七デバフ
更新です。
エビルスネークを使役した翔達は混乱を避けるべく、ギルドには「居ませんでした」と報告する。
後日、別口で捜索隊が結成されたとの事だったが、翔達には声が掛けられないまま時が過ぎた。
結果として、突如消えたエビルスネークの捜索は打ち切られ、強制依頼も解除されたのだった。
・
強制依頼は消えたものの、近くの狩場にエビルスネークが潜んでいる可能性がある。──ギルドはそう判断を下した為、俺達もそれに従い、外での狩りは控える事にした。
結果、俺達は異世界浪漫であるダンジョンに来ている。
「これだよな! 異世界って言ったらダンジョンがあってこそだ」
召喚された直後、訓練と言うなのお試しダンジョンに来たが、あの時のは正直お散歩みたいな物だったしな。
まぁ、大半がイケメンの為の舞台だったしな。
「あんた、テンション高いわね」
「ロリよ……異世界と言ったらダンジョンなんだぞ? お前にはこの浪漫が分からないのか……」
昨日までの冒険(笑)は只の討伐!
今日のは浪漫溢れる冒険だ!
ダンジョン内では宝箱ドリームや閉鎖空間によるパーティー内での恋の芽生え。
胸キュンイベントが有るのは定番だって言いたい所だが……まぁ、此れは無いな。
何故ならロリとファリス相手に、俺がその気にならなれないからだ。
「ファイヤボール!!!」
「ファリス、援護するわ! 直ぐに次の詠唱に入って」
「分かりました!」
まぁ、確かにファリスは可愛いし、意外と頼りになったり、色々と仕事もやってくれる。
ちょこちょこドジって「はわわ!」とか言ってるが、これも愛嬌だ。
そんな姿も確かに可愛い。
しかし、それは妹的存在であって微笑ましいとしか思えないのだ。──つまり、俺はお兄ちゃんとしてファリスを見ている。
そして、ロリに関してだが……彼女は成人しているとは言え、手を出して良いのか戸惑うレベルだ。
何より、俺はロリ属性が無いので少しも食指が働かん。
「そうだよな、ロリ!」
「何の話しよ……ってか仕事しろ」
ダンジョンのモンスターを獣魔に攻撃させながらも俺の問いかけにちゃんと反応してくれるし、悪い奴等では絶対無い。
……でもね、ファリスやロリの戦ってる姿を見ると本当にトゥンク! とはならんのよ。
「こんな惨状だしな……」
俺が改めて辺りを見回すと、獣魔とファリスの魔法によってグロ注意! な光景が量産されてるのだ。
「これを見てトゥンクとか無いわ」
別の意味でトゥンクだがな。
さて、話は変わるが先日捕まえたエビルスネークのエスク君はサイズがデカ過ぎた為、目立つし邪魔だろって事、元々強制依頼を出される程の事をやらかしていたので、ほとぼりが冷める迄は影の中でベンチ要員決定となった。
本来なら捕まえる前からそんな事は分かってただろ? って思うが……あの時の俺達はテンションが上がってたから全く気付けなかった。
「それにしても、俺達の中で一番強いのってロリだよな」
「何よ唐突に……。まぁ、弱くは無いと思うけど翔のがヤバいわよ」
「はい、私もそう思います!」
二人はそう言ってくれるが、正直微妙な気持ちだ。
「そう言ってくれるのは嬉しいがな……」
「自信無さげね?」
「そりゃ、自分の弱点を知ってるからな」
因みに、俺の弱点は既に発生した攻撃。
──例えば、発射された弓矢や発動した魔法は普通の速度で飛んでくる。
確かに先手取って感覚崩壊を使えば大抵はどうにかなるのだがな。
そもそも俺の感覚崩壊は対象を認識していないと発動出来ない。
つまり、ハーレムパーティの幸薄OLとか、イケメンの様なハイスペックキャラ相手だと、そもそも視認すらさせて貰えない相手には通用しないと思っている。
まぁ、俺以外の勇者もそれぞれ弱点を抱えてるだろうし、そんな事を考えてもしょうがないな。
・
そうこうしている間にも、ロリとファリスが敵を壊滅させていた。
「うし、俺達のパーティーは敵と戦う事に関しては、全然問題ないな」
「ですね!」
「ちゃんとした前衛が居ない位よね、私達」
「そうだな。俺はデバフ要員で、ロリも後方からの援護、ファリスは遠距離火力要員だし……ロリの獣魔が居なかったら偏った構成だよな」
俺の言葉に二人は同意する様に頷く。
「次は入れるとしたら前衛ね」
「そうだな、そして可愛い子が良い」
俺は自分に正直だ。
「……ここに可愛い所が二人居ても不満な訳?」
ロリの言葉に「そうですよ!」と同意するファリス。
「スマンなロリッ娘と妹属性は俺には無いんだ。だが二人共、数年後には期待だな」
「何年経とうともアンタとは付き合わないわよ」
「えっと、私は別に……」
ファリスは何かゴニョゴニョと分からん事を言ってるので放置しておく。
「まぁ、次に行くべ」
そんな下らない事を話しつつも、俺達はダンジョン攻略を進めていく。
・
──俺は橘晴彦。
前はパーティーを組んでいたのだが、何時もの筋トレをしてる間にメンバーが誰も居なくなった。
正直何を言ってるのか自分でも分からない。
最初は嫌われてるのか? とも思ったが、そう言う訳では無かったらしい。
どうしてそう言う訳では無かったかと言うと、メンバーの直人君と康介君が病院で治療中の状態だと判明したからだ。
こんな事になった理由を聞いてみると、直人君が泣きながら更科が拐われた事を俺に教えてくれた。
──つまり、仲間の更科が拐われた為、二人は助けに行ったとの事。
俺が嫌われてるとかは断じて無かった事に安堵はした。──しかし、無能能力者のあの男の所為で康介君が死の淵に居る事も聞かされた。
その話しを聞いた時、自分がやるべき事次が決まった。
仲間である更科を取り返し、あの無能には康介君に行った罪を償わせてやると心に誓ったのだ。
「あの男……許せん! 更科が自分の好みだから拐った等、男の風上にも置けん!」
俺は動けない二人を医者に任せ、夕凪を探す為に情報を収集する事にした。
「夕凪ィィィィィィィィ!!!」
──その日から街では汗臭い男が一人の男を探し、爆走している姿が目撃されたのだった。
しかし、爆走して行く方向は何時も男が居る方向とは全くの逆方向なのであった。
・
現在、俺達は無事に9階層まで降りて来ていた。
「ふぅ〜」
流石に此処まで来ると、ロリの獣魔とファリスの魔法だけではキツくなってきた為、俺も積極的にデバフを掛けていく。
「やっぱり、そのデバフ狡いわね……掛けられたら勝てる気がしないと思う」
「私もそう思います!」
「せやろ?」
もっと褒めてくれ! 弱点があるとはいえ、能力の特性に気付くまでは本当に辛かったんだ。
「ありがとな、明らかな格上相手の居る所でしか、今は役に立たないからな」
お前等がデバフ掛ける前に滅殺するからな!
「でも思ったんだけど、その能力って感覚が有るのか無いのか分からない相手には効くの? 例えばゴーレムとか?」
ロリの言葉に少しだけ動揺する。
「い……今迄そんな敵と戦った事無いからワガンネ」
俺は動揺し訛った。
「まぁ、敵意とかそう言うのを持つ相手なら全部掛かるんじゃね? 意って言うのも一つの感覚だと俺は思ってるしな!」
「そう……」
今の説明ではロリは納得してない様だ。
まぁ、俺も実際に試してる訳じゃないから、これ以上の事も言えないから勘弁してくれ。
「到着ね」
「そうですね!」
「そう言えば次はダンジョンボスが湧くのよね?」
「はい、次はボス階層ですね! ボスは10階、20階と10階層毎に出現するらしいです」
ロリの言葉にファリスが反応してくれる。
「ファリスは色々知ってるな」
この子に聞けば何でも答えてくれる。
まるで図書館にいる司書さんみたいでカッコいい!
惜しむらくは司書さんの代名詞であるメガネを掛けてない事だがな。
「何が出るのか分かるか?」
「分かりません!」
……まぁ、流石に何でも知ってる訳では無いか。
「まぁ、入ってみれば分かるでしょ」
ロリよそんな不用心でいいのか?
「慎重にっ行こう。──ってもう入ったし……」
もっと用心しろよな……。
先に入ったロリを追いかける為、俺とファリスも慌ててロリの元へと向かった。
・
ロリに追い付いた俺とファリス。
「マジかよ……」
10階層に着いた俺達。
そこには大きなゴーレムが中央部に鎮座していた。
そんな気はしてたよ……俺の本当の能力はフラグを引き寄せる力(自称)だからな!
「これがフラグって奴なのかしら?」
「凄いですね……」
「俺を一々見るな」
ロリとファリスも顔を引き攣らせながら俺を見やる。
そもそもフラグと言うのなら、この場合ロリがゴーレムの話しをしたからじゃないのか?
俺の所為にしては駄目だと思うんじゃが?
「どうしよう? まだゴーレムはあそこから動くつもりはないようだけど……」
「ま、まぁ、大丈夫だろ。感覚崩壊熱が効かなかったら、さっさとエスク君出せば良いだろ」
「そうね……此処なら味方撃ちを気にしなくても良さそうね」
「そうですね!」
少しだけ不安もあるが、全員納得した様だ。
「それじゃ、いつも通りやってみる。少し待ってな!」
行くぜ、俺の最弱を喰らいやがれ!
センスコラプス!×100。
これだけ掛ければ下限いっただろ。
「よし、一応掛けてみたけど、今回は掛かってるか分かんないし、慎重に行くぞ! ロリよ今度こそ慎重に行けよ?」
これはフリじゃないからな?
「……分かってるわよ」
「それじゃ行くぞ!」
「はい!」
そう言って俺達は武器を構えた。
「それじゃ、ファリス! 全力でアイツに魔法を打ち込めるだけ撃て」
「任せて下さい!」
いつも通り良い返事。
そして、今回は本当にその返事が頼もしい!
「それでは、行きます!! ──炎とは生物の根源に灯される心の火、其れを扱うは生物の道理、ならば我等は道理となろう……ファイヤーボール!!」
詠唱を唱え、高速で大量の魔法を飛ばしていくファリス。
「おぉ、良いぞ。俺の感覚崩壊が効いてるかは全く分かんないが……敵はファリスの魔法弾幕で全く動けてない!」
「はい、まだまだ行きます!」
おぉ、凄い。更に魔法の威力と速度が増して行く! てか……ファリスは何でこんなに強いの? ゴーレムさんが一方的に崩れかけてますやん。
「私達必要だった?」
「俺の感覚崩壊も必要だった?」
あぁ〜、ゴーレムが完全に崩れたわ。
──ってかこのボス弱くないか?
そして、俺の感覚崩壊が最後まで掛かっていたのか終ぞ分からんかった。
・
我が領域に人間が来た。我はナルゥ大迷宮10階層守護者、ブラムゴーレム! 我の使命はこの領域を護る事。
何故、此処を護るのかは我自身も理由が分からぬ。
──だが、頭に響く声、上位の存在から護れと司令を受けた以上は我はこの命令を遂行する。
侵入してきた人間の一人が何かをやっている様だが、私には無意味だ。
このブラム鉱石で作られた我が身体は刃を弾く!
故に我を倒せる者のみが、この先にある宝を手にする資格を得るのだ。
「それでは、行きます!! ──炎とは生物の根源に灯される心の火、其れを扱うは生物の道理、ならば我等は道理となろう……」
どうやら人間の準備も終わった様だ。
──では始めよう!
「ファイヤーボール!!」
爆音と共に、我へと火球が向かって来た。
「っ!?」
何だ、この魔法は……!
なんという魔法の威力!
練られてる魔力が桁違い……ウグゥ、魔法の弾幕で動けぬ。
無限に続くかと思われる程に、巨大火球が我の身体を灼く。
何故、この女はここ迄の強さがあるのだ。
我の身体が崩れ始める。
此処を護れないのか……命令を遂行出来ず申し訳ありません。
意思が無い筈のブラムゴーレムは無念と共に、その身を完全に崩壊させた。
・
「やりました翔さん! 更科さん!」
普通に終わったわ。
ファリスちゃんって中級を全部使えるだけって言ってなかった?
あぁ、後は魔法使っても魔力が尽きた事無いとか言ってたな……それにしても強ない?
「ファリス、これは一体どう言う事?」
「何がですか〜?」
「そうね、いつも思うけど貴方の攻撃火力が桁違いな気がするわ」
「そうなんですか?」
「四属性使う勇者も、これ位の事は出来るのかしら?」
「いや、分からんが……勇者だし出来るだろ」
四属性掌握って位だし、出来るとは思う。
それにしても、勇者じゃないファリスにここ迄の強さを見せつけられるとか……これも才能って奴なのだろう。
「どうでしょう? 私は他の人の魔法を余り見た事が無いので、自分の魔法基準が分からないです!」
「成る程な……まぁ、俺も見たことないから分からん」
「私もロリコン2の闇魔法しか見てないけど……あれは地味な魔法だったからね」
つまりは、誰もちゃんと見た事無いって事だ。
それじゃ考えてもしょうがないって事だし……考えるのヤメッ!
「まぁ、今考えてもしょうがなさそうだし、先に進むべ」
「そうね」
「はぁい!」
そうして、俺たちは下の階層へと降りて行く。
・
──私はリリーナ・フォン・ローゼンボルク。
私を知る者は聖女、又は剣の聖女と呼びます。
あの召喚の儀が終わり、それぞれの勇者が旅立ってから暫く経ちました。
勿論、情報収集の為、一部の勇者達には密偵を潜ませております。
そして今し方、密偵達から上がって来た報告を聞く限り、残ってるパーティーが大神拓哉さん達しかありませんでした。
「エビルスネークの件と言い、魔王……やはり侮れませんね」
今の劣勢な状況に、私は歯噛みする事しか出来なかった。
「──そう言えば」
確か、この後は私の忠臣であるロビンソンが、勇者パーティーの事で追加の報告が有ると言っていましたね。
コンコン。
早速来た様です。
「入って下さい」
「失礼します」
入室の許可をすると、聞き慣れた声、ロビンソンが入って来た。
「ご苦労様です。早速報告を聞いても良いですか?」
「ハッ! 御説明させて頂きます」
報告書を渡され、細かい説明を受けると、夕凪翔さんのパーティーと壊滅したチームの生き残りである更科美香さんが合流したようです。
夕凪さんは召喚の儀の中で、一番親しみが持てる不思議な方でした。
面白い言葉使いでしたので、私も時々真似させてもらってます。
「成る程、分かりました。──夕凪さんと更科さんの二人が合流後、何をしているのですか?」
「ハッ! それが、現在はダンジョンに潜っております」
えっ? 何で二人でいきなりダンジョンに行ってるのですか。
「幾ら勇者様でも、ダンジョンを攻略するには人数が足らないのでは……」
「それが、報告によると凄腕の魔法使いが一緒にパーティーを組んでる様です」
凄腕の魔法使い? 勇者パーティーと一緒に戦えるとなると神子なのかしら?
いえ、そもそもの話しとして、夕凪さんと更科さんは直接戦闘が出来るスキルでは無かったと記憶していますが……。
「少し気になりますね。その魔法使いは神子なのでしょうか?」
私は魔法使いの子が気になったので、ロビンソンに詳細を聞いてみた。
「正確には分かりません。──しかし、下級魔法を上級魔法並の威力で連発していたと聞いてますので、恐らくそうだと思われます」
下級魔法を上級魔法並みに? しかも連発……ほぼ間違い無く神子ですね。
「分かりました。神子ならば勇者様達に劣る事も無いでしょう」
神子とはアトラスの神に愛されて生まれてきた超人の事を言う。
勇者達が召喚された際に後天的に力を発現させるが、神子はアトラスに生まれ落ちた瞬間から天才的スキルを所持している。
「他には何か有りますか?」
「いえ、有りません! 報告は以上になります」
「分かりました。それでは下がって下さい」
「ハッ! それでは失礼します!」
ロビンソンが部屋から退室していった。
「夕凪さんのパーティーは前衛が居ないのですね。それでしたら……」
その呟きの後、何かの準備し始めたリリーナであった。
何時も見て頂きありがとうございます。