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17-1「自販機」

「あづい……」「あちゅいですね……」


 冒険者ハルトと千癒術士イエは、砂漠のダンジョンをフラフラと進んでいた。

 焼ける快晴の下。ダンジョン化によって砂が迷路の壁としてせり上がり、そこかしこから土属性多めのエーテルギアが生えている。時空間が歪んでいるので、かつてあったと思われる遺跡や石像が不条理な構図で増殖しているのも迷いを誘った。


「イエ、けっこう飲んじゃったけど水はまだあるか……?」

「極振りで持ってきたので、まだ浴びるほどありますよ……」

「有能かよ助かる……」

「でも水筒が足りなくて、ペットボトルに詰めてきたらこの暑さでみんな熱湯に……」

「バカかよバカかよ……まあ背に腹かえられないか……」


 外套で日除けをしたり、冷却シートを貼ったりしていたがやはり暑い。イエが大袖の中から1ダース以上ものペットボトルを覗かせて、ハルトは中身が煮立っている気がするソレらへ手を伸ばした。

 しかしその時、通路の向こうに機械の箱が立っているのを発見したのだ。


「お! 自販機だラッキーッ、ちょっと休憩しようぜ!」「わあ。パチパチパチ」


 自販機だ。霊薬自販機でも弾薬自販機でも使い魔自販機でもない、今は1番嬉しいドリンク自販機の発見だ。


「新発売、バフ(有利効果)ドリンクだってさ。ポーション自販機に入れるもんじゃないのかこれ?」

「むむむ、そんなの飲まなくても私がお世話しますよハルトさん。ところで大銅貨持ってますか」


 ハルトは「いいじゃんせっかくだし」とハテナマーク大きめな虹色の缶を買った。エナジードリンクっぽい。


「お先。ごくっごくっ……んぐ、ごっふっ!?」「ほら、そんなの慌てて飲んじゃうからです」


 ムセた。ミネラルウォーターのボタンを小銭のかぎり連打していたイエが、言いながらも背中をさすってくれた。

 ただハルトは。渇ききった喉がビックリしたわけでも、甘味料尽くしのライチフレーバーにやられたわけでもなかった。


「いやなんか硬いものが入ってきて……てか飲み込んじゃったぞ……ごほごほ。なんかの果肉かな……ああっ!?」「!?」


 ハルトは、宙に浮いていた。

 足にロープを引っ掛けられて吊り上げられるブービートラップがあるが、あんな調子で天地逆さまに。

 問題は吊り上げるロープなんてどこにも無く、ものすごい勢いで青空めがけて落ちていったことで。


「はっし……!」「うあああああ助かったあ!」


 イエが手を繋いでくれたので、ハルトは奈落の空へ呑み込まれずに済んだ。


 ◯ ◯ ◯ ◯


 フェアリーが電話をかけたホロ・ウィンドウに、どこぞの工房のオフィスと中年メイデンが映っていた。


『なんじゃあわりゃーさん、中の指輪飲み込んでもうたんかね? 『バフドリンク』じゃのうて『バフ・ド・リング』じゃあよ、オマケでワシらの弟子が造ったバフ付き指輪が入っちょるんじゃ』

「ちゃんと書いといてくれよ! ……書いてた! うおお!」

「あわわ、ジタバタしないでくださいハルトさん」


 イエからするとハルトの重さは消失しているらしい。ハルトは風船よろしくフワンフワン揺れた。

 メイデンが言ったとおり、ドリンクの名前は濁点を見逃したハルトの不注意のようだった。そして缶にも自販機の見本にも、警告標識のテイストで『マジックリング入り! 誤飲注意』と書かれていたのだった。


『よっぽど慌てて飲んだんじゃのう。砂漠のド真ん中にでもおるんかいさ?』

「そのとおりだよ……! いやそれより、このトラップみたいな状態のどこがバフだって?」

『重力反転バフじゃあね、そりゃ屋内とかなら使いどこもあるけえよ。げーには月面並みに体を軽くする反重力バフにしたかったみたいじゃが、まージュースのオマケじゃもん堪忍してつかあさい。オホホホ』

「要するに弟子が造ったワケアリ品ガチャかよ……」

『キトン~! おどれが造った重力反転バフじゃがのうどがーずして解除すんじゃあ~っ?』

『はーいっ? どうやってもなにも指から外したらいいですよー?』

『やーそれがのう、お客さん指輪飲んでもうたんよおこれがあ』

『うそっ? ぷっふふ……ごほんっ、あー、それならじゃあ24時間もすれば自然に戻ると思いますよ! ……自然にね!』


 向き直った中年メイデンが「あ、ミュートしとらんかった」、……ハルトとイエへ営業スマイルを向けた。


『……千癒術士さん、下剤とかある?』

「ありますけどそれだけじゃダメですね、まだ胃にあるはずなので消化促進剤も併用しないと」

「そんな気がしてたけど! ちょ、ま、落ち着け話し合おう……!」

「鬼手仏心」


 あっという間の出来事だった。大袖の中から落とされた簡易調合台が砂地に立ち、イエが片手で薬液やハーブ類を調剤するやいなや……それは大きな注射器に装填されてハルトへ「ふごっ」、胃の位置へ突き立てられた。

 注射器のピストンが押されていくとともに、ハルトは水っ腹が急激に膨れ上がるのを感じた。針の角度といい深さといい、胃袋の中へ薬を直注入してみせた千癒術士が頼もしくもあり恐ろしかった……。


「問答無用です。すぐにとはいかないですけど、1時間もすれば効果が出るはずです。さあ、今回のところは脱出してトイレのあるところに行きましょうね」

「イヤだよそんなリタイア……! 奥にいる賞金首はどうするんだ、ここで退いたら逃げられるぞ!?」

「諦めるしかないですよ。そんな逆さまで戦えますか?」

「や、やってみないとわからないし……。なんなら、だな、その……最悪ここで待って……ごにょ……」

「携帯トイレですか? 出さないですよ。普段ならともかく、この状況のリスクを考えると千癒術士としてオッケーできません。いいですかハルトさん、ただでさえ生き物がもっとも無防備なのは排泄と性こ……」

「やめろ人前でえ!」

『あんのー、お2人さん。イチャついちょるとこ悪いんじゃがあ後ろ見たほうがいいよ?』

「「「「「あ」」」」」


 と、驚いた声をあげたのはハルトでもイエでもなく。

 ダンジョン入口方面の角向こうから、不揃いなゴーグルやバンダナで砂漠戦に備えた者たちがひょっこり現れていた。

 銃で武装した盗賊である。


「コ、コンタクト!」「いたぞぉ!」「例の二人組だ!」「ボスのもとへ行かせるな!」「男のほうアレどういう状況!?」

「イエぇぇぇぇ! ダッシュ!」「脱兎」


 イエはダンジョン深部へやむを得ず走り出して、牽引されたハルトも応銃パラレラムを構えて。


『落ち着いたらまた電話してつかあさい。お詫びにわりゃーさんらのお家にバフ・ド・リング1箱送るけえ』


 ハルトは「けっこうだっっ」、アサルトライフルやサブマシンガンの弾幕に晒されながら電話を切ったのだった。

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