13-2「友だち:男子編」
◯ ハルト ◯
「オレが担いで逃げなかったら、あいつは今ごろズンドコベロンチョの腹の中だぞ。これのどこが恋バナなんだっ」
「んやー、恋どころか愛に満ちたお話じゃん? ハルトに話をさせたらもれなくイエコさんとイチャついてるなー」
「……(俺は笑う。アツいな)」
窓1つ無く密閉された機内に、外からの夕立じみた打音が響く。
運転席とも鉄板の窓で隔たれ、左右の壁際にシートベルト付きのシートとウェポンハンガーが並んでいる。
そんなカーゴスペースに、ハルトを含めた3人の男子だけが横並びに座っていた。
「じゃあおまえの近況も聞かせてもらおうか、ザイン? オレにだけ喋らせるっていうのは当然ナシだよな」
「はてー、これって真実か挑戦かゲームじゃなかったっけー? じゃあボクは挑戦を選ぼー、尻尾でチョキを表現しますー」
「ごまかすな! このタヌキめ!」
「タヌキじゃなくてキツネの獣人ですしー。バカ言っちゃあいけないよーハルトぉ」
狐耳と尻尾を有するザイン・チーは、魔族のようにコスプレじみてはいるが狐の獣人だ。マント付きの軽装は狩人のそれであり、三つ編みにした緑髪を弄びながらタレ目を楽しげに細めた。
「……(俺は真実を選ぶ。俺が言葉ではなくテレパシーで話しているのは、無口ではなく口下手なだけなのだ)」
「ディアデムぅー? ボクらは普通に知ってるぞーソレー?」
「……(俺は付け加える。この話は、家族か家族同然の友だちにしか話していないことだ)」
「おい急に良い話にするのやめろよ。口下手かよこのショコラ・サイカ」
浅黒い肌と長耳、なにより耳元から生えた黒い双角。ディアデムはショコラ・サイカという魔族である。ベルアーデ帝国軍の士官候補生の制服を着ていて、オールバックにした短い黒髪にも折り目正しさが漂っている。
『坊っちゃん方! こちら作戦本部、悪いんだけどねえこれ以上は耐えられないからなんとかしとくれ!』
ふと、スピーカーがアクティブになったかとおもうと機内に激しい揺れ。3人ともちゃんとシートベルトをしていた……のだが遠隔制御で強制解除され、不自然なほど豪快に床へ転げた。
というのも壁一面を占める出撃ハッチが開き、空気圧の変動によって押し流されたからだ。
ハッチの向こうには、薄雲がかかった青空があった。
「なんとぉぉああああ!?」「うはははー、信頼されてるなー」「……(俺は腹をくくる。では手筈どおりに)」
ザインとディアデムは空へ投げ出されていったし、積載されていたコンテナを掴んだハルトもソレもろともダイブした。
そこは、砂漠のはるか上空だった。
玉っころ型の移動要塞がオアシスめがけて転がっていくのを、ベルアーデ国営の軍事警備会社が阻止しようとしていた。
陸からは輸送装甲車の一団が進撃し、空からも輸送ヘリが強化警備員たちを降下させていた。
強化外骨格に空挺強襲用ブースターを追加し、老兵たちがミサイルじみて突き進んでいく。
(大丈夫、ぜんぜん見劣りなんかしてないしパラシュートだって立派な装備だから……!)
一方のハルトたちときたら、パラシュートバッグだけ背負った一張羅で落ちていく。
移動要塞が撃ちまくる大矢は空まで届いてはこなかった……が、対空迎撃も放たれていた。
ーーアマゾゾゾゾ ーースルガガガガガ
戦闘用のありふれた量産モデルである、剣や槍を装備した飛行ドローンたち。それに、
ーーガキノノノ…… ーーラヘンデラヘンデ
生きている銃とでもいおうか、虫かコウモリめいた生体が銃口の奥に目を宿した使い魔たち。
それらが圧倒的物量に任せて突撃や魔弾で輸送機を攻撃していたため、ハルトたちも脱出を余儀なくされたのだった。
「しかたないっ……在庫一掃だ!」
しがみついていたコンテナのロックをハルトが解除すれば、詰め込まれていたものどもが一気呵成に溢れ出た。
壊れた武器、錆びた武器、訓練用武器だ。
「【ウェポンマスタリー】!」
おそらく両刃斧だったのかもしれないT字の何かを適当にキャッチし、ハルトは血潮がごとき波動を胸から腕へ纏った。
振るえば、目の前に迫っていたドローンを両断……どころか、螺旋に突き進んだ衝撃波が後続たちを数十体から破壊。
「次っ、次っ、次ぃっ、っととと……!? くらえ!」
得物はなんでもいいのだ。ハルトがソレを武器だと認識さえできれば、どうせ一撃で壊れるのだからスクラップでも。触れるに任せてガラクタ武器で異常な破壊力を発揮していき、攻撃してきたドローンをふん捕まえると投擲武器にもしてやった。
30秒もかからずドローンはおおかた殲滅できたが、距離をとる動きをする使い魔たちはまだまだ残っていた。
「……(俺はからかう。シミュレーションより撃破誤差-3.5%、やはりカノジョでないと調子出ないか?)」
ハルトが「うるさいな!」の「う」の字を言いきる前から、黒金の輝きが空に結ばれた。
フェアリーの装備魔法から武器を抜くやいなや身を回し、ディアデムが目にも止まらぬ速さで使い魔へ斬り込んだのだ。
ーー 金剛円匙エスツェット ーー
ブラックダイヤ製のシャベルを武器に。
一見それはジョークのような出で立ちだったが、実際のところ使い魔たちは断末魔をあげる間もなく倒されていった。
斬って、叩いて、突いて、抉って、かっ飛ばして。
「……(俺は苦笑する。俺のベルアーデシャベル戦闘術もまだまだだな)」
シャベルは万能のサバイバル武器である。……少なくともベルアーデではそう提唱され、全兵士の標準装備となっている。
倒した使い魔が浮力を失う前に足場にして、空中を跳びまわっていくディアデムはことごとく疾かった。
「いいよなーおまえらはド派手なワザ持ってて。ボクなんかこれしか能がないもんなー」
と。遠巻きにちらほらと残るばかりとなったドローンと使い魔を、余すことなく無数の光輝がスナイプせしめた。
ーー コンポジットボウ改 ーー
ごく普通の機械化弓で射られた羽根付き矢が、ドローンのコアと使い魔の目へ全て命中したのだ。
弓術の高等テクニックとして知られる『曲射』や『3WAYショット』や『アローレイン』で、1本たりとも外さずに。
「なーんちゃってー。たはー、後詰め担当は動きやすいわー」
狐耳と尾をピンと張り、ザインは獣の目に研ぎ澄まされた輝きを宿していた。
「……(俺は焦る。言っている場合かザイン、まだ大事な仕事が残っている)」
「早く早くっ、もう目の前だぞ!?」
移動要塞がもう眼下に迫ったなかで「あいよー」、ザインは装備魔法から具現化させた最後の矢をつがえた。
それは、ダイナマイトの綴りを軸で束ねただけの凶悪な爆弾矢だった。
ショット……空気摩擦で自動的に着火された導火線の火花……遠くなっていく風切り音……、……そして大爆発。
移動要塞に穿たれた大穴へハルトたちがパラシュートで飛び込んだ一方、地上でも別の大爆発が起こっていた……。




