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10-2「リンパQ」

 『Qズ・モウ』ダンジョンの探索は続く。


「あっ」「イエぇぇぇぇ!?」

 ーーハッケキュッッ


 天井の隙間から降ってきた白濁のアメーバが、イエを丸呑みにした。

 しかし直後、火の矢でコアを打たれて崩壊した。

 ーー 白血Q ーー


「……けほこほ。どうですかハルトさん、ゼロ距離なら私の《ファイアアロー》もちゃんと当たるのです」

「的外れなこと言ってんじゃない! 白血Qは洗い流さないと骨まで溶けるぞっ、ほら目を閉じろどこが痛い……!?」


 慌てて手で拭おうとしたハルトだったが、白血Qまみれのイエが平然と手で制した。


「落ち着いてください。耐腐食のエンチャントはしたじゃないですか、どこも痛くないですよ」


 ハルトが「あ……」と思い出したとおり、イエはローブや桜髪まで淡く発光していて。白濁は何も侵していなかった。


「でも、ありがとうございます。心配してくれたんですね」

「……いや、まあ、そりゃ当然だろ」

「黙ってたら私、ハルトさんに脱がされちゃうところでした」

「おまえなあっっ……なああああなんで脱いでるんだあ!?」


 イエは「え?」、ローブを脱いで襦袢姿になっていた。


「溶けないっていっても、このまま進むわけにはいかないじゃないですか。洗い流すので周りを見ててくださいね」

「ぐ、むっ……言われなくても見てるよ! 周りを!」


 床へ広げたローブの大袖から洗浄機のノズルを引き出し、火と水のエーテルで装備と自分自身を洗ったイエだった。

 そんなこんなで、フェアリー《マップ》の最奥近くまで2人は踏破していったのだが……。


 ーーリィィィン……パキュ……パ、キュウゥゥ……


 立ちはだかったのは、紫色の巨大Qが通路のずっと奥までみっちり詰まった光景だった。


「リンパQ……。この先に最深部があるのは観測済みらしいですけど、まだ誰も突破できてないみたいです」

「だろうなあ……他に道は無いし。フェアリー、【マモネイター】」


 ーー 【マモネイター】(魔物検索) ーー

 ーー リンパQ ーー

 ーー 膨大な質量で通路をふさぎます。自分から攻撃はしませんが、触れたものを種族随一の溶解液で分解します ーー

 ーー 注意! 耐腐食エンチャントなどの対策も無効化します ーー


「ふむふむ。見える場所にコアは無さそうですけど……」


 ーー 多くの場合、リンパQのコアは通したくない奥側に偏っています。迂回や狙撃で破壊しましょう ーー


「いや、一本道だし洞窟の中だから狙撃もムズいって」


 ーー コアの破壊が困難な場合は、回復薬などをガブ飲みしながら強行突破しましょう ーー


 「無茶言うなあ」と脱力したハルトの目前を、リンパQから突き抜けてきた一団が通過した。


「だから強行突破は無理だってー!」「うるせぇ! リズム崩すからだ!」「オレの腕がぁ!」「義手でしょ!」


 ……エンチャントの輝きを不安定に明滅させながら、服も髪も溶けた半裸集団がドタバタと逃げていったのだった。


「……うおう。ビ、ビックリした」

「それじゃあ私たちも強行突破しましょうか、ハルトさん。【ジェネリックウェポン】」

「えええ、今の見てよく言えるな」


 魔力で形作られた様々なレプリカ武器が、後光がごとくイエに纏われた。


「……? 私はサポート万全ですし、ハルトさんを信じています。他に何か必要なことがありますか?」

「……ったく。真顔でよく言えるな」


 まっすぐすぎるカノジョの眼差しへ応え、ハンドサインを送ったハルトは武器を渡された。


「いくぞ!」「はいです」


 その武器を……スピアを握れば、血潮がごとき波動が心臓から両手へかけて纏われた。

 直後、ハルトはリンパQへ槍先を突き込んだ。

 弾性が高すぎるゼリーな巨壁に対して、斬撃よりマシではあるものの刺突がどれだけ効くものか。

 だが、それはあくまでも一般論。


 ーーリパキュ、ッ……!?


 【ウェポンマスタリー】を発動したハルトのスピアは、強大な衝撃波を伴ってリンパQを十数メートルほど陥没させた。

 通路にみっちり詰まっているだけに、一撃で武器を壊してしまう異常な破壊力は少しのロスも無く突き込まれたのだ。


「オレのそばから離れるなよ、イエ!」

「キュンです」

「そ、そういうのじゃないからマジメにやれ!」

「リズムを崩さないでください、ハルトさん」


 陥没したリンパQの中へ進撃、壊れたスピアの代わりをイエから受け取り、刺突。それを繰り返す。

 形を戻そうとするリンパQは2人のすぐ背後や真上から溶解液ボディを迫らせてきたため、立ち止まることは許されず。後戻りなんてもってのほかだった。


「分かれ道分かれ道!」

「左に曲がってください、その次の三叉路は直進で」


 長い道のりだった。イエは必要に応じてフェアリー《マップ》を確認していたし、溶解液が天井から垂れてきた時には大袖から取り出したビニール傘を一瞬の盾代わりに使い捨てていた。


「きました。そこの角を曲がったら目的地です……あ、5時方向にコアですハルトさん」

「オッ……ケイ!」


 そして最後にイエを抱き寄せて、リンパQの最奥から飛び出たハルトは。ハンドサインとともに手渡してもらった別種の槍……投げ特化のジャベリン槍を、通路の死角に隠れていたコアへ打ち込んだのだった。


 ーーリッッッッ……キュババババババババァ……!


 コアの破壊とともに崩壊していったリンパQを見届け、ハルトとイエは息を整えた……。


「おつかれ。……さてと、ここが最深部みたいだな」


 改めて終着点へ振り向けば。

 通路の先には、廃棄されて久しい様子のアトリエがあったのだった。

 Qのコア標本や研究資料がズラリと並ぶ、このダンジョンにふさわしい最深部だった。

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