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15-2「◯◯と狩人」

「わたしの夢は、マイホームを建てて幸せな家庭を築くことだよ。人並みだけど最高でしょ」


 マリーは機械仕掛けの赤石レディオーダーを取り出し、胸へ押し当てた。


「もちろんベルアーデ城に部屋はあるけど、単に自分の家が欲しいわけじゃなくて。わかってくれるよねイエコさん」


 質量保存の法則を無視して赤石から強化外骨格が展開され、マリーの四肢と一体化していった。


「アイアァァァァンメイデン!!」


 小学生並みに小柄だったメイデンは、メイド服までも拡張されていって……。


  ◯ ◯ ◯ ◯


 帝都ベルロンドのすぐ隣には、誰が呼んだか『見守りの森』があった。

 人に慣れた最弱の青さめしか魔物がいないので、子供を遊ばせても安心して見守っていられるとかなんとか。


「こらこらー、イノシシステーキ1枚で矢が20本しかないぞー? ごまかそうとすんなよー」

 ーーしゃっくる……しゃはははは


 現に森の中心部では、青さめたちと物々交換なんて行っている獣人の狩人もいるわけで。

 彼はザイン。狐の耳と尻尾からわかるとおり獣人だ。

 木の枝や鉄板でレベルアップさせたテントを基点に、なんともミニマムなベースキャンプ……もとい我が家を築いていた。


「はあいみんな、わたしの彼氏にこんにちはして。お受験に失敗したのに他の道に目をやらなかったり、若さに甘えてその日暮らしをヨシとしちゃうとこういうホームレスになっちゃうかもしれないよー。気をつけようね」


 と。豆戦車でやって来た鋼鉄レディ……マリーがニコッとすれば。車体に増設されていたお散歩カーゴの中で、トゥーデッカー幼稚園の幼児たちが「はーい!」などと元気よく答えた。


「マリー? だからボクは受験なんて受けたことないしー、その日暮らしっていうか自給自足をヨシとしてるだけだぞー?」

「社会から外れた末路としては同じでしょ」


 ザインは肉を吊った焚き火の前でわかりやすく脱力していたが、カノジョのマリーは強化外骨格の肩肘を張っていた。


「ギア万能のこのご時世で、その若さで、しかもあの帝都のすぐ隣で。自分から世捨て人になってるなんて理解できないよ」

「解釈違いさー、ボクら狐族は社会の外側から世の中を見守るのが美徳だと考えてるわけでー。機械や街が嫌いってわけでもないぜー? ボクの弓はマリーが機械化してくれたやつだしー、こっちにはほらマリーが教えてくれた激安店のカップ麺がー」

「あのな2人ともっ、幼稚園児に痴話ゲンカを聞かせる前にロープかなんかで繋いどいてくれ!」

「あっあっ、枝にぶら下がったら危ないですよ。こら、銃のセーフティはマリーさん先生が言うまで外しちゃメッです」


 同行していたハルトとイエは、カーゴから溢れ出た園児たちが銃火器を提げて走り回るのをなんとか抑えていた。


「おー、ハルトにイエコちゃんわるいなー。幼児を使ってプレッシャーかけてくるなんて怖いカノジョだわー」

「わたしは夢のマイホームでザインくんと暮らしたいだけだもん。だから今のうちから街暮らしに慣れてほしいんだよ」

「街じゃなくても、マイホーム欲しいって話ならココでよくねー? 数年くれたらログハウスくらい建てるぞー」

「イヤ。日当たりの良い一等地に、完全ギア化されたスマートホームを建てるんじゃないと絶対却下」

「人並みだけどささやかな夢じゃないんだよなー」

「マリーィィィィ!」「あわわわマリーさんマリーさん」

「ああ、青さめたちと遊んでるのは大丈夫だよ。戦闘お遊戯の演習相手だから」

 ーーふかひれ! しゃっくー……きーん!

「でたなー『魅魔森のリーパーズ』!」「前回のリベンジだ!」「対戦おなしゃす!」「砂猫じんけーでいくでし!」


 焼きたてステーキを平らげた青さめたちが枝の剣や樹皮の盾を持ち、同じくらいの背丈の園児部隊と遊びだした。

 青さめはそれこそ幼稚園児程度の力しかないし、園児が撃ちまくっているのも物質弾ではなく調整された非殺傷魔弾である。自然の塹壕越しに制圧戦ごっこが繰り広げられているのを見守りながら、ハルトたちティーンエイジャー組は焚き火を囲んだ。


「いいなあハルトくんちは、もう愛の巣があって」

「言い方。いや実際はこの年でローンの重み背負ったんだぞ、一生かけてアリステラさんに返済してかないと」

「またまたお母さんに頭が上がらなくなりました」

「無利子無期限のローンでしょ。同じ勇者パーティでもうちのお母ちゃんは……っと、恋バナに愚痴は禁物だね」

「恋バナなのかー? 2人の夢の話なのにケンカはやめようぜーマリー、わざとハルトとイエコちゃん巻き込んでるだろー」

「ケンカじゃなくて建設的な議論。第三者の意見も時には必要だよ」

(……獣人は魔力の影響を受けた獣が進化した亜人種族。少数のコミュニティで生きてきた歴史が長いから、独自の生活観を持ってることが多い。メイデン族のマリーもこだわりが強いから歩み寄りが大変だな……)

「あっ、アルティくんヴァイスちゃんそこでリロードはマズいよ! みんなカバーしてあげて!」

「青さめ2号に5号ー、突出してるぞー周り見ろー」


 焚き火で根菜と豆のスープを炊いている間に、ちみっこたちの演習は白熱していって……。

 数分後、勝ち誇った青さめチームと悔しげな園児チームがスープで乾杯していた。


 ーーしゃーっしゃっしゃっしゃっしゃっ!

「ぐぬゅう」「次はゼッタイのホントに勝つの!」「ぴえん!」「スープおいしい~!」「つかれたぁ……ふぁーあ」


 ハルトとイエが配膳を担っていた一方、ザインとマリーはまだ議論しながら豆戦車のほうへ歩いていっていた。


「まーとにかくとりあえずー、いつもの用意しようぜー。今日から6月の空でよかったよなー?」

「そうだね。じゃあいくよ」


 車体後部に積載してあったものを、マリーがアイアンメイデン化の膂力を活かしてザインのそばへ投げ込んだ。

 完璧な軌道計算で地面にもれなく刺さったそれらは、様々な形状の鉄パイプだ。


「あいよー。3、2、1、ボウ」


 ザインは抱えていた大きな布を真上へ投げ込むと、機械化弓コンポジットボウ改で鉄パイプたちを速射した。

 命中した布が張られ、しかも鉄パイプごとのジョイントも寸分違わず噛み合わされていった。


「1、2、3、デン」


 さらにはマリーが機械装置を投げていき、鉄パイプ矢がかすめるのも計算ずくで布に接着させていて。

 そして完成したモノが、豆戦車よりも大きな姿でズドンと地に根付いた。

 穴を点々開けた布が回転するようになった、半球型プラネタリウム兼大型テントである。

 ちなみにサンドイッチサイズの圧縮袋からたくさんの毛布が展開され、サーチレーザーや警報器や小型タレットも完備。


「わたしたちの話はまた今度ね。さあみんな~お昼寝の時間だよおいで~! ザインお兄さん特製プラネタリウム付き!」


 園児と青さめがいっしょになってキャアキャアと、マリーとザインに引率されてテント内に寝転がっていった。


「ハルトとイエコちゃんも休んでくかー? ちょっとさめ臭いかもだけどなー」

「……おまえらさ、なんだかんだ言いながら理想のマイホーム建てるんだと思うよ」


 ハルトとイエコは、2人の愛の巣に踏み入るのは遠慮して帝都へ帰るのだった。

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