序章:伝説は語る
〚巨大樹〛
今ではヴァスハラとして知られる、世界最大にして、最強の国家〘ヴァルセボ帝国〙の中央にある大樹海の中に、圧倒的な存在感でそびえ立っているそれはとても大きな樹である。
その樹は、昔から神の降り立つ場所として崇められ、また、時代によっては畏怖の対象となっていた。
時は遡ること約260年前。この巨大樹の内部に、遺跡群が広がっていることが判明した。見つかると同時に、多くの調査隊が派遣された。だが、ほとんどの者が戻って来なかった。
帝国は、このことに危機感を覚え、とあるお触れを出した。
その内容は、調査に出たっきり戻って来ない者達の生存確認。そして、この巨大樹の謎を解き明かすための冒険者を集める。というものだ。
当然、そのお触れを耳にし、巨大樹に集った冒険者は大勢いた。しかし、今までに多くの功績を挙げてきた冒険者たちでさえ、巨大樹の探索に困難を極めた。
そして、わずか5年程で、冒険者で溢れかえっていた巨大樹の周りも、そのときに発展した街を残したまま、忘れ去られようとしていた。
だが、この巨大樹に挑み、わずか一年余りで全ての謎を解き明かし、大陸全土を驚かせた、伝説のパーティがいた。
『名の無い日記』
ヴァスハラ郊外で発見された、遺跡にある家の地下に保存されていた日記。
内容は、大きく分けて三つの章に別れている。
第一章は痛みや損傷が激しく、解読も困難を極めている。
第二章は、先程話した巨大樹についての事。
第三章は、現在は解読途中で、内容はハッキリとわかっていない。
この日記は、歴史研究家達の間で、その伝説のパーティのリーダーと思われしき人物が、冒険の中で書き記したと推測をしている。
その理由として、この日記には、その巨大樹という遺跡についての内部の情報、出来事、突破法等の、世間一般ではほとんど知られていなかったりすることや、最新の研究で、新たに発見されたことなどが、今よりも詳しく書かれている。
そして何より、伝説のパーティについて、多くの情報も記されていること。もちろんそのパーティの名も何度も登場している。
その日記は、現在も研究が進められている。
今、あなたが手にしているこの本。
この本は、その、『名の無い日記』に記されていた巨大樹を舞台に冒険を行ったとされ、この本の第二章にあたる、『天目指し冒険』を解読、小説化したものだ。