19-1「オルトギア」
「今回の依頼にはマリーの手を借りるぞ。家出した家庭用オルトギア探しだ」
『探偵みたいなこともするんだね、冒険者って。まあわたしにかかれば猫探しよりはラクな仕事だけど』
帝都ベルロンドの上町、テナントビルの屋上にて。ハルトのフェアリーがマリーとテレビ電話を繋いでいた。
『で、家出ってなあに? 自我があるっていっても、彼らはちょっとやそっとじゃ契約を投げ出さないはずだよ』
「けっこうデカい家のおばさんが依頼主なんだけど、依頼遂行には関係無いの一点張りで教えてくれなくってさ」
「陰謀の匂いがしますね。映画だとまったく無関係そうだった大事件の一端だったりするのです、ふんす」
『あ、さっそく観てくれたんだ『廃棄物B号』。切ない愛のお話だったでしょイエコさん』
「はい。マリーさんが言ってた『ロボットが出てこないロボットアニメ』の意味がわかりま……」
女子2人がキャッキャしはじめたので「ごほん」、ハルトは話を引き戻した。メイデン族のメイド、マリーはクスと笑う。
『さて貰ったデータから調べてみたけど。対象がIDを偽装してて、ドンピシャでGPS情報をトラッキングってわけにはいかないね。でもこの型番のオルトギアはスタンドアローン型じゃなくネットワーク必須型だから、すれ違った互換周波数帯持ちオルトギアとの同期を通してログが残ってるはず。年式的にいってそこにあるパケットロスを分析すれば特定できるよ』
「……つまり?」
『街のはたらくオルトギアたちを見て回って。2人のお散歩デートトークを聴きながらわたしがガンバる』
「ふんすふんす」「お、おい引っ張るなって」
そうしてハルトとイエは、高級感濃いめな上町へ下りていった。
目印としてエーテルギアを露出させた自動人形たちは、見つけやすくはあっても街の営みに溶け込んでいた。
たとえば宝石店のドア前では、球体関節が覗くほどの旧式オルトギアが警備員として立っていた。肩で薄くなったベルアーデ帝国軍のエンブレムに、花丸でも付けるように真新しい退役の証が彫られている。
(オルトギアはもともと軍事目的で造られた代物だけど、今どき街で暮らしてるのも珍しくない。なにしろ退役した軍用オルトギアだって再就職を望むっていうんだから、大した自我だよ)
たとえば倉庫型スーパーでは、フォークリフトの先端に乗せてもらったオルトギアが人間の店員と息ピッタリに品出ししていた。モジュール無しでは膂力は人並みだが、標準装備のオートバランサーを活かして小麦粉袋を高々と山積みしていく。
[リーダー、ここの品揃えはあっちのエンドと入れ替えたほうがいいですよ絶対]
「そのヤル気は嫌いじゃないけど僕の一存じゃあなあ」
たとえばスケートパークでは、インストラクターのヘルメットを着けたオルトギアが脚を1本ずつ逆関節型へ換装し終えたところだった。そうしてスケボーへ飛び乗り、危なげなくトリックを決めていた。
「センセーったらズルっけー! 磁石でくっついてんじゃん足とボード!」
[ハハハ、今日はジャンプ系の指導は無いのでいいのですよ。先生は万が一コケたら修理費スゴいんですから]
そんなこんなでしばらく歩きまわって……、
『2人とも、ちょっと計算したいからその辺りで休憩でもしててくれる?』
ハルトとイエは、オフィスビルの前のベンチで小休止のため腰かけた。
「改めて見ると、ロボットらしいカンジがあんまりないですよね。百万馬力とかおっぱいミサイルとかそういうの」
「いつのロボットアニメの話だよ」
『そういうのは戦車より高いモジュールを導入したごく一部だけだからね。もっとも軍用オルトギアだってべつに破壊兵器じゃないよ、あんなふうに演算と情報処理が得意なバリバリの技術系』
マリーが指差したオフィスビルの一室では、サーバーと有線接続したオルトギアのOLたちがパソコンへ向き合っていた。
「よかったです、オルトギア同士で戦ったりとかじゃないんですね」
『スパコンで殴り合うようなものだよ? 彼らに等身大の自我があるのは、死を恐れない冷たい軍勢を実現させないためでもあるんだ。それでも彼らに戦争を押しつけようとした国々は、すぐにお金も力も無くなって歴史に呑み込まれたしね』
黒金帝国のメイデンは、鏡台へ向かうような柔らかさで自分のハイエンドPCへ向き合う。
『彼らはヒトの手に寄り添ってこそ望ましいし、彼らのほとんどは電子の海に還るギリギリまでヒトの手に寄り添うことを望んでくれる。だから……そこを歩いてるような可愛いオルトギアは、ちょーっとキナ臭い事件が起こりがちなんだよね』
[ううう……]「「う?」」
と。ハルトとイエの前を、目深に帽子を被ったオルトギアがトボトボと通過した。
ちょうどハルトが手持ち無沙汰に眺めていた写真どおりの、フリルシャツにスカートを纏った少年型オルトギアが。
「み、見つけたーーーー!?」[みゃッッ、お、追っ手ーーーー!?]
ソフビ人形よろしくビクーンッと硬直した少年型オルトギアから、帽子が外れた。
急な動作でずり落ちたのではなく。彼の驚愕に呼応するように、頭部に展開されたモジュールに弾き飛ばされたのだ。
猫耳が生えたし、猫尻尾も生えたのだった。
『うん待ち伏せピッタリ……て、悪趣味なモジュールだねえ。やっぱり『愛玩用』にカスタムされちゃったクチか』
[き、きみたちメーカーの人!? ぼくを処分しに来たの!?]
「落ち着いてください、私たちはあなたを探すよう奥さんに依頼された冒険者です。家出したって聞きましたけど……?」
[そうだよ! だって見てよこのネコモジュール! ぼくはお年寄りの介護からお孫さんの相手までできる最新型セラピーモデルなのに、どこのヤンキーショップで買ったかもわかんないコイツらで魔改造されてさあ!]
「よ、よせよせよせ何を見せる気だスカートから手を離せ!」
なるほど『愛玩用』。オルトギアにまつわる社会問題の1つである。
「おまえなあ、犬猫じゃないんだから自分とこのメーカーに報告すればよかっただろ。不尊厳な扱いをしたってことであのおばさんは二度とオルトギアと契約できなくなるし、おまえだって大手を振って里帰りできたのに」
[そしたらぼくは兄妹たちの笑い者だよ! だから再出発するにしてもまずは本社に忍び込んで、ボクの痴態のログを消去して新しいIDを発行して……ブツブツ、ああでもそのために軍資金を調達してブツブツブツ……]
「……自我があるのも良し悪しだな」
『そういうことならなんとかできるかもよ? 事情はどうあれプログラムを改竄した罰を受けてもいいなら、だけど』
アブないオルトギアともども、ハルトとイエはイタズラっぽく笑ったマリーへ首を傾げた……。
◯ ◯ ◯ ◯
『次のニュースです。昨晩未明、クリソベリル通りの資産家宅で家庭用オルトギアが暴走する事件がありました。
付近を通りかかった王城メイド隊が鎮圧および捜査したところ、このオルトギアはスァーヤ皇国のハッキングを受けていたとのことです。帝国内各地に密輸されていたスァーヤ製パーツの完成形とみられるネコまっしぐら砲(仮)が装備されており、誘引された野良ネコたちが資産家宅を倒壊させましたが奇跡的に負傷者はありませんでした。
当局は加害オルトギアの身柄を拘束中。スァーヤ皇国を非難するとともに、ハッキングのためとみられる不適切なモジュールを除去したうえでメーカーへ返還するとコメントしています……』




