神話創生 アトラス歴1489年【511年前】1-5
更新です。
アベルとサナタが西側の防衛地点に辿り着いた時、既に戦闘は終わっていた。
「これは……」
「酷いですね」
数多の死体、魔王軍が率いてる魔物の肉片がバラバラに織り交ぜられる程に地獄だった。
そして、その地獄の真ん中、西側の防衛を任されていたイニャが座り込んでいた。
「イニャさん!」
アベル達は彼女の存在に気付くと駆け寄っていった。
「…………」
彼女の身に一体何が起こったのか、放心していた。
「イニャ殿……一体此処で何があったのですか」
「…………」
「イニャ殿!」
サナタはイニャの肩を掴むと軽く揺する。
「っ!?」
「大丈夫ですか?」
「あ、あ、あん、なの勝てる、訳がない……」
「一体何を見たのですか」
「ま、魔将が全てを刈り取っていった……」
「魔将? ──魔族も人族も平等に倒すと言うあの? 昔から都市伝説の様に言われている存在の奴ですか?」
「……戦ったら駄目……絶対に」
「つまり、その魔将がコレを作り出したって事ですね」
サナタの言葉に、イニャは虚ろな表情でコクコクと頷く。
「戦ったら駄目……戦ったら駄目」
「イニャさん……」
「イニャ殿……」
壊れた人形の様に呟くイニャを見て、二人は、彼女の戦線復帰は絶望的だろうと考えた。
「それにしても、この状況を一人の魔族が作りだしたのか? だとするなら、これではまるで……」
魔王。
アベルとサナタは周囲を改めて見渡すと、それは過去に伝え聞いた魔王の所業を彷彿とさせられる光景が広がっている。
・
・
・
イニャを連れ帰ったアベルとサナタは、軍の状況、防壁の状況、敵軍の情報を集めた。
その結果、
「防壁のダメージは軽微、グラム王国の軍は被害がかなり出ているのですね……」
しかし、朗報もあった。
「ですが、八将貴のグラディスを討てた事、敵軍も壊滅状態との事。──結果だけをみるなら……」
人族の被害は大きいが、トータルで考えるならばプラスの方が多かった。
もしも、魔将が居なかったら、グラディスによって西側の防壁を破られ、イニャも殺されていたかもしれなかった。
一番不味いのは、イニャも殺され、防壁も破壊され、魔族の戦線が押し上げられる事だった。
そして、後で知る事になるが、今回の戦いで出た被害によって死星石は神星石へと至る。
此処に勇者召喚が行われる事となった。
◆ 夜闇 棐side◇
俺は自身が所属するボクシングジムでサンドバッグを叩いている。
ズドンッ!
サンドバッグは俺の拳によって左右に小刻みに揺られている。
「──ッ!?」
最後に右ストレートを叩き込むとサンドバッグは大きく動いた後、その動きを止めた。
「ふぅ……」
「よう、イズル。今日も張り切ってるな!」
背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「お前は逆にやる気を感じられないな……カケル」
背後にいる男、俺の親友で夕凪 翔。ガキの頃からの付き合いがある男だ。
「まぁ、俺はお前と違ってプロボクサーじゃなく、エクササイズ的な意味でやってる練習生だからな」
「ったく、真面目にやればプロでも活躍出来るだろうに……」
「真面目にやれないからプロにならんのだよ」
ご尤もだ。コイツはスパーリングやってもやる気はそんなに感じられない。
そんなコイツではあるが、実力はホンモノだ。このジムの会長も出来る事ならカケルをプロデビューさせたかっただろうに……本人がやる気が無いって言うのが残念な話しだ。
「本当に勿体無いな。お前の直感力を俺にくれよ……」
カケルの直感はかなりエグい。俺は脚を止めて殴り合うインファイタースタイル。それに対してカケルは脚を使って相手を撹乱するアウトボクサースタイルなのだが……俺の拳が中々当たらない。それだけ強いのにプロにならないのが本当に残念だった。
「直感とか、渡せるなら渡すからお前のイケメンフェイスを俺にくれ」
「ハァ……お前はちょこちょこそう言う事を言うけど、別にお前だってイケメンよりだろ……」
「嘘だっ!? だったら何故、俺に彼女が出来ない!」
いや、お前の理想が高すぎる所為だろ……。
何が、美人で甘やかしてくれる金持ちのお姉さんと付き合いたいだ、そんなん誰でも付き合いたいわ!
「お前に彼女が出来ないのは、その理想を捨てれば良いだけだぞ?」
「それは顔が良いお前だから言えるセリフだ」
まぁ、こう言った会話をすると何時も平行線だし放っておく事にしよう。
「まぁ、いいや帰ろうぜ」
「そうだな、帰りにどっかで飯食って帰ろう」
「……お前は俺が試合前で減量中なの知ってるだろ」
カケルがモテないのは、そう言う所だと俺は思っている。
・
・
・
「ありがとうございましたぁ〜」
結局、俺は牛丼屋に拉致られる……。
減量中とはいえ、流石に店に入って何も頼まない訳にはいかない為、サラダだけ頼んで食った。
勿論、カケルに全部奢らせた。
「さて、この後どうする? ゲーセンでも寄って行くか?」
「試合近いんだから帰って休んどけ」
「そうだな、それじゃ帰る──」
「──ください」
丁度裏路地がある前を通り過ぎる時、微かな声が聞こえた。
「裏路地から声が聞こえたな」
「そうだな」
俺とカケルは耳を傾けてみると、
「や、やめて下さい! 大声出しますよ!」
どうやら不味い状況の様だった。
俺はどうしたものかと思案していると、隣に居る親友は「テンプレきた!」とかハシャいでいた。
そして、
「ちょっと行ってくる」
「お、おい待っ──」
俺の静止を聞かずカケルは裏路地へと入っていった。
「っったく! どうせ助けて、あわよくば白馬の王子様作戦とか考えてるんだろっ!」
基本的に親友様は漫画脳だから困る。
「待てよ! 俺も行くぞ」
まぁ、プロボクサーの俺が行っても、拳を振るってはいけない縛りが有る以上、何が出来る訳でもないのだが……だからと言って放っておく訳にもいかない。
俺が裏路地に入るとカケルはチンピラ集団相手に既に拳を振り抜いていた。
「集団相手でも立ち回れるのか……本当に勿体無い」
プロを目指せば絶対に名前を残せる男になるだろうに……まぁ、俺がこれ以上言うのはしょうがない。
それより、
「大丈夫か?」
チンピラ相手はカケルに任せ、俺は女の子に駆け寄った。
「あ、ありがとう御座います」
高校生か……結構可愛いけど、カケルの趣味とは違いそうだな。
「気にするな。あそこでアンタを助けたバカも多分気にしない」
「ですが……」
「君、名前は? あ、特に深い意味はないよ」
こんな状況でナンパしてると思われたくないから一応弁解しておく。
「わ、私は天野 美幸と申します……その助けて頂いて有難う御座います」
「ミユキちゃんね……まぁ、アイツなら直ぐにあんなチンピラ追い払うから」
そんな会話をしていると「クソが覚えてろよ!」と後ろから聞こえてきた。
「噂をすれば早速終わった様だね」
「は、はい」
チンピラが去った後も裏路地内は薄暗く、この位置からカケルの表情は読み取れないが、きっとアイツの事だ、この女の子との今後の展開を期待して満面の笑顔になってるだろうと予想していると、
「な、なんだ!?」
裏路地に居る俺達に、突如として現れた光の粒子が纏わり付いてくる。
「なんぞ?!」
「えっ? えぇ?!」
カケルとミユキちゃんも俺と同様に慌てていた。
そんな同様等、無視する様に光は次第に強さを増して俺達を呑み込んでいったのだった。
何時も見て頂き有難うございます。
一部キャラ名と国の名前を間違えている事に気付いた為、後日修正致します。




