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13-3「特技」

 オアシスの都市を目指す玉っころ型移動要塞の中心部には、艦橋めいた司令室があった。

 しかめっ面を象るヘルメットで相貌を秘した者たちが、持ち場のコンソールの前で操作の手と怒号を交わしあっている。砂漠の盗賊……いわゆる砂賊が好む世紀末なアーマーやローブには大仰な記章が誂えられていた。

「最下層部と最上層部から侵入者アリ! 数はどちらも3つ、後続は無いようですが……陛下! 皇帝陛下!」

「ファファファ……うろたえるでない、全ては我の読み通りよ。やはり大軍は陽動、精鋭部隊をぶつけてくる腹か」

 総司令のシートで贅肉を揺らしたのは、腹どころか指先まで太りきった老人だ。邪教の主めいた法衣に、手下が付けている記章の図案そのものの冠を戴いている。

「じゃが外縁には侵入できても、四大属性のクアドラプルバリアの前では一歩たりとも先には進めんわい……」

  ◯ ハルト ◯

 移動要塞の最上層部外縁は、格納ロッカーでできた壁が果てしなく続くドックだった。

 警報鳴り響くなか。外とは比べ物にならない物量でロッカー内のドローンと使い魔たちが駆り出されていた……のだがほとんど倒され、その残骸の山はバリケードとして利用されていた。

「はっはー、ボクのほうがキレイなバリケードを作ったぜー。うーん、ふつくしいー」

「おい、撃破数の勝負だったろ。ちゃんとフェアリーで数えてるんだからな」

「……(俺は詠唱する。《エンチャント》(付与魔法))」

 バリケードを背にしたハルトとザインが使い魔たちの牽制射撃をやり過ごす一方。適当に引っ張ってきたドローンの残骸をシャベル高速突きで細切れにしたディアデムは、そこに4色の魔力を付与した。

 付与魔法によって、1つ1つが『火』・『水』・『土』・『風』のいずれかの属性を纏ったのだ。

「……(俺は準備完了する。位置について……よーい……」

 そう言って彼が指差した目の前には、内縁へと続く道を果てしなく阻む四大属性色のバリアがあった。

 そしてハルトもザインも、ウェポンマスタリーと弓術で迎撃もそこそこに属性付きスクラップを拾って。

「……(ドン。火、風、火、水、水、火、土、風、火、風、土、土、水……)」

 ディアデムが指差したのに合わせて魔力のポインターがバリアの表面に光り、スクラップが投げつけられた。

 バリアはスクラップごとき触れた先から消滅させたが、付与されていた魔力は小さな波紋となって広がった。

 揺らぎが潰える前に次のスクラップがぶつけられるものだから、波紋は増幅されあって大きくなっていった。

 それはバリアを調和させていた四大属性のグラデーションをも揺らがせ……ついには一点が醜く歪んだ。

 歪みへ、投げ槍よろしくシャベルが突き立った。

「……(俺は確信する。突破完了)」

 そして破れていったバリアの向こう、要塞深部へと男子3人は走りだした……。

  ◯ ◯ ◯ ◯

「ク、クアドラプルバリア、外縁部から消滅しました!」

「ほう……? 焦ることはない、内縁部は無尽蔵のサンドボックサーの巣窟じゃ。特に下層部にはエンダーがおる……」

  ◯ イエ ◯

 ーースティブブブ……!? その巨体で天井まで塞ぐ、黒砂のブロックでできた巨人が揺らいだ。

 彼の者はツルハシがごとく一本爪の尖った拳を打ち下ろしていたのだが、

 鋼鉄メイドのガントレットが、指先だけでパリィしてみせたのだ。

 己の膂力をモロに反射された巨人……エンダー・サンドボックサーは体幹を失い、背負い投げられた。

 ーーアレレレレェェェェ! ……彼が粉微塵に砕けると、ウジャウジャと湧いていた黄砂の人形たちも逃げていった。

「はい。というわけで、どんな強大な攻撃にも必ずパリィポイントが存在するんだね。観察・分析・計算……0.0001秒のチャンスの中に1ナノサイズのパリィ点を看破する、これがマリベル式パリィ術だよ。みんなもやってみよう」

「できるかいな! メイデン以外そんなもん!」

「マリーさんもタイヘンですね。こんなところでも通信教育の教材を撮影しないとなんて」

  ◯ ◯ ◯ ◯

「エ、エ、エ、エンダー・サンドボックサーが撃破されましたあ! サンドボックサー部隊統率不能、防衛線維持不能!」

「なに……。いや無駄じゃ、その先は6時間ごとに構造が変わる死の迷路。セキュリティ部門のトップ数人しか知らぬ制御室でも見つけん限り、トラップに陥るのが関の山である」

  ◯ ハルト ◯

「足跡ー? あはー、そりゃあそういうのが見つかるのがいちばんイイけどねー。ボクらみたいな獣人のスカウト(偵察)術ではさーなんていうかー……いわば匂いの足跡を読むんだなー」

 と。どこまでも赤一色で正気を失いそうな迷路の中、ザインは床を舐めそうな勢いで這いずっていた。

 彼が魔力を込めてスカウトしていった床には、ハルトたちにも見える不可視の『匂い』の痕跡が立ち上った。

「どんなモノにも匂いがあってー、一挙一動ごとにそれとわかる痕跡を残すものなんだよー……クンクンクン……クンクン……クンクンクン……あーはいはいー、この人の靴はさっきから左側に重心が偏ってるねー、つまり無意識に次は左へ曲がるって考えててー……ほいさードンピシャー、3つめの制御室だー」

「おつかれさん。ディアデム、そのエラそうなヤツの猿ぐつわ外してやれ」

「……(俺は脅す。おじさん、トラップに突っ込まれたくなければそろそろ素直になったほうがいい)」

 ハルトとディアデムが捕縛中の上級指揮官らしき砂族が「ひいい」、涙目になっていた。

 男子3人が通ってきた通路では、起動前に存在を見抜かれたトラップたちが1つ残らず矢に穿たれていた……。

  ◯ ◯ ◯ ◯

「要塞内のトラップ……無効化されました……全ての制御室が奪われたようです……ぐす……っく……もうダメだあ……」

「ぴえ……お、お、お、落ち着くのじゃ者ども泣くでない……この司令室は先んじて何重もの隔壁で封鎖しておる。β区画のエーテルギア大壁、あの構造式が隔壁を無敵化させているのじゃ。他でもないヤツらが倒してしまったエンダー・サンドボックサーの怪力でやっと動かせる、超特大ギアの集合体……破壊も改変も不可能じゃわい」

  ◯ イエ ◯

「よっこい……しょうちゃん、っと」

 シャルカの魔力で念動浮遊するスコップたちが、超特大エーテルギアに付着することでいっしょに浮遊させていた。

「サイカレーザーァァァァ!」

 スコップたちから放たれた念動レーザーで撃ち飛ばせば、形状を変えて歯車の大壁へフィット。障壁が開いていった……。

  ◯ ◯ ◯ ◯

 誰もがもう絶句していた司令室にて、ダメ押しとばかりに床と天井が同時にぶっ壊された。

 天井からは3人の男子が、床からは3人の女子が突入したのだった……。

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