の活動範囲からそれなりに遠出して。初夏の足音を間近に感じられる蒸し暑い熱帯雨林の泉に、ザインを見つけた。

 ハルトとイエが汗だくでやって来たのと似て、キャンプ中の彼もまた携帯扇風機を狐耳に当てながら息苦しそうだ。


「近くで依頼があったから寄ってみたんだ。いつ帰ってくるのかってマリーが淋しそうだったぞ」

「そっかー。この遠出のことはぜんぶ話しておいたし、電話も毎晩してるんだけどなー」

「それとこれとはまたべつなんですよ。……えっと、『狐の嫁入り』でしたっけ?」

「『狐の世見守り』なー。ボクら狐族のライフワークさー、社会の外側からひっそりと世の中の平和を見守るわけー」


 ザインはフェアリーで時間を見ると、泉の水際へ歩いていった。

 そこに立っていたモノを、丁寧にさする……。


「その起源を遡るとー、9世紀の当代勇者による世直し活動に救われた族長ギョクケインがー……」

「いやその話より、なんでおまえがドーンバタフライをさすさすしてるのか訊きたいんだけど」

 ーーエフェ……エフェッフェ……クトゥ……


 ザインは「えー?」。水際で岩に留まっていた、全長3メートルはある蝶の魔物を寝かしつけていた。


「ハルトぉ話聞いてたかー? だからこいつの休眠期をあと1週間伸ばしてやればー、この地域の平和は守られるんだよー」

「そうですよハルトさん、『狐の世見守り』です。人の話はちゃんと聞かないと」

「納得いかない」

「それでザインさん、ドーンバタフライは大人しい魔物ですけどどうして起こしたらダメなんです?」

「うむー、よく聞いてくれたなーイエコちゃんー良い質問だー」

「納得いかない!」 ーーエフクゥ……ッ


 ドーンバタフライが身じろぎ。ザインはハルトへ「しーっ」と指を立てながら、何かの骨のガラガラを振った。


「ただデッカいってだけのこいつをー、起こしたらいけない理由はだなー……あー……、…………長い話なんだよー」

「オレが今からする『友だち』ってテーマの説教よりもか?」

「いや話すのが面倒なんじゃあなくてー。全部話してもだなー、獣人のスカウト(偵察)術を持ってない2人にはチンプンカンプンだと思うんだよなー。マリーもピンときてなかったみたいだしー」

「環境に通ずる獣人の嗅覚ってわけか。まあいいよ、じゃあ結果的に何が起こるのかだけ話してくれれば」

「ここ出た先の村が一夜で滅ぶぞー」

「何が起こったらそうなっちゃうですです……!?」 ーーエックシッ


 ドーンバタフライがくしゃみ。ザインはイエへ「しーっ」と指を立てながら、何かの皮のぬいぐるみを抱っこさせた。


「オケモンマスターって魔物がそれはもう大暴れするんだなーこれがー」

「……オケモンマスター? このドーンバタフライじゃなくて? どっちにしても温和な魔物のはずだな」


 ーー 【マモネイター】(魔物検索) ーー

 ーー オケモンマスター ーー

 ーー 桶の人型魔物です。気に入った野良の小動物を桶に入れて持ち運びます。人のペットにまで手を出す……ことは無いので人間には無害です ーー

 ハルトのフェアリーが、桶の集合でできた少年のような魔物を図鑑表示した。


「あのう。ちなみに私たち、その村の流行り病を治してきたところなんですけど」

「おーマジでー? んじゃあせっかくだしー、今からこいつ起こすから手伝ってくれないかー?」

「せっかく納得しかけてたのに何言ってるんだ……!?」


 ここまでのやり取りをぜんぶ蹴っ飛ばしてコレである。奔放な彼氏をマリーがそばに留めておきたくなるのも道理だ。


「いやいやこれまた長い話なんだよー。ただでさえ休眠期がズレこんでるこいつを寝かせ続けると、それはそれで帝都を挟んだ向こうの雪山が雪男の群れに支配されるんだなー」

「チンプンカンプンです」

「てなわけでココが終わったら帝都に顔出してー、そのまま雪山に向かうつもりだったんだけどー。マリーがそんなに淋しがってるならむしろー、こいつを起こした場合のイザコザを片付けていっしょにいてあげたくてさー」

「……なんていうか、マリーがおまえを怒るに怒れないのがよくわかるよ」


 わざわざ帝都の高壁の外でキャンプ生活を送っている恋人を、あの鋼鉄メイドは手元へ引きずり込めないでいる。


「今回は千癒術士助手として来てるから、こいつがオッケーならオレはかまわないけど。……イエ?」

「はい、お手伝いしましょう。なにをすればいいですかザインさん」

「ありがとなーこんな儲からない話に付き合ってくれてー。ここを去ったらこいつはそのうち起きるはずだからー、ボクらは村の前の街道で待ってればいいのさー。今晩中には怒り狂ったオケモンマスターが現れるから倒して一丁あがりー」

「なるほど、ピンとこないな」


 そうして3人は熱帯雨林を後にした……。


  ◯ ◯ ◯ ◯


 ーーエフェクト……バタタッ


 誰もいなくなった泉で、ドーンバタフライが目覚めた。

 ソレは長い休眠期の寝ぼけを解消しようとするように、大きな羽をストレッチさせたり水を飲んで半日ほど過ごしていた。

 ……びっしり落ちた魔力の鱗粉は泉へ沈殿していき、水底に通っていた地下水脈を流れていった。


 ーービホッ、ルッックション!


 熱帯雨林の隣の峡谷には滝があり、眼球型の魔物チョメルダーの群れが洗眼していたのに鱗粉でやられてアレルギー。

 ……ソレらは普段の生態ルーティンから外れ、眼の療養に1日を費やすことになった。


 ーーダレモコナイ……クスン……ウワァァアン……!


 峡谷の隣には林があり、鳥人型の魔物ギークプリンセスが三味線ライブを開催したのに観客のチョメルダーが来なかった。

 ……彼女のヤケっぱちな歌声は独特な周波数を宿し、それは犬笛のように人間には聞こえなかったが遠くまで轟いた。


 ーーットダゼ……ゲッ……ゲット、ゲット……?


 林の隣にはゴーストタウンがあり、無数の野良猫の住みかだったが怪音波に驚いて「ナァー!?」、みんな逃げていった。

 ……それを間近で目撃してしまった全長10メートルのオケモンマスターは、どう解釈してどうショックを受けただろう。

 そしてゴーストタウンの隣には、流行り病がとりあえず解決したばかりのニュータウンがあった。


「うああああホントに来たオケモンマスターだああああ!?」「あわわわわわ」「キレてるキレてるー」

 ーーゲゲゲゲゲッッ、ゲゲット、ゲ、ゲィェェェェェェェェ!


 そして小動物の癒しを失ったオケモンマスターの暴走を、ハルトたち3人が必死に食い止めるのだった。

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