神話創生 アトラス歴1490年【510年前】2-1
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アトラス歴1489年──。ベスティア砦の攻防戦にて、人族、魔族、両軍に甚大な被害を負わせた魔将は、八将貴殺害に加担した事により、魔王サラサに敵として認識される事となった。そして、魔王軍はベスティア砦攻略を一時見送り、魔将を炙り出す為に動きだした。
同年、人族は一人の青年を異世界の勇者として召喚。──此度の勇者は【滅壊の勇者】と呼ばれる程に破壊に特化している勇者だった。
アトラス歴1490年──。人族は魔将の所為で得られた時間によって、結果的にベスティア砦の防衛に成功していた。
同年、【滅壊の勇者】と【剣聖】がベスティア砦で合流を果たす。そして、魔将の危険性を見たまま勇者に伝えた【剣聖】は、魔将を先に倒す事で【滅壊の勇者】と意思を統一させると、勇者ヨヤミと剣聖アベルは早急に動く事とした。
◆ ユウナギ・カケルside◇
これ以上白虎を頼る訳にいかない。
俺が行っている両種族に対しての苛烈な攻撃を彼女は納得していない。
いや、正確に言うならば納得はしている。
が……表向きは納得はしているだけで、感情的な部分ではそうもいかない。
当然だ彼女は感情のある人間なのだから。
俺も外側だけなら、辛うじて人間だが。あくまで外側だけだ……。肝心の中身がぶっ壊れた人形と変わらない状態だ。
そんな壊れた俺とは違い、表面上を取り繕っている彼女の心は限界が近いだろう。
「…………」
その証拠に、俺の隣で寝てる彼女の寝顔は苦悶の表情が張り付いている。
「最近はずっとこんな寝顔だな」
彼女が起きれば、俺に対していつも通り明るく振る舞う。これ迄も……きっとこれからも。
彼女が生きてる限り、俺は彼女を愛する。だが、いいのか? 愛する女にこれ以上地獄を見せても。
本当に彼女の幸せを考えるのなら……。
「青龍の子の下に行くのが一番だろう」
俺達が集めた情報では青龍の子供、アベルがベスティア砦に駐留しているとの情報がある。
この情報を最初に手に入れた時、白虎は気にする素振りすら見せてはいなかったが、心の奥底では気にしているのが筒抜けだった。そんな事は人形の様な感情の俺でも察せられた。彼女の想いは簡単に隠せる感情でもないだろう。
本人も気が付いていないが、ふとした時に、よく溜め息を吐く事も増えている。直ぐにでも親友の子を助けに行きたいって言うのが本音なのだと思う。
だからこそ、
「今ならまだ間に合う筈……だ」
かつて俺を助けた所為で失った彼女の右腕……義手をそっと撫でる。
「悪いな……やっぱり俺は夕凪翔の代わりにはなれないようだ」
親友の子供であるアベルと共に行くのが、きっとお前の幸せにも繋がる。
「遅くなったが……こんな物でしかお前に報えない。それでも貰ってくれ」
俺は、いつか渡すつもりで用意していた指輪をポケットから取り出すと、その指輪を白虎の左手薬指に嵌め、俺はそっと部屋を出る。
「……さて、束の間の平和の為にも魔王……お前にはもう少しだけ大人しくしていてもらう」
俺は魔王城パンデモニウムへと向けて歩み出す。
◆魔王サラサside◇
我は未来の配下、エビルスネーク、シャークフライ、タイラントオクトの幼体の入手が完了した。
「魔王様! この三体は如何しますか?」
「ふむ、我を主人と認識させたならば、戦える様になる迄は、最果ての街カロンでゆるりと成長させよ」
「承知致しました!」
「それはそうと、魔将は見つかったのか?」
「そ、それはまだで御座います」
「早く見付けろ。何時迄もベスティア砦攻略に支障を出す訳にはいかないぞ」
もしかしたら、ベスティア砦に大軍を送り込めば再び現れるのかもしれないが、勇者と魔将を同時に相手取るリスクがある以上はやれないな。
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軍議等を全て終わらせる頃には陽が既に落ちていた。
「ご苦労、あとの事は後日話を詰めるとしよう。それでは皆の者下がるとよい」
「「「はっ! それでは失礼致します」」」
「──さて、もう良いだろ。出てくると良い」
広間に誰も居なくなった事を確認すると、招いた覚えの無い客人に声を掛けた。
「初めましてだな」
仮面の男が我の前に姿を現す。
「我が城に不法侵入するなど、良い度胸じゃないか。特別に名前を聞いてやる」
まぁ、聞くまでも無いだろう。
この厳重な警備を誇るパンデモニウムに簡単に侵入出来る者、しかもその男は仮面を付けた実力者。
「──魔将ナギ・ケルウェルだ」
やはり、此奴が魔将か……しかし、この男何処かで見た事があるな。
一体何処でこの男を見たのだ?
少し考えると直ぐに思い出せた。
「くくくっ……お前が魔将だったのか。たしか……『俺はお前の味方だよ』って言ってたのは嘘だったのか?」
「?」
この反応、別人か? ──だが、あの時同様に人族と魔族の気配が……いや、あの時と違って魔の気配の方が強いな。やはり別人なのか?
「まぁいい。それで、何用で此処に潜入した? 大人しく我に狩られに来たのか?」
魔王軍が魔将討伐に動いている事位、この男も把握している筈。
だとしたら一体何しに?
「取引に来た」
取引だと?
「……話しを聞こう。だが、その前に一つ魔法を唱えさせてもらう」
「構わん」
魔将から同意を得た為、早速詠唱を始める。
「──悠久なる時を生きる愚者よ、我の勝利を阻む愚者よ、我の声はひたすらに同胞の為に響かせよう。──寄り添う位相」
理由は分からないが、奴等に訊かれると不味い可能性があるかも知れない為、オリジナルの傍聴対策魔法を唱えた。
「待たせたな」
「終わったなら話しを続けさせてもらう」
中々に豪胆な男だな。普通、魔法詠唱をはじめたら警戒する物だが、この男にそんな素振りはなかった。
攻撃魔法だったとしても直ぐに対処出来る自信があったのか? それとも単純に危機感が薄いだけか? どちらにせよ面白い男である。
「して、取引とは?」
「──ベスティア砦攻略をやめてくれないか?」
魔将は無理からぬ取引を持ちかけてきた。
何時も見て頂き有難うございます。




