【始】誰か、この神を止めて下さい。
新章開始です。
今度は神界にお話が移ります。宜しくお願いします。
個性派ぞろいの神族を登場させたいと思いますが、変人だらけになる気も致します・・・。
モフモフを早く出したい!
「うーん、やっぱり意味が分からない。人間だろうが、神族になろうが、結局変わらないじゃないか!」
机の上で母の形見の品である神術書を読み解いていたレティシアは、流れてきた長い銀髪を邪魔っ気に払う。それでも櫛通りの良い柔らかな髪質であるがために、また掛かって来る。
「邪魔だな・・・そろそろ切ろうかな。」
後ろで無造作にひとまとめにして縛ろうとした手に、不意にキスが落とされて、驚いて離して振り返ると、今度は唇を摘ままれた。こんなことをしてくるのは、一人しかいない。
「勿体無いから、止めろ。それより、どうせなら膝下位まで伸ばせ。その程度なら引き摺らないだろ?」
「いやいやいや、そんなに長いと管理が大変だ。」
長ければ絡みやすいし、洗うのも乾かすのも大変だ、という人間女性の常識は、神族であり尚且つ短髪の男には残念ながら通じない。
「全く困らないだろう。丁寧に梳いてやれば良いし、動くのに邪魔なら結えばいい。お前の髪を洗うのも乾かすのも大体は俺なんだから、別に良いだろ。」
「良くない!良くないんだ!」
レティシアは真っ赤になって、恋人である男を軽く睨んだが、彼は不敵に笑う。
神と人の子であり、今は神族となったレティシアは、だがその前に人として生きている時間の方が長い。人間的な常識が、長い時を生き、圧倒的な力を誇る神族に時として通じないのは、理解しているつもりだった。一方のクラウスは両親ともに神であり、純粋な神族として産まれ育った男である。無論、彼にしてみれば神族の常識が通じない事に戸惑いもあるはずだ。
ただ、クラウスが当たり前のように求めてくることの一つは、素直に頷けなかった。
「髪を気に掛ける余裕があるなら、朝と昼間もさせろよ。」
「よ、夜だけで・・・手いっぱいだ。」
クラウスは朝と夜と言っていたが、レティシアを虜にするもので、翌日動けなくなる事もあるので、朝は止めて欲しいと頼み込んだのだ。クラウスは一応了承したが、納得はしていないのは、明らかである。
「神族の身体なんだから、平気だろ。」
「関係ない気がする・・・・。」
体力は桁違いだと聞いていたにも関わらず、この所実感がない。まだ神体になって日も浅く、身体も慣れていないのもあるのかもしれないが、人であった頃と同じく直ぐに起き上がれないこともままある。
衛士隊を除隊したレティシアは、王都を離れ、クラウスと共に旅に出た。真っ先に向かったのは、レティシアの故郷だ。そこには母と暮らした家もあったが、母は既に亡く、レティシアも一人で生きて行かなくてはならなかったから、出来るだけ身軽であった方が良いと、故郷を出る時に家財の大半は処分して、家も人手に渡っている。
それ自体に悔いは無く、クラウスが買い戻すかと提案もしてくれたが、断った。少し立ち寄っては見たが、家を売り渡した家族が大切に家を使ってくれている様子で、レティシアも一安心したのだ。使う予定もないし、管理も行き届かなくなるよりは、使って貰った方が良い。
また、子供の頃からレティシアの銀髪は珍しく、また母は夫の知れぬ身で子を産んだ女と言われ、何かと陰口も叩かれた事もあったので、あまり戻りたいとは思わなかった。
母の墓参りを終えて、また旅立った。
日中は馬でのんびりと往来を行き、夜は宿場町の宿屋で寝泊まりする日々が、もう一月ほど続いている。どこに行くでも無く、自由気ままに行きたい所に行ってみるという経験は、生きていくのに精いっぱいであったレティシアにとって貴重な経験だった。クラウスは楽しそうなレティシアの様子に目を細め、彼女が行きたいという場所にとことん付き合った。
彼が絶対に譲らなかったのは、野宿をする事だけだ。適当な街が近隣に見えず、日暮れ間近になると、クラウスは神術を駆使して近隣の街に飛んでしまう。地べたでレティシアを寝かせる事だけは許せないらしかった。衛士隊に居た頃は、当然ながら行軍中は野宿な訳であり、レティシアは別に平気だったし、むしろ収入源がない中では節約した方が良いのではと思うのだが、クラウスは譲らない。
ただ、除隊したことで、旅の資金はレティシアが隊にいる間にこつこつと溜めていた貯蓄だけのはずだったが、今の所金銭には困らない。
「お前がそう思い込んでいるだけだ。ああ、そうだ。ほら。」
レティシアの髪を楽しそうにいじりながら、クラウスが机の上に置いた小さな袋に、レティシアは目を見張る。
自分が書を読み込むと言ったら、僅かな金貨の一枚だけを手にして、少し出掛けてくると言って出て行った。ほんの二時間程度であったはずだが、レティシアが袋を開いてみると、金貨が十数枚入っていた。これだけで半年分の旅費になる。
「今度は・・・どうしたんだ?」
「賭けだよ。数字が書いてあるカードを使ってたな。」
元は人間であるレティシアには、それがどういうものか想像もついたが、不思議でもあった。
「人間のカードゲームなんて良く知っていたな?」
「いいや。でも親切な奴が、教えてくれたんだよ。」
「ああ・・・うん、そうか。」
クラウスの見目は良く、衣服も上質なものだ。恐らく《カモになる》と思われたに違いない。結果どうなったか、一目瞭然だ。
「全員の有り金巻き上げても良かったんだが、あまり遅くなるとお前が心配だから適当に切り上げて来た。」
「・・・・うん。よく狙われなかったな・・・。」
貴族達の戯れの場ならともかく、こんな宿場町で金貨のような大金を賭けに使っているとなれば、大概は法外である。詐欺まがいの行為なども横行しているはずだが、この男には通用しなかったらしい。あまり勝ちすぎると、帰り道で襲われたり狙われたりするとも聞くが、レティシアは自分で言っておいて唸った。
神族であるこの男を、狙う人間の方が無謀だ。
クラウスがくすりと笑い、
「叩きのめしておいた。俺は別に教えて貰った通りの正攻法で勝ったんだから、恨まれる筋合いも無いんだがな?」
「イカサマされなかったのか?」
「あんな下手糞なやり方で、バレないと思っている方が可笑しい。」
何もかもお見通しという訳だ。
レティシアは舌を巻いた。この間は武闘大会に出て優勝していたし、その前は用心棒で稼いで来た。無論、神族であるから、人が太刀打ちできないという事もあるのだろうが、この男は人間でも他者を圧倒していたから、同じな気がする。
「・・・クラウスは神族なのに、人間の世界でも稼げるんだな・・・。」
「俺の手でお前を養えば良いんだろう?難しい事じゃない。手っ取り早いのは国一つ位滅ぼして、財貨を全て奪い取る方が効率的だと思うんだが。」
「・・・・・・。滅ぼされた国は一体どうなるんだ。」
「俺の知った事か。」
レティシアは呻いた。神々は往々にして、自分勝手である。
「駄目だ!それだけは、やっちゃダメな奴だ!」
「同じ事だと思うんだが。」
「全然違う!」
クラウスを国を滅ぼした大罪人にしたくないレティシアは必死である。ただ、クラウスにばかり稼がせても申し訳ないという気持ちもあった。
「そんな事をしなくても、十分だ。足りなくなったら、私もどこかで働き口を探せばいいんだから。」
「レティシア。やはり国を陥とせという事だな?」
「そんな事は言っていない!」
慌てるレティシアに、クラウスはくすくすと笑って、椅子の上から彼女を軽々と抱き上げた。向かう先はもう察しがついて、レティシアは真っ赤になる。
「ゆ、夕食の時間が・・・・。」
「お前が先だ。」




