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4-2「ぎゅ~ほ~」

 姿を覆っていた発光が収まり、その魔物は露わになる。


 ーーハヤ! ウマ! ヤス~~!


 牛の角が生えた、人間大の大きさの飛行どんぶりである。

 ーー 【マモネイター】(魔物検索) ーー

 ーー ぎゅ~ほ~ ーー


「イエ! できれば捕獲で済ますぞ、よろしく!」

「はいです、手筈どおりに……あっ」


 大袖に手を突っ込んだイエが見上げた先、

 墜落目前だったぎゅ~ほ~がメチャクチャな飛びかたながら持ち直した。


 ーーウゥゥゥッマッ!


 どんぶり底の円状の出っ張り……正式名称は『糸底』や『高台』と呼ばれる部分が、光とともに開いた。

 そこから、牛が発射された。

 ーー 【ディスアブダクト】 ーー


「ハッッ……! ハルトさんっ、ディチュアバ……ヂチュラ……ディスなんとかです!」

「言わなくていいから避けろおお!」

「ああああ」

「イエぇぇぇぇ!?」


 牛……正確には牛型のエーテルがイエに命中し、いやにリアルに爆散した。


「ハ~~~~ル~~~~ト~~~~さ~~~~ん~~~~」

「言わんこっちゃない!」


 イエはスロウになった。


 ーーハヤヤヤヤ! ウマウマ、ウマウマウママ


 するとどうだろう。爆散した牛の一部がぎゅ~ほ~に還ると、エーテルを噴いていた破損部分がわずかに修復された。

 ーー ぎゅ~ほ~は、生物の『速度』を糧とする魔物です。牛型エーテルで爆撃する【ディスアブダクト】で、対象をスロウの状態異常に陥らせます ーー


「スロウ治しスロウ治し!」

「ま~~~~っ~~~~て~~~~く~~~~だ~~~~さ~~~~い~~~~」

「待ちきれるかあ!」

 ーーハウヤッハウヤァ!


 信じられない遅さでイエが大袖をまさぐっているうちに、ぎゅ~ほ~がハルトへ爆撃してきたから走り回って避ける。

 ようやく最弱乙女がスロウ治しの小瓶を掴んだのを見ると。彼女の前へ滑り込んで、マネキンのポーズでも変えるように口元へ手を運んでやった。

 すかさず振り向くとスナイパーライフル・パラレラムをぎゅ~ほ~へ向け、発射。


「うあっと!」 ーーヤスゥゥゥゥ


 固定無しの無茶な早撃ちのため、凄まじい反動。即興でスコープを覗いてはいたが、大して惜しくもなく避けられた。


「まあそりゃそうだっ、アサルトライフルみたいにはいかない……!」

「ご…………ご~~~~ほ~~~~っ~~~~ご~~~~ほ~~~~っ~~~~」

「おまえもスロウでムセるなよ!?」


 スナイパーライフル・パラレラムはギアをけたたましく回して魔力をリロード中だし、あの若衆に注意しておいて自分が喉を詰まらせているイエだし。ハルトはハンドガンモードへ応銃を変形解除させながら、牛爆撃を避けて前へと転がり込んだ。

 すると、踏み固められたミステリーサークルの中に活路を見出だした。

 麦の隙間から、湾曲した長い柄がはみ出ているのを発見したのだ。


(これって? ……いっちょやってみるか!)


 ハルトはそれを引っ掴み、ダッシュの勢いを乗せたままに翻った。


「【ウェポンマスタリー】!」


 胸から両腕へ、血潮がごとき波動を纏わせて。


「ぷはっ……ハ、ハルトさんっ? 麦畑が無くなっちゃいます……!」

「だいっじょうぶっっ……! たぶん!」


 やっとスロウが治ったイエにたしなめられるまでもなく、ハルトもこの異能は使わないつもりだったのだけれども。

 引っ掴んだ武器が武器だったので、ぎゅ~ほ~めがけておもいっきり投げてみせたのだ。

 ソレは。あの若衆が落としていったのかもしれない、作物収穫用の大鎌だった。

 波動を纏いながら円盤よろしく大回転していき、弧を描く軌道にて飛行どんぶりへ。


 ーーヤスウマァ~ッ


 ぎゅ~ほ~はあっさりと回避してみせ、大鎌は夜空へ。カウンターとばかりに牛エーテルが放たれた。


「ちぇっ……!」「ハルトさん……!?」


 全力投擲から数瞬の硬直が生まれていたハルトは。……突き飛ばそうとしてきたイエを抱き寄せ、揃って倒れ込んだ。


「ブーメランって知ってるか!?」

 ーーハヤ……? ハウヤッッッッ


 かの魔物にそれだけの知能があるかはわからないが、少なくともハルトのほうが上手だったようだ。

 夜空をブーメランよろしく帰ってきた大鎌が、ぎゅ~ほ~を両断したのだから。

 それでもなお収穫の刃は突き進んだ。命中間近だった牛エーテルをも切り捨て、ハルトとイエの頭上を通過して……。

 2人が通ってきた林道へ、1本の木にぶつかってやっと破壊された。

 そして、一瞬遅れた衝撃波が見渡す限り向こうまで林道を刈り取ったのだった。

 無茶苦茶に倒れていった木々の轟音、それに夜空へ舞い上がっていった野草の大嵐が2人を唖然とさせた……。


 ーーハ……ウ……ヤァ…………


 陶器が割れた音の墜落へ向けば。どんぶりの中身が……大量の煮込み牛肉が散ったぎゅ~ほ~の残骸があったのだった。


「……ハルトさん。牛丼にして食費浮かせるつもりだったのに、これじゃ食べられないです」

「上の方だけなんとか……って、ツッコミどころはそこなのか? 麦畑は守れたけどあの林道はどう説明しよう……」


  ◯ ◯ ◯ ◯


「林道? んあーいいよ、何したか知らねえけど見通し悪かったし! それよか嬢ちゃんが作った肉団子ウマいなあ!」


 翌朝。農村で開かれた宴にて、凱旋を喜ばれた青年と乙女はただただ愛想笑いを振り撒いていたのだった……。

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