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18-1「学院」

「イエはまだ調合中か。あいつったら凝り性だな、カネカブリグモの麻痺毒なら自然治癒力でも治るのに」


 帝都ベルロンド、下町コーラル通りのマイホームにて。ハルトは自室でマンガでも読みながらリビングへ語りかけた。


「へぇ~、さすが助手やってると詳しなるやん。いっそ冒険者辞めてそっちに専念したらどや~、そしたらこんなふうにもっとイチャつけるでぇイチャイチャイチャコラ」

「……(俺は受け止める。シャルカさんコラ、あばらにスリスリしないでくれまだくっついていないからイタタダダ)」


 角まで包帯を巻かれた満身創痍のディアデムと、フェアリーで写真を閲覧中のシャルカがソファでくつろいでいた。


「イエ、早く来てくれ……!」「わあ。イチャイチャしたいんですか? ハルトさん」


 来た。マイホームと直通の工房アトリイエから、イエが錠剤入りのブリスターパックを手に現れていた。


「したくなっっ……しない! 人前でイチャつくこいつらがおかしいの!」

「人前ちゃうかったらやぶさかやない口振りやん」

「素直じゃないですよね。さてお待たせしましたディアデムさん、このトローチを6時間に1回服用してください」

「……(俺は感謝する。ありがとうイエコくん、では俺たちは退散するから存分にイチャついてくれ)」

「なぁなぁ2人ともっ! 攻城訓練中のディアデムの勇姿、アルバムにしてもろたんや見て見てぇ!」

「この期に及んでまだ居座る流れを作るなよ」


 イエが「どれどれですです?」とソファの横のテーブルに座ったので、ハルトもしかたなくリビングへ足を運んだ。


「まずは開始直前の集合写真な。みんな気合い入ったツラしとるなぁ、こないして見てもディアデムが一番男前やけど」

「……(俺は危惧する。シャルカさん、ひょっとしてここからは俺が恥ずかしいだけの時間か?)」

「せやな」「そうだろな」


 しかたなくイエの隣に座って、シャルカが皆の中心に展開したホロ・ウィンドウを見てやれば。

 孤城を望む丘の下で、攻城チームと籠城チームに分かれた士官候補生たちの集合写真。

 フィジカル強めなポージングで息巻いている者が多いなか、ディアデムは生真面目な敬礼で意気込みを見せていた。


「いいですね。この感じ、私もムウザンヒール学院に入学したての頃を思い出します」「うん? イエ、それは?」


 と。イエはおもむろにこれ見よがしに、大袖の中から分厚いアルバムを引き出していた。


「よく訊いてくれました。麻痺消しを作ってた時に見つけたんです、私が学院に通ってた頃のアルバムです」

「おほ~! ええやん、せっかくやしそれも見よぉや!」

「あー……こいつの訓練生時代かあ……」

「……(俺は賛成する。それを言うなら学生時代だろうハルト。まあ俺の恥ずかしさも軽減されそうだな)」


 イエはアルバムのはじめのページを開けば、そこには集合写真があった。

 9歳の少年少女たちが、千癒術士見習いの袖無しローブを纏いながら緊張の面持ちで並んでいる。

 そんななか。桜髪の少女は、面持ちはキリッとしているのになぜかポケ~ッとして見えたから不思議だ。


「どう見てもこれがイエコちゃんやなぁ。ええやん、ヒーラーの学校てなんやきらきらコミックのマンガみたいで……」


 シャルカが「ほは?」と目をこすったのは、見習いたちの周囲の環境にやっと目をやったからだ。

 ダンジョンたちが織り成すエーテルギアの輝きを見下ろして、そこは小雪がまぶされた霊峰の頂だった。

 見習いたちの背後には。学舎が常軌を逸して建て増しされ、無数にして一つの大樹がごとき魔窟……いや学院があった。


「なんやねんなこの魔王城みたいなガッコ」

「……(俺は動揺する。魔界でもこれほどの違法建築はないぞ、どんな場所だ)」

「おい、麓にはオレの地元もあるんだぞ」

「懐かしいですね。お日様が登る前からお山を登って通学してました」


 大変だった風の表情を見せた一方、どこかのほほんとイエは頷いた。


「まあアレや、専門学校って郊外にありがちやし? それよりほら次、作戦地域の情報をディアデムがまとめとるとこ」


 野営地の写真。膨大な資料を展開したディアデムが、特色の異なる細かな装備類を分解しながら熱弁を奮っているようだ。


「……(俺は誇る。ここまでは破城装備Dがセオリーだったのが、戦況的に迫撃装備Bが最適解になったと説得するのは骨が折れたな。刻一刻を争うなかで換装作業をやり遂げた)」

「わかります。私も、どんな修羅場でも調合をやり遂げられるようにって訓練してました」


 学院上層の写真。拳1つ分しか踏み場の無い柱たちのてっぺんに乗り、調合器具に向き合うイエたちがいた。


「……(俺は混乱する。ヒーラーの学院だよな? 拳法道場とかではなく)」

「まー、まあほら、お医者さんて意外とフィジカル勝負やし? それよかこれも見てやっ、いよいよディアデムの城攻め!」


 城郭内の写真。中衛として仲間たちと肩を貸し合いながら、ディアデムが籠城チームの攻撃をシャベルでいなしていた。


「……(俺は疼く。仲間がパニックを起こすのが一番恐い、傷を増やしてでも誰一人置いていくわけにはいかなかった)」

「そうなんですね。私たちのほうは『自分の首も繋げられない者にヒトは癒せない』って教えがあったので、友だちの屍を利用してでも患者さんのところにたどり着かないといけませんでした」


 学院中庭の写真。ボルトアクションライフルやガトリングガンを持った白魔法師たちが屍の山……もとい失神した見習いたちの山の上で待ち構えるなか、その向こうに横たわる『患者』役の人形めがけてイエたちが進軍していた。


「……ディアデム、もっとインパクトある写真あったっけ? あったやんな?」

「……(俺は困る。趣旨が違ってきているぞシャルカさん。強いて言うなら本丸に旗を立てたこの瞬間……そして、その後の打ち上げが俺のお気に入りだろうか)」


 本丸屋上の写真。突き立てた旗を杖代わりに、ボロボロのディアデムたちが勝鬨に拳を突き上げていた。

 ビアガーデンの写真。本丸屋上での勝利の瞬間と重なり、攻城・籠城チームが肩を組み合いグラスを掲げていた。


「わあ、本当に素敵な写真ですね。羨ましいです。私たち、打ち上げとかでも食堂だったので」


 大食堂の写真。熱心なことに学術書片手だったり、はたまた食べ終わって机に突っ伏した見習いたちなどなど。イエもサラダを頬張っていて安らぎの一時のようだ。それを見たシャルカもまたホッとしていた……、


「……(俺は戦慄する。なあイエコくん……居眠りしてる子がやけに多いと思ったが……これ……泡を吹いていないか?)」

「あ、はい、毒見に失敗したんですね。どんなごはんにも毒草とか毒キノコが入れられてるので、献立表といっしょに配られる毒献立表を見て対処しないといけなかったんです。ほどほどに弱毒化されてたので安心してください、保険室には運ばれますけど毒の耐性が付くので損はなかったです」

「ホント大変だったな、イエが卒業するまでの6年間。補習の時は迎えに行ってやらないと夜の山道で魔物に襲われるし、調合試験の時はおまえんちで3日3晩錬金釜混ぜてたし、寝ぼけたおまえがオレんちのホームパーティで毒のキッシュ作るし」

「あの頃からお世話になってます」


 2人でほわほわと笑いあっていると……「「ん?」」、シャルカがディアデムを引きずりながら立ち上がったのを見た。


「あんたらのほうがイチャイチャしよってからにくそったれぇぇぇぇ!」「どこがどうして!?」


 念動で浮いたディアデムがそこら中にぶつかっていたが、サイカカップル(というかシャルカ)は退散したのだった。

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