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カイリの庭。

 お茶を終えると、クラウスはレティシアを連れて宮殿内を案内した。着慣れないドレスで手間取るレティシアを急かすことなく、手を引いてエスコートしてくれたので、次第にレティシアも歩くのに慣れた。傷つけても心配ないと言って貰ったお陰で、大分気も楽だ。

 行きかう人々が、クラウスの姿を見るとその都度礼を尽くしていた上で、やはりレティシアも視線を感じたが、気にしないように努めて、丁寧に説明してくれるクラウスの言葉に耳を傾けていたら、宮殿内の探索も楽しかった。

 ひと際目を引いたのは、美しく広大な中庭で、よく手入れも行き届き、また自然のものでもあるので、人界の光景にも近く、見ていても心休まる光景だ。

「歩いて見るか?この中庭は、ここが創られた時からあるものなんだ。年季も経っているが、両親も気に入ってる場所だな。撒くのに丁度いいぞ。」

「撒く?」

「煩い奴がいたんだよ。俺も子供だったから力が不安定で思うようにいかねえし、かと言って大人しく言う事を聞くのも癪だから、そいつが思うようにできないここを選んだ。この庭全体には父上の防御結界が張ってあるから、外部からの攻撃は跳ね返すが、結界内に入れば再復しない。父上は、時間の流れを感じられるものが欲しいんだと。母上もここでだけは俺と喧嘩はしない。」

 宮殿の主であるカイリとマリアが大切にしている場所を、他の者が手出しできるはずがない。

「成る程。だが、そこまでして避ける人と言うのは一体・・・。」

 レティシアが尋ねるまでもなかった。

 武装した若い男が、数人の配下らしき厳つい面々を引き連れてやって来るのが見えたからだ。そしてクラウスが心底嫌そうな顔で、彼らを見やっているのを見て、察しもつく。

 美しい神々の礼に違わず、体格のいいその男の顔は整っていたが、太い眉に吊り上がった目は迫力がある。いかにも武人らしく、筋が隆々としており、声は野太いものだった。

「クラウス様、ようやくお戻りですか。人界をいつもの如く、フラフラ、フラフラと!ご嫡子ともあろう御方が、お戯れが過ぎます。」

 開口一番、説教である。呆気に取られるレティシアに、男ははたと我に返って、慌てて首を垂れて、丁寧な挨拶をしてくれた。

「これは・・お見苦しい所を失礼いたしました。私は、クラウス様にお仕えしております、ソールという者です。以下、お見知り置き下さい。」

「レティシアです。宜しくお願いします。」

 微笑みながら返すと、ソールの顔が緩む。だが、クラウスは冷淡で、

「何が仕えているだ。単なる口煩い、父上の目付だろうが。」

「何を仰います。クラウス様を見張ったところで、私に出来ることなどもう御座いません。そもそも・・・」

やはり説教が始まり、クラウスはうんざり顔だ。どうやら苦手な相手らしい。

「ええと・・・クラウス、外そうか?彼方此方見せて貰ったし、十分だよ。ありがとう。」

「いや、いい。もう終わる。」

 すかさず、ソールが、

「終わりませんよ、これからです!」

と言い放つものだから、クラウスの表情が更に渋くなる。かと言ってソールが退く様子も無く、レティシアは眼前に広がる庭園に目を向けて、

「あ、じゃあ、私少しこの庭を歩いてみるから、その間だけでも。」

「ここは広いぞ。この宮殿で、お前に手を出す馬鹿は居ないだろうが・・・。」

「大丈夫だよ。話が終わったら迎えに来て。神界で色々やらなくちゃいけないことが溜まっているんでしょう?クラウスは人界で私の為に留まって居てくれたから、今度は私が待つよ。ね?」

 神族が良いところはこういう時、焦らなくていい事だとレティシアは思った。クラウスと離れるのは寂しいけれど、彼ならば神気を辿ってすぐに見つけてくれるだろうし、待っているのも一つの楽しみだと思えば良い。微笑むと、クラウスが渋々と言った様子で、レティシアの頬に軽くキスを落とした。

「・・・分かった。あまり遠くに行くなよ。何かあったら俺を呼べ。すぐ行く。」

「分かった。邪魔して御免ね。ん・・・・?」

 ソールに視線を向けてみれば、彼とその配下達が何故か固まって食い入るように自分達を見ているものだから、レティシアは不思議に思ったが、クラウスに促されて、一人庭園へと入っていった。

 クラウスは彼女の後姿を見送る。

 ソールたちが衝撃から立ち直ったのは、彼女の姿が見えなくなった途端に、主君の漆黒の瞳がいつも見慣れた醒めたものへと変わったからだ。

「それで?俺の邪魔をするほどの重大な要件なんだろうな?」

「・・・・・・クラウス様。」

「何だ。」

「いや、正気ですね。」

「貴様、殺されたいのか?」

 真顔で言われて、ソール一同は慌てて姿勢を正し、瞬時に不機嫌になった主にソールも説教をようやく控えた。手短に彼の判断を仰ぎたかった事を伝え、最後に少し迷いながらも問いかけた。

「先ほどのレティシア嬢が、ゼウス様の御息女ですか。」

「それがどうした。」

「いえ・・・ゼウス様の身辺がまた何やら騒がしくなってきている様子ですので。あの御方ならば納得です。」

「放っておけ。この宮に居る限り、奴も流石に手は出せない。父上に戦を仕掛ける気でもなければな。」

 確かにと、ソール達は納得した。

 神界の最高実力者である【四柱】カイリに公然と戦を仕掛けてくるような愚か者はまずいない。

 この宮殿も絶大な力を誇るカイリの護法に守られていて、宮殿に出入りできる者も厳選されている。夥しい数が居るカイリとマリアの部下達の中でも、ごく僅かな一握りの上級神だけだ。普通の者は、カイリやマリアの姿を見る事さえもままならない、崇高な存在である。

 だから、クラウスもレティシアを一人で行かせたのだ。


 その決断が、よもや彼女を喪う事に繋がるとは、この時クラウスも当然思ってはいなかった。

次話で、念願のモフモフが出てきます!

可愛い!・・・かどうかは、別問題ですが・・・・。

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