十六デバフ
夕凪達がアガスト王国内に入った頃、大神拓哉率いるもう一つの勇者パーティーはフォーストクライム王国の首都、ビジンにて王と謁見していた。
◆大神拓哉side◇
「ほぅ、貴様等が異世界の勇者か。……まさかこんな若い奴等が来るとは思わなんだ。まぁ良い、本題に入る。何でも、貴様達が"八将貴"と戦ってくれると言ってるそうじゃないか?」
「はい。……僕、いや、私達が八将貴の一人、"破滅のグラ"を討ち取りに参りました」
僕はフォーストクライム王国の王、ベルザ・ラム・グランバニ・フォーストクライムの、上に立つ者が持つプレッシャーにより萎縮してしまう。
「クックックッ、ワシ程度に萎縮するような小僧や小娘がグラを倒すと抜かすか……笑わせてくれる」
「「「「…………」」」」
僕達は黙り込んでしまう。
確かにベルザ王が言う通り、王の威圧で僕達は身体を強ばらせてしまった。
だから、何も言い返せない……。
「何故、最前線のアガスト王国では無く、我が国に来たか当ててやろうか? お前達は我が国にグラが攻めてると聞き、神子も居ないワシ等が危険と考えて来たのだろ?」
「…………」
「どうした、答えてみよ」
「…………その通りです」
僕等は図星を突かれた為素直に頷いた。
「……確かにこの国には"大暴風"や"剣の聖女"、"不壊"の様な一騎当千の者はおらぬ。──だが、ワシ等はグラを抑え込んでおる。それは何故だと思う?」
「分かり、ません……」
「それは、ワシ等の国に千の戦力に届く者は居らぬ……。しかし、百の戦力に届く者はどの国よりも保有しておるからだ」
確かに、ベルザ王が言う様な戦力が本当に有るなら、僕達は余計なお節介を掛けたのかもしれない。
だけど、
「ベルザ王の言う通りだとしても、僕達は一刻も早く、苦しみから、この国を解放する為に来たのです」
「青いな……」
ベルザ王に何を言われても僕の想いは変えるつもりは無い。
「貴様達は最前線を抜けて早々に魔王を倒す。それが、アトラスの民を苦しみから解放する一番の方法だ」
「しかし……そんなに急いでは何処かで必ず失敗します!」
僕だって、直ぐに魔王が倒せるなら倒しに行ってる。
「貴様等は神星石の存在を知っておるか?」
急に話しが変わった? まぁ、良いや……前にリリーナさんから説明されたね。
確か……、
「勇者を呼ぶ為の貴重な石と言うの"だけ"は伺ってます……」
「…………剣の聖女は随分と優しいな、ならば神星石の正体を教えてやろう。──神星石の本当の名前は死星石と呼ばれている物。そして、これの錬成には莫大な資金、膨大な魔力と"人間の魂"を用い、特殊な方法、特定の場所で錬成した物。それが神星石と呼ばれる物の正体だ」
え、人間の……たまし……い?
「ピンと来ない様だな? 莫大な資金は、そうだな……一個作るのに大国の経済が大きく傾く位だな。次に膨大な魔力は大国の人間全てが魔力枯渇症で倒れる程だ。そして、人間の魂は……役一億だ……」
そん、な……そんな事って……。
「勿論、ワシ等人類は人間の魂を得る為に同族で殺し合う様な事はしていない。お前達を召喚する為に使った12億の魂は、魔王軍との戦いで散って逝った者達の物だ……」
「それは……本当の話し、なのですか?」
こんな場で嘘を付くとは思えない。……だけど、僕は真実かどうか確認せずにはいられなかった。
「無論じゃ」
僕は……勇者で居る事がこんなにも重い事だとは思っていなかった。
もしも、皆んなから孤立し、無能と呼ばれた彼ならばどんな反応をしたのだろうか?
僕の頭の中にはニヘラとした男の顔が浮かび消えて行く。
◆夕凪翔side◇
「ぶぇっっくしょん!!」
豪快なクシャミをしてしまった。
「汚ったないわね。ホラ、鼻出てるわよ」
ロリは俺にハンカチを渡して来たから遠慮なく鼻を噛んでから返してやった。
「…………」
何で殴るの? この状況でハンカチ渡されたら鼻噛む以外無いだろ! どういう状態で返ってくると思ったんだよ……。
「洗ってから返しなさいよ!」
ご尤もで御座います。
そんな俺達のやり取りを、リリーナは呆れた表情で見ており、ファリスはハワワってなってた。
そりゃそうだよな! だって此処はブージンの玉座の間だしな。こんなアホな事やってて良い訳が無い。
俺達の近くに居る兵士さんも苦笑いしてるしな……。
「アガスト王が御出座されます。各人よ、お控え下さい」
兵士さんから注意されてしまった。
「おぉ〜〜! "剣の聖女"よ久しいな!」
バァンッ! と扉が開かれ、豪快な声量と共にイケメンなオッさんが現れた。
「アガスト王、お久しぶりです。そちらも御壮健そうで何よりです」
このイケオジがアガスト王か……。滅茶苦茶強そう……ってか武の国の王だし、実際強いんだろう。
「あぁ、余が戦場に出る機会が減ってしまって元気が有り余ってる位だ」
「王で有る以上、仕方が無い事だと思います」
「お前迄、ジェリスみたいな事を言うのか……」
「当然で御座いましょう」
イケオジ王がボヤくと横に居たイケメンが喋り出した。
何で、このイケメンは初対面の俺を値踏みする様に見てるんだ? ……何か腹立って来たな。イケメンだからって何しても許されると思うなよ? だが、場所が場所だから、今は許してやる。
「それで、このタイミングで"剣の聖女"が人を連れて来たって事は……そいつ等が勇者か?」
おっ? やっと俺達の紹介か。折角だしビシッと決めてやるぜ!
「はい。そこに居るのが私達、【逢いの絆】のリーダー、夕凪翔です。呼び出した勇者の中では恐らく最強……かと思います」
マジ? リリーナちゃんは俺の事をそんな風に評価してくれてるの? 滅茶苦茶嬉しいんだが……。
「ほぉ、呼び出した勇者の中で最強……それは楽しみだな!」
キメるなら今だな!
「ご紹介に預かりました。俺は最強の男、人呼んで"始まりと終わりを統べる者"、翔だ! 長いから翔で良いです」
フッ、勝手に二つ名を付けてやったぜ!
コレが広まれば俺はきっとモテる。
「…………」
えっ、何で全員無言なの? 俺、何かやっちゃいました?
「ハッハッハッ! 貴様面白いな! 自分で最強を名乗るか……後で余と死合わないか?」
試合? 絶対に嫌です。
だから、
「お断りしまっす!」
俺はNOが言える大人になりたいんです。
……ロリよ、何故に俺を可哀想な人を見る様な眼で見てくる。
「そ、そうか。それじゃ、他の奴等の紹介を頼む……」
「は、はい。えっと……そちらの女性は更科美香、彼女はもう少し時間を掛ければカケルさんに劣らない強さになると思います」
「更科美香と申します。どうぞ宜しくお願いします」
無難過ぎて面白く無いぞ。
「そして最後に、彼女は勇者ではありませんが、私やアガスト王と同じ神子です。多人数を相手にするのでしたら、彼女一人で戦況をひっくり返す事も可能だと思います」
ファリスが一番評価の高いコメントな気がするが?
「ふぁ、ファリスでしゅ! よ、宜しくお願いしみゃす!」
緊張で噛んどる。
「ハッハッハッ! どうだ、ジェリスよコレで戦線を押し戻せるぞ」
「……とても頼もしく思います」
今のを見て何処が頼もしいんだ……?
「さて、"剣の聖女"よ勇者達には"全て"をちゃんと話しているのか?」
「……いぇ、話してません」
「ふむ。貴様の優しさなのだろうが、勇者達にはもっと現状を理解してもらうべきだ」
何の話しだ?
「そうですね……。説明をお願いしても良いでしょうか?」
「勿論だ」
その後、俺達は神星石の真実を教えてもらった。
・
・
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この世界の情勢、ヤバ過ぎだろ。
そんな重い真実知りたく無かったわ〜。
リリーナが異世界人の事を考えて、全部を教えなかった事に好感度UPだな。マジ聖女。
「マジか〜。でもさ、勝手に召喚で呼んでおいて呼んだ相手にプレッシャー掛けるとか酷く無い?」
本来、俺達はお願いされる立場の筈なのに何故に圧を掛けてくる。
そして、ロリも俺と同じ考えなのか、横でウンウンと頷いていた。
「あ、あぁ。スマンな……」
よし、王様を謝らせたから俺の勝ちだな。
「まぁ、此処で見て見ぬ振りとかは流石に出来ないから手伝うけど。過剰に期待はしないで下さい」
「宜しく頼む」
「それで、八将貴は戦線がある八箇所の国にそれぞれ居るって言ってましたけど、この国にはどんな奴が居るんですか?」
八将貴がこっちに居ないと思ってこの国に来たのに、結局居るとかどう言う事?
「それがまだ、八将貴の内、三体までしか把握出来てません」
その一人がフォーストクライム王国の"破滅のグラ"ってか?
「把握出来てないのに各国に一体ずつ居るって事を把握してるのは何でです?」
「……それは各国から送られてきた情報を元に、そう判断しただけです」
ふぅーん、そう言う物なのね……。俺には軍師の才能とか無いから、よく分からん。だから、言われるままに戦うか。
◆ジェリスside◇
まさか、勇者がこんなに早く此処に来るとは思わなかった。
フォーストクライム王国に誘導する為に態々グラが居ると言う情報を流したのだがな……。無意味に終わってしまったか。
それに"始まりと終わりを統べる者"とか言う二つ名を持つ男は、最初から私を警戒し怪しんでいた様子だった。
剣の聖女と言われている女も、コイツの事を最強の勇者と言っていたし……侮れないな。
情報収集の為に大暴風との戦いも見たかったが……私を前にしても手の内を晒さない警戒心。やはり、この男は危険かもしれない。
今夜、我等が魔王軍はアガスト王国を落とす為に一斉攻撃を仕掛ける。そのタイミングで大暴風を暗殺しようと思ったが、この勇者の前では難しそうだ。
仕方ない……第二プランだ、城下町に火を付けて私は姿を消すとしよう。




