五十デバフ
更新です。
次回の更新は10日か11日になります。
魔王は萩原の封印指定魔法を放つタイミングを今かと伺いつつ、獣魔を虐殺していた。
しかし、肝心の魔法は幾ら待っても発動されなかった。
◆萩原結衣side◇
「結衣さん! 魔法を撃たなくていいんですか!?」
天野美幸が更科に言われた事を気にしてか、萩原を急かす。
だが魔法を撃たないのには、萩原も考えがあっての行動だった。
「……これは撃たないわ。もしも、この地獄が凍る地獄まで消されたら、次はもう魔法詠唱すら出来なくなる」
天野にだけ聞こえる程度の声量で語ると、天野もそれに合わせて会話する。
「彼女は"選択肢を強いる"って言ってたでしょ? だったらコレは撃たない……撃っちゃいけない」
(撃てば消される。そして私は、次に魔法を撃つことも出来なくなる……そうなったら、後は魔王が彼女を一直線に狙いに行く。だから、これは"撃たない"が正解な筈よ)
この考えは的中していた。
現在の魔王は地獄が凍る地獄を警戒し、呪文破壊を待機させているが、何時撃たれるか分からない為、待機状態を解く訳にもいかない状態だった。
「美幸ちゃんはの方はどう? 拓哉君を治せそう?」
「……それが神聖術が発動出来なくて、拓哉さんを起こせません」
「そう……正直、私もかなり限界なのよね」
封印指定魔法を二発分。本来ならとっくに魔力枯渇症を起こしてもおかしくないのだが、一発目が不発だったからなのか、消耗は激しいものの"何とか"二発目が撃てる状態で踏みとどまってる萩原は、何時倒れても不思議じゃなかった。
(ココが踏ん張り所ね……)
萩原は朦朧とする中、自身を奮い立たせて必死に意識を繋ぎ止めていた。
◆天野美幸side◇
私は必死に神域領域に干渉するが、応答が一切無かった。
(つまり、神域領域に干渉出来ないのは魔王が最初に放った魔法、寄り添う位相による物……。こちらから干渉するには一体どうしたら……)
狼狽する私に、大神が持つ二振りの剣、エクスカリバーとバルムンクが目に入る。
(もしかしたら……!)
私は一つの可能性を信じて二振りの剣の柄を握る。
バチイッ!
電気が走る様に剣からは拒絶される。
(当然ですよね……誰でも握れたら拓哉さんの能力の意味を疑いますね。だけど、お陰でこの剣はまだ神域領域と繋がってる可能性が有りそうです)
剣がまだ大神以外を拒絶すると言う機能が有る事は、剣の先に小さな神域領域の穴があると言う暴論に至り、この暴論に縋る天野だった。
そして、
バチチチチッ!?
バチィッ!?
拒絶されつつも剣の柄を握り、必死に神域領域への扉をノックする。
(ッツ!?──萩原さんも更科さんも必死に戦ってるんです! 私も此処で頑張らなきゃ皆さんに顔向け出来ません!)
痛みに耐えながら尚も神域領域に干渉し続ける。
バチッ!
バチイッ!
バチチチチ!
・
・
・
どれだけの時間が経過しただろうか? 天野は痛みから時間の感覚を喪失しつつあった。
実際にはそれ程時間は経っていないのだが、天野にしてみたら果てしなく長い時間の様に感じる。
バリィ!
パリン!
バチチチィ!
拒絶される音が痛みとなって襲う中、折れかける気持ちの中で、何かが割れる音が混ざった気がした。
(!? や、やった? 結界に穴が開いたの?)
それを証明するかの様に天野は神聖術で大神を癒し始める。
本来、魔王が生み出した魔法、寄り添う位相は簡単に壊せる代物では無い。
なら何故こんな結果になったかと言うと、大神の剣、バルムンクの特性であった。
万物を断つ刃バルムンク──これはそのままの意味であり、寄り添う位相と言う結界を断っただけの事だった。
もし、これが他の剣だったのなら? 天野が取った行動は全て無意味に終わった事だろう。
神聖術が使える様になって大いに喜ぶ天野。だが、本当に喜んでいるのは外野である観戦者達だった。
◆アト&ラスside◇
結界に穴が開いた為、やっとゲーム観戦出来る事に僕達は喜んだ。
「やっと見える様になったねアト」
「そうなの? 良いな! こっちは近くに魔族が居ないから分かんない」
ぶぅ〜と頬を膨らませて僕に愚痴るアト。そんなアトに、今の状況を二人で見届けたい僕は、
「ハイハイ、さっきもそれ聞いたよ〜。それじゃ特別に僕の視点を見せてあげるよ」
「ホントッ!? ありがとうラス!」
「いいよ、気にしないで。それに今、物凄く面白い状況みたいだし……一人で愉しむのは気持ち的に憚られるよ」
二人の神は楽しそうに嗤う。
その嗤いは無垢で無邪気な様に見えるが、見る者が見ればとても邪悪に見えた事だろう。
◆魔王サラサside◇
更科との戦闘に焦燥感を募らせていると、更なる不運が魔王を襲う。
(結界が壊された!? そんな莫迦な事があってたまるか! ──す、直ぐに結界を張り直さないと……)
そんな思考が頭を過ぎるが、
(ダ、ダメだ、何でか分からないが、放たれない封印指定魔法が有る以上、呪文破壊は何時でも発動出来る様にしておかねば……)
焦りが魔王の動きを段々と雑にさせる。
「隙あり!」
「ッツ!? 舐めるな!」
またも脚が影に呑まれかけるが直ぐにまた距離を取る。
動きが雑になり始めてからは更科に近づく事も難しくなっていた。
「アンタは何をそんなに焦ってるの? さっき迄の余裕はどうしたのかしら?」
更科が煽る様に魔王を口撃する。
「……黙れ! 何を言おうが、お前の防波堤である獣魔も、もう残り少ないんだ。死までのカウントダウンを刻むお前が、我を煽るつもりか?!」
魔王の言う通り、更科の獣魔はもう五百も居ない。このまま続ければ、直ぐに獣魔が全滅し、そのまま更科も殺される事だろう。
「煽る? 本当の事を言ってるだけよ。私如きに手こずる様じゃ、アンタの目的である神殺しなんて夢のまた夢よ」
結界外で魔王の目的が喋られる。
「……お前! 何をい──」
(ふーん。魔王ちゃん、そんな事考えてたの? 残念だなぁ〜! 貴方はお気に入りだったのに……)
自分の言葉を遮るかの様に、女のそんな声が聞こえた気がした。
魔王にはその声が、神の声なのだと妙に確信めいていた。
「嗚呼ぁぁぁぁぁぁ! もう、こうなったら手段は選んでられない! 全部お前が! お前達が悪いんだ!!!」
我は──私はもう形振り構っていられなかった。
神に間違い無く聞かれただろう。さっきの声は、もしかしたら私の幻聴なのかもしれない……だが、確実に私には聞こえた。
私の策が対策されるかもしれない。
それならまだ良い、新しい策を考えれば良いだけの事だから……、だけど一番最悪なのはこの世界を捨て、全てをリセットされる事だ!
なら、まだ、まだ間に合う内に天野か大神を扉として使い、早々に神に挑む。此れが今の私に取れる最善。
だからこそ、
「邪魔をするなぁぁぁぁぁ!!!」
獣魔が鬱陶しく私に群がるが、もうそんな事を気にしてる余裕は無い。だから、更科と獣魔は一旦放置する。
そして狙うは、領域持ちの天野と大神だったが、起きてる天野は抵抗されると面倒な為、直ぐに殺し、扉として使うのは大神とする事にした。
即座にそう判断すると、速攻で天野との距離を詰める。
「えっ?!」
「死ね!」
天野の首を手刀で切り落とし、返す刀で萩原を縦に裂く。
二人は魔王に全く反応出来ず、断末魔すら上げる間もなく絶命する事となった。
それは、全てが刹那的な出来事。
(大神を扉として使う為にはもう一人、邪魔者を殺さねば!)
私は、殺すと誓った因縁の女に意識を向け、自身を追い詰めた事による敬意と、自身を貶めた事による侮蔑を籠めて奈落に沈む希望の詠唱を始める。
何時も見て頂きありがとうございます!
後、数話で二章も終わりとなります。
二章終了後、全話修正、加筆(魔法詠唱や描写不足など)させて頂きますので、三章は少しだけお時間頂きます。m(_ _)m




