一デバフ
どうぞ宜しくお願いします。
突然だが、俺の名前は夕凪翔。
身長172cm痩せ型、22歳で彼女なんか出来た事もなし。
顔は可も無く不可も無くな至って普通の男だ。
──あぁ〜、でも普通は外した方がいいか。
何故ならば異世界に召喚されちまったしな。
普通の人は異世界なんて来ようと思っても来れないしな!
そして、何か厳つい兵士さん達が俺達を囲んでる。
あぁ、何で俺達って言うのかは、俺の他にも結構な数の人が召喚されているからだ。
取り敢えず他の召喚者達の見た目を、分かる範囲推察するならば、
営業マンっぽいサラリーマン。
可愛い感じの清楚系JK。
ヤンキーっぽい奴三人。
学校でファンクラブが出来てそうなイケメン。
幸薄そうなOL。
生意気そうな目付きのロリ。
ムキムキで汗臭そうなオッさん。
凄く頭良さそうなお姉さん。
根暗そうな男子高校生。
そして最後に普通の俺!
召喚された奴等のヤンキー率が高い気もするが、気の所為だと信じたい。
バラエティー豊かな面々の中、JKが俺達を取り囲んでいる兵士にオズオズと話しかけていた。
「此処は何処ですか? 貴方達は誰でしょうか?」
「これからその説明をさせて頂きます」
兵士は毅然とした態度でそう応えると、
「突然の呼び出し、申し訳無く存じます」
集まっていた兵士達の奥から、女性の者と思われる声がする。
「ハッ! 皆の者、リリーナ様への道をあけろ!」
その言葉と共に、他の兵士達も道を空け、列を作っていく。
そして、作られた道の奥からは超が付く程に美人な子が現れた。
「……………」
アレだな……俺の知識から察するに、この子の貫禄ならば絶対に聖女とか呼ばれてたりする奴だ。
「聖女様、今回の召喚の儀に応じて下さった勇者様達でございます!」
やっぱり呼ばれてたし……ってか召喚の儀とやらに応じた覚えはねぇよ! 一方通行の呼び出しだわ。
「此度の召喚、応じて頂きありがとうございます。私の名前はリリーナ・フォン・ローゼンボルクと申します。どうぞ、気軽にリリーナとお呼び下さい」
聖女リリーナは人当たりの良い笑顔を俺達に向けた。
その笑顔の中に、悪意の意図が含まれてないと感じとったのか、JKがリリーナさんに近づいて行く。
「それではリリーナさん。召喚とはどう言う事ですか……? 勇者とは何の事でしょうか?」
皆が疑問に思ってる事を聞いてくれるJK。
しかし、横に居る如何にも営業マンですって格好のお前、こう言う場面でこそ前に出るべきなのでは?
そんな、しょうも無い事を考えてる間にも、
「皆様は私達が住むこの大地【アトラス】に住む人々が魔王の侵攻に抵抗する為、大召喚と言う儀式の元でお呼びさせて頂きました」
ふむ、アトラスがこの世界の名前で、状況は魔王の侵攻が激しい舞台……コレは完全にファンタジーだな。
俺達はリリーナさんの説明と呼べるか謎の説明を聞く。
呼び出された奴等の様子を軽く窺えば、皆んな不安そうな表情が感じられる。
──しかし、その中の一人、根暗は嬉しそうだ。
……きっと彼は、このテンプレ異世界召喚に喜んでるんだろうと察した。
俺もライトノベルやアニメをよく見るから、その気持ちが分かる。
そんなどうでも良い事を考えている間にもJKは泣きそうな顔でヒートアップしていた。
「私たちは戦いなんて出来ません! 戦争が無い国で生きてきたんですよ!?」
まぁ、戦いとは無縁な国ではあったな。
「戦闘に関してはご安心下さい。皆様は召喚の儀で呼び出された時、戦う為の力を神様より送られている筈です」
へぇ〜良いね……これも良く有るテンプレ展開だ。
「力……です、か?」
神様より力を与えられると聞き、周りの奴等も困惑しつつも嬉しそうだった。
──そりゃそうだよな、普通の人と違う力を持ってる何て誰もが嬉しい筈。
「ですから、戦いの事は心配しないで結構です」
「そ、そんな……私は帰りたいだけなのに……」
それでもJKは力云々よりも、帰りたい想いの方が強い様だ。
「君、取り敢えずリリーナさんの話を最後迄聞こうよ」
泣きそうになったJKをフォローするかの様に会話へと入ったイケメンは、そっとJKの肩に手を置いた。
──いやいや……サラッとボディータッチとかねぇわ! それともイケメンはやって良いのか? 俺が同じ事やったら通報されるんでしょ?
「貴方は?」
イケメンの方がテンポ良く話しが進むと感じたのか、リリーナさんはイケメンと話しをする様だ。
「僕の名前は大神拓哉と申します。リリーナさん、彼女は突然の事態に、まだ気持ちの整理が付いてないみたいです。──なので僕達が代わりに話しを伺います」
そう言ってイケメンがクールミントの香りがしそうな笑顔をリリーナさんに向けた。
「有難う御座います大神さん。それでは続けて説明させて頂きますね」
JKが会話から抜け、大神に代わってからは、すんなりと話しが聞けた。
・
「──っと言う訳です」
要約すると話しはこうだ。
現在、この世界【アトラス】での人類の勢力図は魔王軍7に対し、人類は3の割合とかなり危機的な状況との事らしい。
そして、この勢いのままだと遠くない未来に、人類は滅ぶとの事だ。
そんな状況を打開する為、貴重品である神星石と呼ばれる媒介を使用し、俺達勇者を呼ぶ為の大召喚を行なった。
召喚から呼ばれる勇者は、神様より能力が与えられるとの事で、其々がエース級になれる力を所有するとの事。
「その様な訳で、皆様にとっては勝手な事だとは思いますが、どうかこの世界の為に戦っては頂けないでしょうか?」
リリーナさんや他の兵士達が俺達に頭を下げて頼み込むと、それに待ったを掛ける様にヤンキー達が文句を言い始める。
「リリーナさんよ、俺達はこの世界の為に命なんて賭けるなんて御免だぜ?」
まぁ、その気持ちも分かる。
「そうだぜ! 何でタダで自分の命を賭けないといけないんだ?」
そりゃそうだ。
「その通りだ! 戦えと言うなら見返りとかは当然有るんだろうな?」
何時の間にか仲良くなってるヤンキー達三人は、リリーナの身体を舐め回す様に見ていた。
三人の視線や表情から、誰が見ても下衆な考えをしてるのが見て取れる。
コイツ等は典型的なチンピラだな。まぁ言いたい事も分るけどね!
「勿論タダとは申しません。我々が出来る事は可能な限りやらせて頂きます」
リリーナさんの言葉に、ヤンキー達も「それなら良いんだ」と言って黙った。
静かになった事を確認したリリーナさんは、
「皆様もそれで宜しいでしょうか?」
俺達を見回しながら、ヤンキー達を納得させた時と同様に確認してきた。
そして、タダじゃないって事が分かると、皆んなも渋々と受け入れた。
まぁ、確認とかしないでも、こうなった以上、俺達も受け入れざるを得ないのだけどな! 何も知らん異世界に放り出される方のが困る。
「問題無さそうですね。──それでは、これから皆様の特殊な力……ユニークスキルをお調べします」
やっとメインイベントが来たか、……そうだよな根暗? 俺の心の声が届いたのか知らんが、根暗と視線がぶつかったのでサムズアップで返しておいた。
「それでは別室にご案内します。能力は其方で測定致します」
・
別室に案内された俺達は其々が緊張した表情をしていた。
「それではこの石碑に順番に手を置いて下さい。それだけで皆さんのユニークスキルが判明します」
魔法陣の中には石碑が有り、更にその上には紙と羽ペンが置かれている。
「それじゃ、僕からやらせてもらうね」
イケメンが先陣を切って魔法陣の中に入る。
大神は恐る恐るといった感じで石碑に手を置く。
──すると魔法陣は輝き、それに合わせるかの様に羽ペンが動くと、紙に何かを書き記していく。
・
スキル鑑定が無事終わったのか、輝きも段々と弱まる。
そして、魔方陣から光が完全無くなった時、紙には詳細なスキルが記されていた。
「拝見させて頂きます」
リリーナさんが大神拓哉のスキルが書かれた紙を読み上げる。
大神拓哉・US・神剣・神剣解放
神剣=神に愛されし者に与えられる剣
神剣解放=神の剣を顕現する
「これは……!」
リリーナさんが大きく驚く。
「凄いです! 神を冠するスキルは凄い力を秘めた物ばかりなので誇って下さい!」
どうやらイケメンは当たりを引いた様だった。
正直羨ましい!
その後、他の召喚者も魔法陣に入り、石碑に触っていった結果がこうなった。
大神拓哉・US・神剣・神剣解放
神剣=神に愛されし者に与えられる剣
神剣解=神の剣を顕現する
天野美幸・US・神聖術
神聖術=神の力で全ての人々を癒す
橘晴彦・US・剛力
剛力=腕力のみ50倍まで引き上げる
七海雪・US・韋駄天
韋駄天=脚力のみ50倍まで引き上げる
萩原結衣・US・四属性掌握
四属性掌握=火水風土魔法を自在に操る
更科美香・US・獣魔使役
獣魔使役=条件をクリアした魔物を使役可
大塚隆・US・感覚増加
感覚増加=対象の痛み等を増加させる
栗林秋斗・US・気配遮断
気配遮断=自身の気配を薄くする
海沼豪・US・金剛
金剛=身体を硬くする
深道直人・US・闇魔法
闇魔法=深淵の力を行使可能
鈴谷康介・US・人心掌握
人心掌握=人の心を揺さ振りやすくなる
さて、いよいよ俺の番か! 皆んなも結構良いの引けてる気もするし。俺も凄いの来い!
逸る気持ちを抑え、俺も魔法陣に入って石碑に触れると、さっき迄見てきた輝きが俺を包み込んだ。
こい、コイ、来いっ! 何か良いの来い!
暫しの間、魔方陣は輝き、皆と同様に輝きも段々と収まっていく。
そして、全てが終わると、俺はスキルが書き記された紙をリリーナさんと一緒に覗く。
夕凪翔・US・感覚崩壊・無詠唱
感覚崩壊=対象の感覚を極小低下する
無詠唱=詠唱無しで魔法行使可
二つキタ! これは良い感じだろ!
テンションが上がってる俺とは対照的に、聖女さんは微妙な顔をしていた。
「夕凪さん惜しかったですね……。相手を弱体化するスキルじゃ無ければ世界に名を馳せる事も出来たのに」
「え、これアカンの?」
「アカンです」
あれ、この娘もしかして結構ノリも良い?
「対象を弱体化させるスキルは、基本的に一度掛けたら効果が切れるまで同じ対象には掛けられないのですよ」
「つまり、この効果量極小じゃ対した事が出来ないって言いたい感じ?」
「言いたい感じです」
マジか……。
だが、俺には無詠唱もあるんだから別の切り口……つまり魔法がある!
「……魔法って頑張れば覚えられる?」
「覚えられますが、魔法を覚えるのはかなり大変です。──基本的に魔法を覚える位なら剣の道に行けと言われる位には……」
マジかぁぁ! これは異世界デビュー失敗する奴か?
「「「ギャハハハハッ!」」」
ヤンキー三人が笑っている。
他の奴等もヤンキー達みたいに、あからさまでは無いが、やはり目が笑ってるなー。これは完全に見下されてるか……?
「えっと、それでは皆さんの能力が分かった所で、近くのダンジョンに実践を兼ねた訓練をして頂きます」
随分と急ぐんだな……。まぁ、人類側に時間は無いとか言ってたしな。
「リリーナさん、実践は早急すぎませんか? 僕達はまだ力の使い方すら分からないんですよ……」
「その力の使い方を実践で学んで頂きたいのです。何かと理由を付けて後に引き伸ばす人は、大事な局面でも決断が出来ないと私は考えております。そして、その大事な局面は今なのではないでしょうか?」
リリーナはそう言って全員を見回す。
カッコ良すぎるぜ聖女さん!
俺がまともな能力なら率先して動いたのに残念だ。
「分かりました。ですが支援は勿論して頂けるのですよね?」
「勿論です!」
・
そしてやってきましたダンジョン!
此処から俺の無双が始まればいいんだが、それは無理っぽいので後ろで大人しくデバフを振り撒いておく。
「「「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」
力の使い方とか言ってが、実際に戦いが始まると全員が普通に戦えてた。
まぁ、スキルを使って分かった事なんだが、最初からそう言う物なのだといった感じでどうにかなった。
俺とかもデバフを掛けたい相手を視界に捉え、センスコラプス! って頭の中で唱えてるだけだ。
俺のデバフが効いてるかどうかはイマイチ実感も出来ないがな。
正直に言えば前衛職が羨ましい。俺もカンカンキンキンと剣を打ち鳴らして戦いたい──だって男の子だもん!
・
まぁ、そんな訳で問題無く訓練が終わると、リリーナさんが全員に話しかけて来た。
「皆様、お疲れ様です! 本日の訓練だけでもかなりの成長を遂げられた様子が分かりました。──ですので、今後は皆様にはチームを組んで貰い、チーム毎で魔王討伐に挑んで頂きたいと思います」
「全員が一緒は駄目なのですか?」
イケメンがリリーナさんに聞いてくれた。
「勿論それでも良いのですが、余りに大人数で動くと魔王にも場所を悟られます。リスクの分散や様々な事を考慮した結果、四人一組が良いかと思いました」
「チームの内訳とかは決まってるのですか?」
「それは、まだ決まってません。折角ですので各々方で自由に組んで頂きたいと思います」
オィオィ、この状況でそんな事を言ったら俺がハブられるだけだろ!
そんな俺の心配を他所にパーティー編成が無慈悲に始まる。
・
はい、予想通りでした!
チーム・ハーレム
大神拓哉
天野美幸
七海雪
萩原結衣
チーム・ダークロリマッチョマン
深道直人
更科美香
橘晴彦
鈴谷康介
チーム・ヤンキーズ&ザコ
大塚隆
栗林秋斗
海沼豪
夕凪翔
この内訳は予想通り過ぎたよ!
ってかイケメンに主力が集まり過ぎだろ!
ヤンキー達は早々に三人決まり、残り一人をロリ以外の女を入れようとしていた見たいだけど、皆んな拒否してた。
そりゃ、そうだ! こんな柄の悪そうなチームに入るとか、何されるか分かったもんじゃない。
そして、その空いた枠には能力的にアレで売れ残った俺が無理矢理入れられて最終的にこうなった……。
あぁ〜日本帰りたい。
見て頂きありがとうございます。