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01話 こんな村にはいたくない

「クエス、本当に出ていくつもりなのか!?」

「あなたはまだ5歳なのよ? いくらなんでも早すぎるわ!」


 説得してくる両親の言葉を、私は真剣な顔で聞いていた。

 さらさら聞く気はなく、聞いている体を装っている。


 長い小言がようやく一段落したようで、この機を逃さまいと私は答えた。


「以前読んだ本に書いてありました。可愛い娘には旅をさせよ、と。私はこの世界を見て回りたいのです」


 私は一人旅に出ても問題ないのだと。

 恭しく頭を下げて、できる子アピールをする。


「私はできる子です。すでに5歳にして、この村一番の魔法の使い手になっているのが証明しているでしょう?」

「それにしても、言ってすぐに出ていくなんて……」


 両親はその目に涙をためている。

 泣き落とししようとしても無駄だ。

 そんなことで私の決意は変わらない。断固とした決意である。


 どう説得しようかと考えているのだろうか。

 両親が思案顔を浮かべている中、ドンドンと家の扉が激しく叩かれた。


「何してるんだ!? 村長が怒っているぞ!」


 声から察するに、扉の向こうにいるのは隣りに住む村人Aだ。

 来ることは予想していたが、もう少し早く来るかと思っていた。

 おかげで長い説教を食らうことになってしまった。


 いま村ではとある問題が起こり、緊急事態の真っ最中である。

 朝から村の大人たちには召集がかかっていたのだが、そのタイミングで私は旅立つことを切り出したのだ。


「もう出て行きますので。知っていますよね? 私が意見を曲げないってこと」


 両親は顔を見合わせ、諦めた表情を浮かべた。


 勝った。


 父が頭を優しく撫で、母が強く私を抱擁する。


「定住するならどこに住んでいるのか連絡してね?」

「たまにでいいから手紙を出すんだぞ」


 とびっきりの笑顔で応える。


「もちろん手紙は書きますよ」


 ようやく、両親と村人Aは村長のもとへと向かった。

 これで邪魔者は誰もいなくなった。


 計画通りに進み、頬が緩むのをこらえられない。

 しかしながら、いまだ計画は進行中。

 最後の詰めが肝心だと気を引き締め直し、私は準備に取りかかった。


 ベッドの脇に隠しておいた荷物を引っ張り出す。

 用意していたものは鞄と布に包んだ杖だ。

 私に必要なものはこれだけ。

 肩に鞄の紐をかけ、布に包んだ杖を持ち、足早に家を出る。

 何年も住んでいた家だが後悔はない。

 私は家に振り返ることなく、村長の家と逆方向に駆けていく。


 いま、村の大人たちは村長の家の前に集まっていることだろう。

 出ていく様を見られてはいけない。

 立つ鳥跡を濁さず。

、いさぎよく去ることが重要である。

 別れの涙は不要だ。

 今生の別れではあるまいし。

 もう二度と、ここに戻ってくることはないだろうが。


 村から離れ、見られないような位置まで着くと、私は杖を包んだ布を取り去った。


 布の中から姿を見せたのは単なる木の杖。

 長さは私の背丈と同じくらい。100センチちょっとといったところ。

 無骨に削られ、ツタのようなものがまとわりついている。

 森に行けば拾えそうな見た目だが、手に持つと驚くほど馴染み神々しさすら感じるもの。

 この村の秘宝であり、世界樹の杖なんて大層な名前のついた杖だ。


 決して盗んだのではない。

 この杖は私が持つべきものであり、借りただけ。

 ただ、私が死ぬまで返さないだけである。


 私は颯爽と杖にまたがり魔法を発動さる。

 杖がほのかに光って体がふわりと宙に浮く。

 大地の重力から、戒めから、すべてが解き放たれた気分だ。


 ここでようやくほくそ笑む。


「いざ行かん! スローライフを求めて!」


 新天地に向け、私は大空に飛び出した。

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