第5話 思ってたのと違う
「はい、では自己紹介! 出席番号順で行くよー。名前と、、後は各自自由で! 長くても短くてもいい!」
「それなら好都合だ」
俺は教室の後ろの席で、誰にも聞こえない大きさでそっと呟く。
「確かに。いよいよね、頑張って」
隣には聞こえていたみたいだ。
「おう」
ホームルームが終わり、一時間目。今日のビッグイベントである自己紹介が始まった。出席番号順ならば俺は中盤あたりか。
何人か終わった頃、あの一軍男子の番が来た。
さてどんな感じの奴なのか。初日で俺にあれだけ突っかかってきたんだ。きっと尖ったやつに違いない。
「俺の名前は尾市テツヤだ」
こいつ、尾市っていうのか。
そう言って尾市は自分の席に戻る。てかすげー短いな。
そう言って尾市は自分の席に戻る。短いな。
予想通り尖ったやつだ。おそらくこいつは陽キャというよりクラスのボス的存在になるだろう。クラスメートもこいつに流されてるって感じか。
そんな奴ですら短いというのに、陰キャどころかクラスからほぼシカト状態の俺がいきなり長々と話すのはどうなのだろうか。
「結構みんな短い。30秒くらいじゃない。10分間なら話してても平気かと思ってたんだけど、この流れじゃ1分が限界ね」
「俺の壮大な留年の理由を1分にまとめろってか」
「言うほど壮大じゃないでしょ」
まあ確かに、みんな長くて30秒くらいだな。この流れはまずいかもしれない。
その後は、自分の趣味を語る人、一発芸をする人などいたが。結局30秒の壁を超える者は現れず、ついに俺の番になった。
俺は美空と目を見合わせた後、席を立ち、前へ出る。
ポケットから一枚の紙を取り出し、大きく深呼吸をして、俺は話し始める。ちなみにこの紙はカンペだ。昨晩寝ずに推敲に推敲を重ね書いてきた。
「初めまして。俺の名前は坂井シンジ。みんな知っている通り、俺は留年した。だから今年で二度目の高三だ。ここにいる人の中には、俺の留年の理由を知っている人と、知らない人が居ると思う」
小さな声で、「知ってる人なんかいないだろ」と呟く奴もいたが、知っている人はいる。この教室の後ろの席。俺の座っていた席の隣に。俺は話を続ける。
「知らない人はおそらく、俺が元不登校だとか勝手な仮説を立てていたかもしれない。でもそれは誤解だ。今日は俺が留年した本当の理由を、みんなに説明させてくれ。お願いします」
俺はクラスメートに頭を下げ、懇願こんがんする。
すると、一人の男が教卓の目の前の席で俺を睨みつけた。。尾市だ。
「んなの誰も聞いてねえよ、自分語りはやめろ」
尾市の声に続いて、他の男子の数人も、教室のあちこちから野次を飛ばす。
「確かにー」
「それなー」
もうだめだ、こうなってしまっては取り返しがつかない。やはりこんなこと無意味だったのか。
美空の方を見ても、あちゃーというような顔をしているだけで、何か解決策がありそうでは無い。もう無理だと諦めかけていた時、俺の横で松島が口を開いた。
「坂井……いいね。そういうの先生、嫌いじゃないよ! みんなー、とりあえず聞いてあげれば?」
そう松島が言ったことで、何人かは頷いてくれた。尾市は依然俺を睨んでいる。俺そんな気に食わないか……
「それでは、坂井による素晴らしい発表! 聞いてあげてー!」
松島は相変わらず盛り上げ方が下手くそ。というか発表でもないしな。でもここまで持っていってくれた事は感謝している。
「俺は去年の9月、交通事故に遭った。そしてその事故で全身打撲を負った俺は3ヶ月の入院を余儀なくされ、退院した頃には留年が確定してた。これが俺の留年の理由。誤解されたままなのは嫌だったから、これだけは把握していてほしい」
ふう、とりあえず喋りきった。やりきった感がすごい。
「で? つまり何が言いたいわけだ? 誤解を解いて何がしたい。友達が欲しいのか? 結論をしっかりしろよ」
尾市が口を開く。確かにこいつの言う事は正論だ。
夢の話じゃないが、俺は何を望んでいるのだろう。みんなと打ち解ける。とは言っても、打ち解けた先は? 俺は結局、何がしたかったんだ。
「元気出しなって、まあこんな自己紹介だけで坂井くんの扱いが変わるとは思わなかったし、想定内よ」
「嬉しいようで嬉しくない励ましだな」
全員の自己紹介が終わり、休み時間。あの時尾市に図星を突かれ一発KOを食らった俺は、一度は立ち直ったが、やっぱり自分が恥ずかしくなって机に項垂うなだれていた。
「でも、なんかちょっと全体的に偉そうで面白かった」
美空はクスッと笑いながら言った。
今思うとそんな感じだったかもしれない……
「ほら、もう良いでしょ、切り替えなさいよ。一回で成功するはずないのよ」
……確かに。でもあれだけ綺麗に図星を突かれると、松島に沢散々鍛えられてきた俺のメンタルですらヘコむ。
ガラガラとドアが開き、松島が教室に入ってくる。
「そろそろ始めるぞー、席つけー」
生徒が全員席に着くと、松島は大きな声で言った。
「さあ! 委員会決めだよ!」
正直忘れてた。
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