第1話 留年
初めまして。テラガミと申します。
普段はカクヨムでファンタジー、ラブコメを書いています。
※この作品はカクヨムから引っ張ってきたものです
ドシャンッ!
「キャーー!」
通行人の悲鳴が聞こえる。今、俺は車に轢かれた。
9月半ばのとある昼下がり。大きな交差点の端で横たわる俺に、群衆はざわつく。
「救急車呼べ! 救急車!」
全身が痛い。体が動かない。
朦朧とする意識の中、一つ思った事がある。
俺、死ぬのか?
いや、きっと死なない。
死に間際は痛覚が無くなるって聞いた事がある。
痛みを感じるってことは、まだ死に時じゃないって事だろ。
そんな楽観的で呑気な事を考えた後、俺は意識を失った。
俺の名前は坂井シンジ。高校三年生。18歳。
今、留年が確定した。
遡ること3か月前、俺は交通事故に遭ってしまった。
その事故で全身打撲を負い、3ヶ月の入院を余儀なくされた。
そして、今日が待ちに待った退院の日。めでたいはずだったが、退院の日の今日に先生から電話で留年を宣告された。
明日から登校しようと思っていたがもう遅い。昨日の時点で俺は、卒業に必要な出席日数が足りなくなっていたらしい。
今はもう12月。本当であれば後1ヶ月で受験本番。だが留年した俺にはもう受験など関係ない。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁー! 何やってんだ俺!
人はこんな状況の時ばかり無駄に沈思ちんしし絶望する事しか出来ないという事を、俺は身を持って痛感した。
「なに、そんな浮かない顔して。仕方ないのよ、あんたは運が悪かったの」
同級生の母親の中では美人だと定評がある母親が、車を運転しながら後部座席に座る俺に話しかける。
「運が悪かったって言ったって、、留年だよ?母さん嫌じゃないの?」
「そりゃ、良くはないけど……どうしようもないじゃん、まあとにかく……退院おめでと!」
うちの母親はこういう人だ。
だが、俺の父親は真逆。きっと俺の留年を知ったらブチ切れるだろう。
まあでも、決まってしまった事には仕方ない。ここは割り切るしかないか。
俺はその後も、三月の卒業式までとりあえず学校に通いつづけた。まあ卒業式と言っても、俺は出ないのだが。
3月1日
今日は卒業式。俺以外の生徒のほとんどが式典の最中である中、俺は一人で家でネットフリックスを見ていた。
今のうちに学園もののアニメを観て、これから始まる三度目の高校生活をどう楽しむかを考えよう。
こんなことを自分に言い聞かせているが、本当は分かっている。これはただの気休めにしかならないということを。全く、考えている自分に腹が立ってきた。
何本か観た後、突然家のチャイムが鳴った。
ピーンポーン
「誰だ?」
ふと壁にかかった時計を見ると、もう12時を回っていた。
インターホンを覗き、玄関先を確認すると誰かが見える。制服を着た体格のいい短髪の男。ケイタだ。
南部ケイタ。俺の数少ない親友の1人である。
「もう終わったのか」
ガチャッ
俺は玄関のドアを開ける。
「よっ!新高校三年生!」
「殴るぞ」
こいつは昔からお調子者だ。
「卒業式、もう終わったのか」
「ああ、これでついに卒業だ!」
「で、何しに来たんだ?」
「いやいや、ちょっと親友の顔を見に……」
「そうか、」
俺はケイタを家にあげ、リビングのソファに座らせる。
危ない危ない、さっきまでテレビ見ていた学園ものアニメは、ケイタが来たと分かった途端に消しておいた。馬鹿にされる気がしたからだ。
「そういえばお前、残念だったな。ハナちゃんと卒業できなくて」
矢澤ハナ。俺の初恋の相手だ。ボブカットで整った顔立ちの、笑顔が素敵な、俺の理想を全部詰め込んだような子だ。
高校に上がるまで恋愛に全く興味がなかった俺だったが、ハナだけは大好きだった。だから高一から三年間アピールし続けたし、誕生日プレゼントだって毎年渡した。
結局告白まではできなかったが。
告白して、関係が崩れるのだけは嫌だった。まあただの逃げ文句だ。
「大学は一年遅れでハナと同じ所に行く」
「お、追っかけってやつか」
そう言われても仕方ない。今の俺にはハナしかいないのだ。
「それで?同じ大学に行ってどうするんだ?」
ケイタは少しニヤついて俺に聞く。
「告、白する」
「ふっ、そうか」
一呼吸置いて、ケイタがボソッと呟く。
「お前、一途だよなー」
「ん?なんか言ったか?」
声が小さくて聞き取れなかった……
「まあいい! とりあえず後一年頑張れよ!」
ケイタは立ち上がり、足早に帰っていった。
ケイタと話して、俺の中で決めたことがある。
俺はこの一年頑張って、ハナと同じ大学に行って、ハナに告白をする、と。
「やってやる!」
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