神話創生 アトラス歴1465年【535年前】5-11
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風間の記憶の中にいる南條朱雀は思い出す。
全身に奔る恐怖、失った腕の変わりに付いている義手に、ある筈の無い痛みがあの時の戦いを思い出させる。
その全ては今、眼の前で起こっている異常が原因なのだろう。
ナギの左腕を覆う漆黒の鎧、絆絶が大きく蠢き彼の全身に蔦を巻き付けている。その光景はさながら、繭に包まれた昆虫の様にも見えた。
「お、お前! 何だ! 何者なんだよ!」
「…………」
その問いに応えは帰って来ない。
しかし、無言の返答と言わんばかりに繭は変体を続けていた。
「答えろぉぉぉ!!!」
風間は大量の焔を作り出すと次々にナギへと飛ばした。
ドォン! ドォン! ドォン!
広間に響く着弾音、それに留まらず攻撃を続ける。
「まだだ、まだまだ終わらないっ!」
ナギを先程迄痛ぶったスキルを使って只管に攻撃を繰り出す。
止まらない。
止まれない。
止まる訳にはいかない。
もし此処で倒せなければ、その後には死を予感させられていた。
それは南條朱雀の記憶があるからか? いや、違う……この予感は風間英智も感じとっていたからだ。
「その動きをやめろってんだょぉ!!!」
風間のその言葉にピシリと罅割れが起こる。
そして、その隙間からは紅い瞳が風間を覗き込んでいた。
「うぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
覗き込まれている何かから逃げる様に再び焔を繭に叩き込んだ。
余りに苛烈な攻撃に辺りは黒煙に包まれる。
「やったか!?」
そう口走った風間は直ぐに後悔する事となる。
「あ……ぁ……」
黒煙は次第に晴れていき、薄らと何かのシルエットが見えて来た風間は、唇をワナワナと震わせる。
「魔……王」
黒煙が完全に晴れた時、其処には血管の様に張り巡らされた紋が浮かぶ、黒き鎧を全身に纏った黒髪混じりの白髪の男が風間を視ていた。
──仮面から覗く片方の紅眼は爛々と輝き、風間を射抜いている。
「ひっ……」
風間は瞬時に理解した。
此れは種としてのステージが何もかも違う存在だった。
この瞳は覚えている。
あの日、この瞳を持つ獣から恥も外聞も無く逃げた。
ただ、あの日と違う事は、この瞳を持つ獣には理性を感じられた。
前と同じく獣ならば逃げると言う選択肢も視野に入れただろう。──しかし、この瞳を見た時に理解しただろう。
「魔王からは逃げられない……か」
逃げる事を諦めた風間の選択肢は一つ。
「そう言えば、魔王と戦うのは勇者の仕事だったね」
勝率は限りなく0だ。そんな事は風間も百も承知……それ位眼の前の存在は異常だった。
だけど、自分が生き残る為には魔王を倒すしか道が無かった。
「それじゃ始めよう。魔将……いや、魔王ナギ」
「……殺してやるからさっさとしろ」
勇者は焔の剣を作りだすと魔王へと向かっていった。
◆魔王ユウナギ・カケルside◇
俺は誰だ?
何か忘れちゃいけない事があった筈だ。
思い出せない……。
そして、俺はどうして攻撃をされている。
この男は敵なのか?
「やったか!?」
その程度の攻撃で俺を倒せると思ってる辺りおめでたい奴だ。
「魔……王」
魔王? 俺は魔王なのか?
俺を魔王と呼ぶ攻撃者を軽く見据えると、
「ひっ……」
弱者の恐怖が俺には見えた。
何故、この男は弱者なのに俺を攻撃するんだ? 実力差は感じ取れているだろうに……。
「魔王からは逃げられない……か。──そういえば、魔王と戦うのは勇者の仕事だったね」
勇者が魔王と戦うのは仕事……か。なら反対に、俺も勇者と戦う事が仕事ならば、自分の仕事をしようじゃないか。
「それじゃ始めよう。魔将……いや、魔王ナギ」
「……殺してやるからさっさとしろ」
俺は口角を吊り上げ、勇者を嗤ってやった。
何時も見て頂き有り難うございます。
仕事の合間に書いてたストックも無くなったのと、また忙しくなる為、申し訳ないですがまた数日間空きます。




