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第3話 留年した理由、教えてよ。

「ねえ坂井くん。あなた、なんで留年したの」

後ろから声をかけられた。女子の声だ。

まさか俺、女子にまで絡まれるのか……


ゆっくり振り向くと、そこにはうちの学校の制服を着崩した女子が立っていた。

どこか見た事あるその風貌は、さらさらな黒髪ロング、目鼻立ちのキリッッとした美しい顔。ちなみに胸は無い。だがかなりの美人だ。まあ俺のタイプではないが。


留年の話をしてくると言う事は、同じクラスだな。


今日俺は松島のあの爆弾発言があってから、自分のメンタルを保つので精一杯だった。だからもちろん、クラスメートの顔なんて見てもないし覚えてもいない。隣の席の奴ですら。


––いや待て、隣の席?––

「あぁ、隣の席の……美空…だったか?」

俺は恐る恐る聞いてみる。これは完全にうろ覚えだ。


「正解、美空みそらアオイ。よろしく」

彼女は軽くお辞儀をする。


「ていうか、隣の席よ? なんでそんなうろ覚えみたいな感じなの……」

答えは簡単。本当にうろ覚えだったからだ。とは言えるわけもなく……

俺は「あはは」と適当に笑って誤魔化す。


「それ、学校でもやってた」

すると、美空は真剣な表情に変わった。

「それ、とは」

美空の言ったことが全く理解出来なかったわけではない。ただ、こいつの口からその真意を聞いてみたかっただけだ。

「笑って誤魔化すやつ」

「そういうの、良くないわよ」

出会って2分も経たないうちに、年下の女子に説教じみた事を言われる俺は一体なんなのだろうか。


俺は元々、笑って誤魔化したりするタイプではない。むしろそういうのは嫌いな方だ。

「ま、そんなことはさておき、留年した理由。教えてよ」

随分と真剣な表情で俺を見つめる美空に、俺は既に押され気味だった。どちらにしろ答えない理由はない。


「去年の9月、交通事故に遭った。それで3ヶ月入院する事になって、やっと退院した頃にはもう留年が確定してた。簡単にまとめるとこんな感じだ」

「エッ、事故? てっきり不登校とかだと……」

すごく不名誉なレッテルを貼られていた気分だ。


「そういえば、どうして理由が気になったんだ?」

興味がなければ、まずこうやって直接聞きに来ることはまずないだろう。

「いや、なんか今日クラスの男子に絡まれてたでしょ。それで気になって」

「でも、こうして話してみたら、案外普通の人間じゃない」

「案外って……」

だが、久々に自分がちゃんと肯定してもらったような気がして、少し心地よかった。

12月に留年が確定して、そこから3月までとりあえず通い続けていたが、同級生からは【留年野郎】として罵られることもあった。

だからこの何気ない一言が、俺の胸に刺さったんだと思う。わかってはいても何だか不思議な感じだ。


「そうだ! さっきの、留年した理由。あれ明日の自己紹介で言ってみれば?」

そうか、そういえば明日は自己紹介があったんだった。

「でも、そんな話を自己紹介でした所で意味ないだろ」

「意味はある。もしも上手く行けば、坂井くんがクラスで浮くのも無くなるかもしれない」

そうだ。こいつの言う通り、俺はクラスで浮いている。クラスメートからは初日からほぼ無視状態だった。帰る前に掃除があったが、俺に話しかけてくれる人は一切いない。怖がられているのか。はたまた、ただ嫌われているだけなのか。

嫌われるような事はする余地も、した覚えもないんだけどな……

「どうするの」

少し怒ったような口調で、美空は俺を急かしてくる。

「優柔不断はモテないぞぉー」

っ……こいつは所々で、ちょっときつい事を言ってくる。


まあ、一年間一緒に過ごす仲間だし、仲良くなれることに越したことはない。

美空がそうだったように、俺が不登校で留年したと思っている人は少なからずいるだろう。

だが、その誤解さえ解く事が出来れば、俺がクラスで浮くことも無くなる。

「よし、言う。言ってみる。当たって砕けてやる!」

「なんで砕ける前提なのよ」

美空は俺を半目で見据えながら、呆れた顔をした。


「あーごめん、長くなっちゃった。そろそろ帰る」

美空はポケットから取り出したスマホを一瞥した後、言った。

どうやら俺たちは、かれこれここで何分も話していたみたいだった。

「家はこの辺りか?」

「うん、すぐ近く」

「それと坂井くん」


「私、少しホッとした」


「えっ、、とそれはどういう・・・・」

「じゃ、明日頑張ってね」

そう言って美空は、俺に軽く手を振って帰った。

?……何だあの意味深な発言……


そうして俺も帰路に着く。

にしても、あんな美少女と初対面であそこまで喋るとは。というか、何だったんだ……

わざわざ留年した理由を聞きに来て、さらに俺がクラスで浮かない方法まで、親身になって考えてくれたのだ。

ただ親切と言えばそれまでだが、俺にはそれだけの様な感じがしなかった。

「明日頑張れ か…」

良ければ評価よろしくお願いします!

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