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10-3「QQ」

 ハルトとイエは、『Qズ・モウ』ダンジョンの最深部である廃棄されたアトリエにたどり着いた。


「噂によると、Qの魅力に取り憑かれた魔術士だか科学者がこのダンジョンを造ったんだとか。傍迷惑な話だな」

「Qの魅力ってなんでしょう?」

「さあ……噂だし。ホントだったとしても狂人のたわごとだろ」


 イエが投げたトラップラップが、毒矢の発射口や魔物呼びアラームの類いを見つけられずに戻ってきた。少なくともソレが感知できるブービートラップの類いは無いらしい。


「これ、研究資料みたいですね」


 と、最初に手がかりを拾ったのはアトリエ仕事に詳しいイエだった。パンチテープが垂れた超旧式コンピューターのそばで、紐で綴じられた紙束が湿気でしわくちゃになっているのを見つけたのだ。


「タイトルは『Qと私』」

「ポエムかよ」

「孤独に研究してる人って、資料がポエムとか日記みたいになりがちですね。私はハルトさんがいるので大丈夫ですけど」

「そういうのいいから。内容は? 具体的には宝物の場所とか」

「んーと。『Qは獲物を丸呑みにし、時間さえかければあらゆるものを吸収できる。成長に成長を重ねた個体は、最強の魔物の一角として数えられるほどだ』」


 イエは斜め読みで速読していく。


「『本能のみに忠実な生態はまさにシンプルイズベスト、艶やかなフォルムも相まってなんとも愛おしい。こんなQたちがおぞましい魔物として恐れられているなんて私には堪えがたいことだ』」

「あ、狂人じゃなくて変態だこいつ」

「『私の使命は、さめ族のようなマスコットマモノ並みの市民権をQへ与えること。そのために弱酸化・環境適応などの進化を促すものである』」

「……進化って。言葉は良いけどな……」


 読めば読むほどこのダンジョンマスターのマッドっぷりが際立ってきたからか、イエは飛ばすページを増やした。

「『このカラダでダンジョンを造るにあたり、心核抑制法を使用。ちょうど休眠期に入る直前だったので、E31血路の封鎖だけで成立した。アキュパンくゅるみゅ」

「何って? 噛んだ?」

「ごめんなさい、今はあんまり関係無いところでした。噛みました。……『さてQ研究のサブプロジェクトとして、リンパQの溶解液にも耐えるアーマーが完成した』」

「おお! それだっ、依頼にあったお宝!」


 イエが研究資料を地図にでもするように歩きだしたので、ハルトも付いていって。彼女は本棚の前で立ち止まった。


「『本棚の上から3段目、右から5番目の防具辞典を10秒以内に4回抜き差しすると隠し場所が現れる』」

「定番だな」


 言われたとおり、ハルトは古すぎて逆に興味がある防具辞典を抜き差しした。

 するとどうだろう。本棚がゴゴゴとせり上がり、隠された最下段が現れた。

 そこに、抱えられるサイズの宝箱が乗っていたのだ。


「やった。じゃあトラップに注意して解錠頼むな」

「あっ。……『侵入者用のトラップが発動するので、事前に別紙の解除手順を行うこと』」


 ハルトが「へっ?」と声を漏らした時には、2人の足下の床が開いていた。


「定番だなーーーー!?」「あうあうあうあう」


 反射的に引っ掴んだ宝箱ごと落ちたイエと、そんな彼女を引っ掴んだまま落ちたハルトと。


「《グライド》(滑空魔法)……!」


 それはスライダーですらない直下型の落とし穴であり、すかさずイエが唱えた滑空魔法によって落下は制御された。

 ハルトもこんな時用のグラップリングフックを真上へ投げつけてはいたのだが、落とし穴のフタはすぐ閉じていた。

 そして2人は、穴の底に軟着陸した。

 あのアトリエよりも格段に広い空洞だった。

 今までのダンジョン内とは様子が異なる。血管じみた有機物が壁中に張られ、岩肌の合間に小さな穴が無数に開いていた。


「……ごめんなさいハルトさん、迂闊でした」

「いいけどさ。良くはない雰囲気だな、ここ」


 ハルトが応銃パラレラムを握り込んだのは、なにも雰囲気だけのせいではなかった。


  ーーセッキュ、セッキュ ーーセキュセキュ ーーアキュセキュ


 岩肌の穴から顔を出すように滲み出た赤血Qたちが、コアの中から装備品やアイテムを空洞へ吐き出していたからだ。

 そして空洞の中央に、何かがペチャッと降ってきた。


 ーーキュウキュキュ……キュイーン


 桃色のハートマークの形をした、人間より一回り大きいのになんだか軽やかでキュートなQだ。


「はあ? QQ?」 ーーキュルキュル 


 ーー QQ ーー

 QQと呼ばれるソレは、心臓に生えた毛のようにか細い触手をシュルシュルと伸ばした。

 ハルトはパラレラムの銃口を向けたが、2人のことを恐れるように最初から向かってはこなかった。

 赤血Qたちが運んできた物資を手繰り寄せ、丸呑みにしただけだ。


 ーーセッキュ ーーハッキュ ーーリン……パキュ


 そうすれば、QQの中からQ族の幼体が次々と産み出されたのだ。

 ーー 別名をクイーンQ。有機・無機を問わず物体を吸収し、Q族を産み出します ーー


 ーーキュビッッッッ


 しかし。フェアリーの解説もそこそこに、QQや幼体たちは押し潰された。

 またも天井から降ってきたからだ。……今度は空洞のほぼ半分を占める巨体が。


 ーーシン、ニュウ、シャァァ……!


 ハートマーク……ではなく生々しい心臓の形に捻れ、無数のコアを内包したQQだ。


「はあ!? こいつもQQなのか!? Q族が人語を話すなんて……!」

「……『新世代のQを誕生させるに辺り、母胎となるQQをまず進化させることにする』……最後のページにこう書いてます」


 宝箱と研究資料を持ったままのイエが、進化QQのてっぺんを指差せば。

 そこには冠を戴くように、アメーバに抱かれた人骨が座していたのだ。

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